「施設長は管理監督者だから、残業代も深夜の割増も払わなくてよい」。介護施設でこう考えているなら、見直すべき点が2つあります。
1つ目は、管理監督者に当たる場合でも、深夜(午後10時から午前5時まで)に働いた時間には割増賃金を支払わなければならないことです。これは最高裁判所の判決で示されています。
2つ目は、施設長自身が夜勤に入っている場合、その前提である「管理監督者に当たる」ということ自体が成り立っていない可能性が高いことです。
この記事は、小規模の介護施設のうち、施設長や管理者が夜勤のローテーションや欠員の穴埋めに入ることがある事業所に向けたものです。深夜割増の考え方と、施設長が管理監督者に当たるかをチェックする方法を整理します。
結論:深夜割増は必要。その前に「施設長は管理監督者か」を確かめる
当事務所には、「施設長なので管理監督者ですよね?」というご質問が寄せられます。ただ、勤務の実態を伺うと、労働基準法上の管理監督者の要件を満たしていないケースの方がはるかに多いのが実感です。
労働基準法41条2号の「管理監督者」は、事業所の中での役職名で決まるものではありません。労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にあるかどうかを、名称にとらわれず実態で判断する、というのが厚生労働省の示す考え方です(厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」)。
介護施設の現場では、次の3つの理由で「施設長は管理監督者」と考えられていることが少なくありません。どれも、それだけでは管理監督者に当たる根拠になりません。
| よくある思い込み | 実際 | 詳しくは |
|---|---|---|
| 施設長という役職だから | 役職名では決まらず、実態で判断される | 第4章 |
| 介護保険の基準で管理者として配置しているから | 介護保険の人員基準と労働基準法は別の制度であり、根拠にならない | 第3章 |
| シフトを作る権限があるから | シフトの作成は、それだけで管理監督者に当たる根拠にはならない | 第4章 |
この記事は、次の順序で進めます。まず第2章で、検索された疑問そのものである「管理監督者に深夜割増は必要か、どう計算するか」に答えます。そのうえで第3章・第4章では、自社の施設長が本当に管理監督者に当たるのかを、介護施設の実態に即してチェックします。第5章では、当たらなかった場合に起きることを扱います。当たらない場合、問題は深夜割増だけでは済まず、時間外労働と休日労働の割増賃金にも及ぶためです。
管理監督者に深夜割増が必要な理由と、計算のしかた
労働時間の規定は外れても、深夜の規定は外れない
労働基準法41条は、管理監督者について「労働時間、休憩及び休日に関する規定」を適用しないと定めています。時間外労働や休日労働の割増賃金を払わなくてよいのは、この規定によるものです。
一方、深夜(午後10時から午前5時まで)に働かせた時間の割増賃金は、37条4項に定められています。深夜業の規定は、41条で適用が外れる「労働時間、休憩及び休日に関する規定」には含まれません(e-Gov法令検索 労働基準法)。
この点は、最高裁判所の判決で明確にされています(最高裁第二小法廷 平成21年12月18日判決、いわゆる「ことぶき事件」)。この事件では、高等裁判所が「総店長は管理監督者に当たるので、深夜割増を含めて割増賃金の請求は認められない」と判断していました。最高裁はこれを誤りとして破棄し、管理監督者に当たる労働者も深夜割増賃金を請求できると判断しています。
「管理監督者だから割増賃金は一切不要」という誤解は、裁判所でも一度は採られたほど根強いものです。施設長を管理監督者として扱っている場合でも、夜勤に入った日の深夜の時間には、割増賃金の支払いが必要です。
計算の手順:役職手当も基礎に入れる
管理監督者の深夜割増は、次の手順で計算します。法律上の深夜の割増率は25%以上です。
- 計算の基礎になる月給を決める。割増賃金の計算の基礎から除いてよいのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に限られます(労働基準法37条5項、同法施行規則21条)。役職手当はこれに当たらないため、基礎に含めます。
