夜間に職員を置いている介護事業所で、その勤務を「宿直」と呼んでいるところは珍しくありません。ただ、そう呼んでいることと、労働基準法上の宿直に当たることは別の話です。
夜勤と宿直は、呼び方が違うだけの勤務ではありません。その時間を労働時間として数えるかどうかが変わり、割増賃金の要否が変わります。取り違えたまま運用を続けると、不足していた賃金が過去にさかのぼって積み上がることになります。
この記事では、夜勤と宿直が何によって分かれるのかを整理したうえで、施設類型ごと、職種ごとに、自施設の夜間勤務がどちらに当たるのかを判定できるところまで扱います。読み終えたときに、自施設の体制を自分で確かめられる状態を目指します。
1. 夜勤と宿直は何が違うのか
先に結論をお伝えします。両者を分けるのは、勤務の呼び方でも、拘束時間の長さでもありません。労働基準監督署長の許可を受けているかどうかと、実際の勤務の中身です。この2つが揃わなければ、その勤務は労働基準法上の夜勤です。
夜勤は、通常の労働時間です
夜勤は、日勤と同じ通常の労働です。時間帯が夜に移っているだけなので、労働時間・休憩・割増賃金の規定がそのまま適用されます。
1日8時間・週40時間の枠(労働基準法32条)に入り、これを超えれば時間外労働として割増賃金が必要です。労働時間が6時間を超えれば45分以上、8時間を超えれば1時間以上の休憩を、労働時間の途中に与えなければなりません(同34条)。そして午後10時から午前5時までの労働には、25%以上の深夜割増賃金がかかります(同37条4項)。
16時間夜勤であれば、休憩は1時間以上。深夜割増の対象になるのは、午後10時から午前5時までのうち実際に労働した時間です。この時間帯に休憩を挟めばその分は対象から外れ、挟まなければ最大7時間分になります。
なお、夜勤16時間を週の所定労働時間としてどう数えるかは、社会保険や雇用保険の加入判定にも関わってきます。
宿直は、労働時間規制の「適用除外」です
一方の宿直は、労働基準法41条3号にいう「監視又は断続的労働に従事する者」に当たるものとして、所轄の労働基準監督署長から許可を受けた勤務です(労働基準法施行規則23条)。東京労働局の案内では、許可を受けた場合、その許可の範囲で労働基準法上の労働時間規制が適用除外になると説明されています。
ここで、他の解説と違う説明をします。宿直の労働時間の扱いを「法定労働時間外」と書いている記事をよく見かけますが、これは正確ではありません。時間外労働であれば、36協定の締結・届出と割増賃金が必要になります。宿直はそうではなく、規制の枠の外に出る扱いです。時間として数えない、という整理になります。
この違いは言葉の細かさの問題ではなく、後の章の理解を左右します。「法定労働時間外」と覚えていると、「では36協定を出せばよいのか」という誤った方向に進んでしまうためです。
対比
| 夜勤 | 宿直(許可を受けたもの) | |
|---|---|---|
| 労働時間の扱い | 通常の労働時間として算定する | 適用除外(労働時間として算定しない) |
| 休憩 | 6時間超で45分、8時間超で1時間以上 | 規定の適用なし |
| 時間外・休日の割増賃金 | 必要 | 不要 |
| 深夜割増賃金 | 必要 | 必要 |
| 支払われるもの | 通常の賃金+割増賃金 | 宿日直手当(深夜割増賃金を含めて1人1日平均額の3分の1以上) |
| 回数の上限 | なし | 原則として宿直は週1回 |
| 必要な手続き | なし | 労働基準監督署長の許可(様式第10号) |
表の中で1か所だけ、宿直の側にも「必要」が残っています。深夜割増賃金です。許可を受けても、この義務は消えません。ここは誤解が多く、金額への影響も大きいため、第6章で改めて扱います。
そして最後の行が、この記事で最も重要な一行です。宿直に必要なのは届出ではなく許可です。書類を出したことと、許可を受けたことは違います。
2. 指定基準の「宿直職員」は、労基法の宿直ではない
介護の現場では、「宿直」という言葉が2つの意味で使われています。これが混乱の元になっています。
1つは、第1章で見た労働基準法上の宿直です。もう1つは、介護保険や老人福祉の指定基準に出てくる「宿直職員」です。同じ言葉ですが、根拠となる法律も、置かれている目的も違います。