- 1時間あたりの単価を出す。基礎となる月給を、月平均所定労働時間で割ります。
- 深夜割増を計算する。単価の25%に、深夜に働いた時間数を掛けます。
管理監督者の月給には、深夜に働いた時間の通常の賃金分がすでに含まれていると考えられます。そのため、別に支払うのは「単価の25%増しの部分」とするのが一般的な実務の扱いです。
夜勤では、深夜の時間が長くなります。たとえば17時から翌9時までの16時間夜勤で、休憩を深夜帯の外で取る場合、午後10時から午前5時までの7時間がまるごと深夜割増の対象です。休憩を深夜帯の中で取る場合は、その時間を差し引きます。

仮に、次の条件で計算すると、1回の夜勤で約3,390円、月4回で約1万3,560円の深夜割増が必要になります。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 基本給+役職手当 | 28万円+3万円=31万円 |
| 月平均所定労働時間 | 160時間 |
| 1時間あたりの単価 | 31万円÷160時間=1,937.5円 |
| 深夜割増(1時間あたり) | 1,937.5円×25%=約484円 |
| 1回の夜勤(深夜7時間) | 約3,390円 |
| 月4回の場合 | 約1万3,560円 |
※数値は説明のための仮のものです。月平均所定労働時間は、就業規則で定める所定労働時間をもとに計算します。
なお、夜勤明けの日の扱いについては「介護職員の夜勤明けは休日扱いにできるか」で整理しています。また、労働基準監督署の許可を受けた「宿直」は、夜勤とは扱いが異なります。違いは「介護施設の夜勤と宿直は何が違うのか」をご覧ください。
夜勤手当・役職手当で「払ったことにできる」条件
施設長に定額の夜勤手当や役職手当を支給していて、その中に深夜割増も含まれていると考えている事業所もあるかもしれません。
最高裁は先の判決で、管理監督者の所定賃金が、就業規則などによって「一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合」には、その額の限度で深夜割増を別に払う必要はない、としています。
逆に言えば、次のような状態では、「含める趣旨が明らか」とは言いにくくなります。
- 就業規則や賃金規程に、夜勤手当・役職手当が深夜割増を含むという記載がない
- 記載はあっても、何時間分・いくら分が深夜割増なのかが分からない
- 夜勤の回数が増え、実際の深夜割増の額が手当の額を上回っているのに、差額を払っていない
実務上は、「夜勤手当(または役職手当)のうち、月○時間分・○円を深夜割増賃金として支給する。実際の深夜割増賃金がこれを超えた場合は、差額を支給する」というように、時間数・金額・差額の扱いを規程に明記しておくのが安全です。規程を作ったのがかなり前で、こうした記載がない場合は、見直しを検討する価値があります。
介護保険の「施設長・管理者」と、労働基準法の「管理監督者」は別の制度
介護保険が求めているのは「常勤の管理者を置くこと」
介護保険の事業所には、サービスの種類ごとに、管理者を置くことが人員基準で定められています。
たとえば認知症対応型共同生活介護(グループホーム)では、共同生活住居ごとに、専らその職務に従事する常勤の管理者を置くことが求められています。ただし、住居の管理上支障がない場合は、同じ住居の他の職務に従事したり、他の事業所の職務と兼務したりできます(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第91条)。小規模多機能型居宅介護でも、管理業務に支障がなければ、その事業所の従業者としての職務との兼務が認められています(厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 資料)。
なお、これらの基準は現在、国の基準省令をもとに、各自治体が条例で定めています。細部は指定を受けた自治体の基準で確認してください。
この人員基準は、事業所が利用者にサービスを提供するために満たすべき体制を定めたものです。一方、労働基準法の管理監督者は、労働時間・休憩・休日の規制を例外的に外す仕組みです。目的がまったく異なるため、介護保険の基準に従って管理者を配置したことが、その人を労働基準法上の管理監督者にするわけではありません。
人員基準の「常勤」は勤務時間数で決まる
もう一歩踏み込むと、2つの制度の違いはさらにはっきりします。
人員基準でいう「常勤」は、その事業所で定めた常勤の従業者が勤務すべき時間(32時間を下回る場合は32時間が基本)に、勤務時間が達していることを指します。つまり施設長・管理者は、介護保険の制度上、勤務時間数によって配置を確認される立場です。
加えて、先に見た兼務の規定により、管理者が介護の現場に入ったり、夜勤の職員として勤務したりすることも、制度上想定されています。
こうして見ると、介護保険の制度は施設長を「決まった時間、事業所で勤務する人」として位置づけていると読めます。労働基準法の管理監督者が「労働時間の規制になじまない立場」の人とされていることとは、向きが逆です。
同じ「常勤」という言葉でも、制度によって意味や使われ方が異なる点は、「常勤の社会保険加入、医療法の「常勤32時間」で判断してはいけない理由」でも整理しています。
では、兼務として夜勤に入る施設長は、労働基準法の管理監督者の要件に照らすとどう評価されるのでしょうか。次の章で具体的にチェックします。
夜勤に入る施設長を、3つの要素でチェックする
管理監督者に当たるかどうかは、次の3つの要素について、実態をもとに総合的に判断されます。
- 職務内容・責任と権限
- 勤務態様
- 賃金等の待遇
この判断要素を具体的に示した行政通達として、多店舗展開する小売業・飲食業の店長を対象としたもの(平成20年9月9日基発第0909001号)があります。この通達は、店長などの少数の正社員と多数のパート・アルバイトで運営される小規模な店舗を念頭に置いています(厚生労働省 通達本文)。
介護施設に直接適用される通達ではありません。ただ、「法人本部の下に小規模な拠点があり、拠点の長が少数の正職員とパートとともに現場を回す」という構造は、小規模な介護施設とよく似ています。判断の考え方として参考になります。
通達は、管理監督者性を否定する要素を2つの強さに分けています。単独でも否定に強く働く「重要な要素」と、他の要素と合わせて否定を補強する「補強要素」です。また、挙げた要素はいずれも否定の方向のものであり、これに当たらないからといって直ちに管理監督者と認められるわけではない、とも明記されています。
① 権限:シフトを作ることと、採用・解雇・人事考課を決めることは別
通達は「職務内容、責任と権限」について、次の4つの責任と権限が実質的にない場合を、いずれも否定の重要な要素としています。
- パート・アルバイト等の採用(人選のみを行う場合も含む)
- パート・アルバイト等の解雇
- 部下の人事考課
- 勤務割表(シフト)の作成や、所定時間外労働の命令
シフトの作成は、この4つのうちの1つにすぎません。シフトを作る権限があっても、採用・解雇・人事考課に実質的に関わっていなければ、否定の重要な要素は残ります。
当事務所が中小の介護事業所で目にするのは、次のような実態です。
- 採用面接は施設長がするが、誰を採るかは理事長や法人本部が決めている
- 給与や昇給は施設長が決められない
- シフトは作るが、人員を増やすかどうかは決められない
こうした実態は、通達の重要な要素に当てはまる可能性があります。
裁判例にも、この点を示すものがあります。訪問看護ステーションの管理者について争われた事件(アルデバラン事件、横浜地裁 令和3年2月18日判決)では、管理者が職員のシフト表の作成・変更や、他の職員の時間外勤務申請への承認を担当していました。それでも、管理監督者には当たらないと判断されています。介護施設ではなく訪問看護の事例ですが、「シフトを作っていること」が決め手にならないことを示しています。
反対に、管理監督者と認められた例もあります。医療法人の本部で人事第二課長として看護婦の募集業務の責任者を務めていた職員について、管理監督者に当たるとした判決です(徳洲会事件、大阪地裁 昭和62年3月31日判決)。この職員は、自分の判断で募集の業務計画を立てて実行する権限を持ち、本部や各病院の人事担当職員を指揮・命令する立場にありました。また、タイムカードは打刻していたものの、実際の労働時間は本人の裁量に任されていました。採用の実務を自ら動かす権限と、時間の裁量の両方があった点が、否定された例との違いです。