特養の「宿直員」は、火災に備えるための配置でした
分かりやすい例が特別養護老人ホームです。
特養には長く、「夜勤職員とは別に宿直者を配置すること」という取扱いがありました。その根拠は介護保険の人員基準ではなく、「社会福祉施設における防火安全対策の強化について」という通知(昭和62年9月18日社施第107号)です。この取扱いは、特養の設備及び運営に関する基準の解釈通知でも、介護職員の勤務体制の項で示されてきました。
つまり、この宿直員は夜間の防火管理体制を確保するための配置であって、入所者の介護のための配置ではありません。
そしてこの取扱いは、その後変わりました。令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)の問178では、面積にかかわらずスプリンクラー設備の設置が義務付けられるなど消防用設備の基準が強化されたこと、他の施設系サービスで宿直員の配置が求められていないこと、人手不足により職員確保が困難であることなどを踏まえ、夜勤職員基準を満たす夜勤職員を配置していれば、夜勤職員とは別に宿直者を配置しなくても差し支えないとされています(これに伴い、平成27年度Q&A(Vol.1)の問137・問138は削除されました)。
ここで注目していただきたいのは、この宿直員の要否が、消防設備の普及と人手不足を理由に動いてきたことです。労働基準監督署の許可とは、まったく別の次元で決まっています。
同時に夜勤と宿直は共存できない
整理すると、次のようになります。
指定基準が問うているのは「夜間に何人、どの資格の職員がいるか」です。所管は都道府県・市町村で、確認の場は運営指導(実地指導)です。
労働基準法が問うているのは「その勤務時間を労働時間として扱うか、いくら払うか」です。所管は労働基準監督署で、確認の場は許可申請と監督指導です。
この2つは重なりません。指定基準を満たしていても、労働基準監督署長の許可がなければ、その勤務は労働基準法上は夜勤です。逆に、労働基準監督署の許可を得たとしても、それで指定基準の人員配置を満たしたことにはなりません。

運営指導で問題ないからと言って、労務の適法ではない
そのため、「運営指導で指摘されなかったから、うちの夜間体制は問題ない」という判断は成り立ちません。運営指導で確認されるのは人員配置と運営基準であり、その勤務を宿直として扱ってよいかどうかは、そもそも確認の対象に入っていないためです。
自施設の夜間勤務を「宿直」と呼んでいるのであれば、確かめるべきは指定基準ではありません。労働基準監督署長の許可があるかどうかです。次章では、その要件と、自施設に許可があるかどうかの確認方法を見ていきます。
3. 宿直とするために必要なもの
宿直に必要なのは「許可」
第1章の最後に書いたとおり、宿直に必要なのは届出ではなく許可です。この違いは形式の話ではありません。
届出であれば、書類を出した時点で効力が生じます。許可はそうではありません。申請書を提出し、労働基準監督署の審査を経て、許可を受けてはじめて適用除外の効果が生じます。申請したが許可が下りなかった、という結果もあり得ます。
申請に使うのは「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」(様式第10号)で、根拠は労働基準法41条3号と労働基準法施行規則23条です。
自施設に許可があるかを確認する方法
許可されると、労働基準監督署から「断続的な宿直又は日直勤務許可書」が交付されます。東京労働局の案内によれば、この許可書には宿日直の回数などの内容に関する「付款(ふかん)」が記載されており、事業所はその付款の内容にのっとって宿日直を行う必要があります。
したがって、確認の手順は次のようになります。
- 施設内に許可書の原本があるかを確認する
- 許可書の付款に、どのような条件(回数、対象、時間帯など)が付いているかを読む
- 現在の運用が、その条件の範囲に収まっているかを照合する
前任者からの引き継ぎがなく許可書が見当たらない場合は、所轄の労働基準監督署に照会することになります。「昔から宿直と呼んでいるので、許可はあるはずだ」という状態が最も危険です。
許可の要件
岩手労働局の資料に基づき、要件を整理します。
(1)勤務の態様