② 勤務態様:欠員が出たら自分で夜勤に入る
通達は「勤務態様」について、次の要素を挙げています。
- 遅刻・早退などにより、減給や人事考課での不利益な取扱いを受ける場合(重要な要素)
- パート・アルバイト等の人員が足りないときに自らその業務に入らざるを得ないなどにより、長時間労働を余儀なくされ、実際には労働時間の裁量がほとんどない場合(補強要素)
- 管理監督者としての職務も行うが、部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合(補強要素)
小規模な介護施設では、施設長が夜勤のローテーションに組み込まれていたり、欠員が出たときに夜勤に入ったりすることがあります。これは補強要素に当てはまりやすい働き方です。
補強要素は、それだけで否定が決まるものではありません。ただ、①で見た権限の重要な要素と重なると、否定の方向は強まります。問われているのは夜勤に入ること自体ではなく、「入るかどうかを自分で決められるか」「入らなければ施設が回らない状態か」という点です。
なお、施設長の遅刻・早退の時間分を給与から控除している場合は、それ自体が重要な要素に当たります。

③ 待遇:時間単価で部下と比べる
通達は「賃金等の待遇」について、次の要素を挙げています。
- 基本給や役職手当などの優遇が、実際の労働時間を考えると十分でない場合(補強要素)
- 1年間の賃金の総額が、一般の労働者と同程度以下の場合(補強要素)
- 長時間労働の結果、時間単価に直した賃金がパート・アルバイト等を下回る場合(重要な要素)
- 特に、時間単価が最低賃金を下回る場合(きわめて重要な要素)
施設長の月給を、夜勤を含む実際の労働時間で割ってみてください。その時間単価が、残業代や夜勤手当を受け取っている部下を下回っていないでしょうか。小規模な施設では、施設長の給与に大きな上乗せをする余裕がないことも多く、夜勤や長時間の勤務が重なると、時間単価は下がりやすくなります。
夜勤に入る小規模施設の施設長は、否定の要素が重なりやすい
判断は総合的に行われます。1つの要素に当てはまったからといって、直ちに管理監督者でないと決まるわけではありません。
ただ、夜勤に入る小規模施設の施設長は、次の3つが同時に起きやすい立場にあります。
- 採用や人事考課の実質的な権限を本部が持っている(重要な要素)
- 欠員時に自ら夜勤に入る(補強要素)
- 長時間の勤務で時間単価が下がる(重要な要素になりうる)
「施設長だから管理監督者」と考える前に、自社の施設長の働き方をこの3つの要素に当てはめてみることをおすすめします。
管理監督者に当たらない場合に起きること
深夜割増だけでなく、時間外・休日の割増も必要になる
施設長が管理監督者に当たらないと判断されると、41条による適用除外はなくなり、一般の職員と同じように労働時間の規定が適用されます。支払いが必要になるのは、深夜割増だけではありません。
| 割増の種類 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働 | 25%以上(月60時間を超える部分は50%以上) |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
| 深夜(午後10時〜午前5時)の労働 | 25%以上(時間外や休日の割増と重なる場合は加算) |
夜勤に入る施設長の場合、特に注意が必要なのが時間外労働です。労働基準法は、1日8時間・週40時間を超える労働を原則として時間外労働としています。16時間夜勤を1日8時間を超えない扱いにできるのは、1か月単位の変形労働時間制を就業規則などで定め、勤務表で各日の労働時間をあらかじめ特定するなど、要件を満たして運用している場合に限られます。
施設長を「管理監督者だから」と考え、勤務表や労働時間の管理の対象から外していた場合、この要件を満たしていない可能性があります。そうなると、夜勤のうち8時間を超える部分が時間外労働として扱われることになり、深夜割増とあわせて、未払いの額は大きくなりやすくなります。変形労働時間制の要件については、「クリニックに1か月単位の変形労働時間制は必要か」で整理しています。
また、施設長も36協定の対象者に含まれることになるため、協定で定めた時間や上限を超えていないかも問われます。
3年分さかのぼり、裁判では付加金も
いわゆる「名ばかり管理職」の状態で払っていなかった割増賃金は、さかのぼって請求される可能性があります。賃金の請求権の時効は、法律上は5年とされていますが、当分の間は3年とされています(労働基準法115条、附則143条)。
さらに、裁判で未払いが認められた場合、裁判所は未払い額と同じ額までの「付加金」の支払いを命じることができます(同法114条)。
先に紹介したアルデバラン事件は、訪問看護ステーションの管理者の管理監督者性や、オンコール待機が労働時間に当たるかが争われた事件です。この事件では、未払いの割増賃金に加えて、付加金783万円余りの支払いが命じられました。
自社の施設長の扱いに確信が持てない場合、どこまでを外部に任せられるかは業務案内ページをご覧ください。
自社の施設長をチェックする観点
8つのチェック項目
ここまでの内容を、自社の施設長に当てはめて確認するための項目です。いずれも、手元の資料で確かめられます。
| 区分 | 確認すること | 見る資料 |
|---|---|---|
| 権限 | パート等を採用するかどうかを、最終的に決めているのは誰か | 採用の稟議・決裁の記録 |
| 権限 | 解雇や部下の人事考課に、施設長が実質的に関わっているか | 人事考課表、就業規則 |
| 権限 | シフトの最終決定や、人員を増やす判断を施設長ができるか | 勤務表の承認の流れ |
| 勤務態様 | 夜勤のローテーションに組み込まれていないか。欠員が出たときに入らざるを得ない状態になっていないか | 過去数か月分の勤務表 |
| 勤務態様 | 遅刻・早退の時間分を給与から控除したり、評価を下げたりしていないか | 賃金台帳、給与規程 |
| 待遇 | 月給を実際の労働時間で割った時間単価が、部下の賃金や最低賃金を下回っていないか | 賃金台帳、労働時間の記録 |
| 規程 | 就業規則や賃金規程に、夜勤手当・役職手当と深夜割増の関係が書かれているか。その規程はいつ作ったものか | 就業規則、賃金規程 |
| 記録 | 施設長の労働時間の記録(タイムカードなど)があるか | 勤怠の記録 |
権限の項目で「本部や理事長が決めている」、勤務態様の項目で「当てはまる」が多いほど、管理監督者と認められにくくなります。
規程のチェックでは、就業規則がそもそも実態に合っているかも確認してください。小規模な事業所で就業規則を整えておく意味については、「クリニックに就業規則は必要か?10人未満でも整備すべき理由」で解説しています。
自社で進められること、専門家に確認すべきこと
チェックの結果にかかわらず、自社ですぐに進められることが2つあります。
1つ目は、施設長の労働時間を記録することです。管理監督者であっても、事業者には労働時間の状況を把握する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3)。記録は、健康管理のためだけでなく、深夜割増を正しく計算するための前提にもなります。複数の施設がある場合の記録の方法は、「クラウド勤怠管理で介護の複数施設は何が変わるか?」も参考にしてください。
2つ目は、施設長が夜勤に入った日の深夜割増を、今後の分から計算して支給することです。深夜割増は、管理監督者に当たるかどうかにかかわらず必要な支払いだからです。
一方、次のような判断は、就業規則や賃金台帳、実際の勤務の実態を確認しないと誤りやすい領域です。
- 施設長が管理監督者に当たるかどうかの最終的な判断
- 過去に払っていなかった分をどう扱うか
- 管理監督者としての扱いをやめる場合の賃金の設計
- 定額の夜勤手当が深夜割増の支払いに当たらない場合に、その手当を割増賃金の計算の基礎にどう含めるか
特に3つ目は注意が必要です。役職手当の減額や固定残業代の見直しを伴う場合、労働条件の不利益変更の問題が生じる可能性があります。
これらについては、顧問の社会保険労務士など専門家に確認したうえで進めることをおすすめします。
よくある質問
Q1. 施設長は36協定の過半数代表者になれますか?