常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務に限られます。目的として認められるのは、定期的巡視、緊急の文書または電話の収受、非常事態に備えての待機などです。通常の労働の継続は、原則として許可されません。本来業務の始業または終業時刻に密着した時間帯に行うものも対象外です。
なお、待機している時間が労働時間に当たるかどうかは、宿直に限らず問題になります。待機時間や移動時間が労働時間になるかの考え方は、訪問系サービスを例に整理しています。
(2)社会福祉施設の場合の上乗せ基準
介護事業所にとって最も重要なのがここです。社会福祉施設については、次のように定められています。
通常の勤務時間の拘束から完全に解放されたものであり、夜間に従事する業務は、一般の宿直業務のほかには、少数の入所児・者に対して行う夜尿起こし、おむつの取替え、検温等の介助作業であって、軽度かつ短時間の作業に限られます。夜間における生活指導、起床後の着衣指導など、通常の労働と同じ態様の業務は含まれません。
そして、この「軽度」と「短時間」には具体的な説明が付いています。
- 軽度:おむつ取替えや夜尿起こしであっても、要介護者を抱きかかえる等、身体に負担がかかる場合は含まれない
- 短時間:介助作業が一勤務中に1回ないし2回含まれることを限度として、1回の所要時間が通常10分程度のもの
数字が示されている点に注目してください。一晩に1回から2回、1回10分程度です。この水準を超える介助が常態的に発生しているなら、それは宿直ではありません。
(3)宿日直手当
宿直勤務1回の宿直手当は、深夜割増賃金を含めて、同種の労働者に支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らない額である必要があります。ここでいう賃金は、労働基準法37条の割増賃金の基礎となる賃金に限られます。つまり、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つは除いて計算します。
この7つは限定列挙で、これ以外の手当は除けません。また、該当するかどうかは名称ではなく実態で判断されます。全員に一律の額で支給している住宅手当は、名称が住宅手当であっても除外できないとされています。
計算式は次のとおりです。
宿直勤務総員数の1か月所定内賃金額合計 ÷(1か月所定労働日数 × 宿直勤務総員数 × 3)≦ 宿直手当額
第1章で「宿直でも深夜割増賃金は必要」と書いた意味が、ここで具体的になります。別途上乗せして払うのではなく、宿日直手当が深夜割増賃金を含んだ額として、この下限を満たしている必要がある、という構造です。
(4)回数
原則として、宿直は週1回、日直は月1回が限度です。ただし、事業場に勤務する18歳以上で法律上宿直を行いうるすべての者に宿直をさせてもなお不足し、かつ勤務の労働密度が薄い場合には、週1回を超える許可が認められる場合があります。
(5)睡眠設備
申請時に睡眠場所の見取図や写真の提出が求められます。設備の実在が確認されるということです。
申請に必要な資料
岩手労働局の資料では、次の6点を各2部提出することとされています。
- 断続的な宿直又は日直勤務許可申請書(様式第10号)
- 対象労働者の労働の態様が分かる資料(タイムスケジュール、業務マニュアル、業務日報等。巡回がある場合は経路を示す図面)
- 就業規則(該当部分)
- 支払われるべき宿日直手当の最低額が分かる資料(宿日直手当計算書、賃金台帳の写し)
- 勤務数が分かる資料(シフト表)
- 睡眠設備の概要が分かる資料(見取図、写真)
3番目に就業規則が入っていることに注意してください。宿直の規定が就業規則になければ、申請の段階で止まります。
様式第10号と様式第14号
労働基準法41条3号には、もう1つの許可があります。「監視又は断続的労働に従事する者」に対する適用除外許可(様式第14号、労働基準法施行規則34条)です。
2つは、その労働者の本来の業務が何かで分かれます。
様式第10号(宿日直)は、本来の業務とは別に、付随的に宿直・日直を行う場合の許可です。日中は通常の業務に就いている職員が、夜間に宿直に入る場合がこれに当たります。