管理監督者は、36協定を結ぶ際の過半数代表者になれません(労働基準法施行規則6条の2第1項1号)。管理監督者に当たるかどうかがはっきりしない施設長を代表者に選ぶと、協定そのものの有効性が争われるおそれがあります。施設長以外の職員から、投票や挙手などの民主的な方法で選ぶ方が安全です。36協定で起きやすい誤りは「クリニック・歯科医院の36協定。出していても無効になる4つの落とし穴」で解説しています。
Q2. 管理監督者にも有給休暇や年5日の取得義務はありますか?
あります。年次有給休暇の規定(労働基準法39条)は、41条で適用が外れる「労働時間、休憩及び休日に関する規定」に含まれません。年10日以上の有給休暇が付与される管理監督者には、年5日を確実に取得させる義務も一般の職員と同じように適用されます。
Q3. 管理監督者が休日に出勤した場合、割増賃金は必要ですか?
管理監督者に当たる場合、休日に関する規定は適用されないため、休日の割増賃金は不要です。ただし、休日の勤務が深夜(午後10時〜午前5時)に及べば、その時間の深夜割増は必要です。管理監督者に当たらない場合は、法定休日の労働に35%以上の割増賃金が必要になります。
Q4. 管理監督者にもタイムカードなどの記録は必要ですか?
必要です。事業者は、管理監督者を含む労働者の労働時間の状況を、タイムカードやパソコンの使用時間の記録など、客観的な方法で把握しなければなりません(労働安全衛生法66条の8の3、同規則52条の7の3)。この記録は、長時間労働者への医師の面接指導を適切に行うためのものです。深夜割増を正しく計算するための前提にもなります。
Q5. 夜勤に入る施設長も、深夜業の健康診断の対象ですか?
深夜業に常時従事している場合は、役職にかかわらず、6か月以内ごとに1回の健康診断の対象になります(労働安全衛生規則45条)。管理監督者だからという理由で対象から外れることはありません。「常時従事」に当たるかの判断のしかたや受けさせる時期は、「介護施設の夜勤者の健康診断はいつ受けさせるか」で詳しく解説しています。
Q6. 施設長を管理監督者の扱いから外すには、何が必要ですか?
一般の職員と同じように、労働時間の管理、勤務表(変形労働時間制を採る場合はその対象とすること)、36協定の対象に組み込む必要があります。あわせて、時間外割増の支払いを前提にした賃金の設計の見直しが必要です。役職手当の減額などを伴う場合は、労働条件の不利益変更に当たる可能性があるため、進め方に注意が必要です。考え方は「クリニックの固定残業代、やめるには。廃止の手順と不利益変更の実務」で整理しています。
まとめ
- 管理監督者に当たる場合でも、深夜割増は必要です。施設長が夜勤に入れば、午後10時から午前5時までの時間について、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。これは最高裁判所の判決で示されています。
- 施設長という役職、介護保険の人員基準にもとづく管理者としての配置、シフトを作る権限は、いずれもそれだけでは管理監督者の根拠になりません。採用や人事考課の実質的な権限を本部が持ち、欠員が出れば自ら夜勤に入る小規模施設の施設長は、管理監督者性を否定する要素が重なりやすい立場です。
- 管理監督者に当たらなければ、深夜割増に加えて時間外・休日の割増賃金も必要になり、さかのぼって請求される可能性があります。まずは施設長の労働時間の記録と、深夜割増の支給から始めてください。
賃金請求権の時効の経過措置や、介護保険の人員基準(各自治体の条例)は、今後変わる可能性があります。また、管理監督者については、健康・福祉確保措置の検討を含めて、労働基準法の見直しに向けた議論が続いています(厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」)。最新の情報は、厚生労働省や指定を受けた自治体の公式情報で確認してください。自社の施設長の扱いに迷う場合は、労働基準監督署や顧問の社会保険労務士など、専門家に確認したうえで進めることをおすすめします。