様式第14号(監視・断続的労働)は、その業務自体が監視または断続的労働である場合の許可です。断続的労働とは、休憩は少ないものの手待ち時間が多い業務で、手待ち時間が実作業時間を上回るものが対象になります。修繕係のように通常は業務が閑散で事故に備えて待機するものなどが挙げられています。
なお、断続的労働と通常の労働が1日の中で混在する業務や、日によって反復する業務は、様式第14号の許可を受けられないとされています。
どちらの許可であっても、深夜労働に関する規定の適用は除外されません。
4. 施設類型別に見る、宿直が成り立つ余地
ここまでの内容を、自施設に当てはめていきます。
指定基準の書きぶりは類型によってかなり違い、大きく3つのグループに分かれます。どのグループに属するかで、出発点が変わります。

グループA:指定基準に「夜勤」しか出てこない類型
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、短期入所生活介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホーム)がここに入ります。
これらの夜間の人員配置は、「厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準」(平成12年厚生省告示第29号)などで定められています。求められているのは夜勤職員の数であり、宿直職員ではありません。
グループホームはさらに明確です。基準で求められる「夜間及び深夜の勤務」は、条文上「宿直勤務を除く」と定義されています。つまり、宿直で代替することが制度上できません。
特養の「宿直員」については第2章で見たとおりで、これは防火のための配置です。介護のための配置ではありませんし、労働基準監督署の許可とも関係がありません。
このグループでは、夜勤職員として配置している職員を宿直に切り替えることはできません。身体介助を行う以上、前章の(1)と(2)の要件を満たさないためです。
グループB:指定基準に「宿直」が出てくる類型
小規模多機能型居宅介護と養護老人ホームです。読者が最も混乱するのがここです。
小規模多機能型居宅介護は、夜間及び深夜の時間帯に夜勤職員1以上と宿直職員1以上の両方を求めています。自治体の手引きでは、宿泊サービスの利用者が1人であっても、訪問サービスへの対応のため夜勤1名と宿直1名の計2名が最低限必要とされています。ただし、宿泊サービスの利用者がいない場合で、夜間及び深夜の時間帯を通じて訪問サービスを提供するために必要な連絡体制を整備しているときは、これらを置かないことができるとされています。
養護老人ホームは、夜間及び深夜の時間帯を通じて1以上の職員に、宿直勤務または夜勤のいずれかを行わせることとされています(養護老人ホームの設備及び運営に関する基準12条11項)。設備基準にも宿直室が挙げられています。入所者の自立度が比較的高いことが背景にあります。
グループC:介護保険の人員基準がそもそもない類型
住宅型有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅です(特定施設の指定を受けている場合はグループAになります)。
これらには、介護保険の指定基準としての夜間人員配置がありません。有料老人ホームの標準指導指針やサービス付き高齢者向け住宅の登録基準による枠組みはありますが、「夜勤何人」という形で定められているわけではありません。
このグループでは、指定基準に照らしても答えが出ません。労働基準法だけで判断することになります。
整理
| 類型 | 指定基準上の夜間配置 | 労基法上、宿直の余地は |
|---|---|---|
| 特養 | 夜勤職員(別に防火目的の宿直員の取扱いがあったが、現在は夜勤職員基準を満たせば不要) | 夜勤職員については、なし |
| 老健 | 夜勤職員 | なし |
| 短期入所生活介護 | 夜勤職員 | なし |
| グループホーム | 夜勤(条文上「宿直勤務を除く」) | なし |
| 特定施設(介護付有料) | 夜間帯の看護・介護職員1人以上 | 夜間帯の配置職員については、なし |
| 小規模多機能 | 夜勤1以上+宿直1以上 | 宿直職員について、検討の余地あり |
| 養護老人ホーム | 宿直または夜勤で1以上 | 検討の余地あり |
| 住宅型有料・サ高住 | 介護保険の人員基準なし | 検討の余地あり |
「検討の余地あり」は「許可が下りる」ではありません
ここが最も誤解されやすいところです。
グループBとCで「検討の余地あり」としたのは、指定基準の側が宿直を否定していない、という意味にすぎません。労働基準監督署長の許可が下りるかどうかは、まったく別の話です。
判断されるのは、前章で見た要件です。夜間の介助が、一勤務中に1回ないし2回、1回10分程度に収まっているか。要介護者を抱きかかえるような負担がないか。通常の勤務時間の拘束から完全に解放されているか。
小規模多機能で宿直職員を置いていても、その職員が夜間に訪問要請を頻繁に受けているなら、要件を満たしません。養護老人ホームで宿直室を備えていても、実態として夜間の介助が続いているなら同じです。指定基準は入口にすぎず、出口は実態で決まります。
そのうえで、もう1つの道があります。施設全体ではなく、職種を限って考える方法です。次章で扱います。
5. 職種で分けられるか——介護職員は夜勤、看護師は宿直
ここまでの内容からすると、多くの介護事業所で夜勤職員を宿直にすることはできません。では、施設全体ではなく、職種ごとに考える余地はあるでしょうか。
介護職員は夜勤として扱い、夜間に待機する看護職員のみを宿直とする。この組み合わせが成り立つかどうかを検討します。
許可は、施設に一律である必要はありません
岩手労働局の資料には、宿日直の許可について次の趣旨が示されています。許可は1つの病院や診療所等において、所属診療科、職種、時間帯、業務の種類等を限って受けることができる。たとえば医師以外のみ、あるいは深夜の時間帯のみといった許可や、外来対応は許可基準に該当しないが病棟の宿日直業務のみは該当するという場合に、その業務に限定して許可を受けることが可能である、というものです。
つまり、許可の単位を職種や業務で区切るという考え方は、制度上存在します。施設で働く全員が宿直でなければならない、あるいは全員が夜勤でなければならない、というものではありません。
ただし、この記載が置かれているのは医師・看護師に関する項目で、挙げられている例はいずれも医療機関のものです。介護施設でそのまま同じ扱いになるかは、この資料からは読み取れません。
介護施設の看護職員には、どちらの基準が当たるのか
ここで論点が1つ生じます。
労働局の資料では、許可基準が勤務の態様ごとに書き分けられています。医師・看護師の場合の基準と、社会福祉施設の場合の基準です。
では、特別養護老人ホームや小規模多機能型居宅介護に勤務する看護職員は、どちらで見られるのでしょうか。看護職員である以上は前者なのか、勤務先が社会福祉施設である以上は後者なのか。
この点について、公的な資料で明示された取扱いを確認することはできませんでした。所轄の労働基準監督署に確認すべき事項として扱ってください。前章で挙げた申請資料(タイムスケジュール、業務日報、シフト表など)を持参して相談するのが現実的です。
どちらの基準でも、線の引かれ方は変わりません
もっとも、実務上はこの点で結論が大きく変わるわけではありません。2つの基準は、共通する考え方の上に立っているためです。
いずれも、通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであることを求めています。いずれも、従事してよい業務を軽度または短時間のものに限っています。そして社会福祉施設の基準では、許容される介助作業の例として検温が挙げられています。看護職員が行う定時の検温や巡回は、どちらの基準で見ても、範囲の内側に位置づけられる性質のものです。
問題になるのは、その外側です。
- 夜勤の介護職員の業務に応援で入る(おむつ交換、体位変換の手伝いなど)
- 日常的・定期的な医療処置が組まれている
- 日中と変わらない頻度でコール対応が発生している
これらがあれば、どちらの基準で見ても許可の範囲には収まりません。
職種を分けるなら、業務も分ける必要があります
この運用で最も難しいのは、申請時ではなく運用中です。
夜間の人員が少ない施設では、介護職員が立て込んでいるときに看護職員が手を貸す場面が出てきます。現場としては自然なことですが、それが常態になると、宿直の前提が崩れます。
東京労働局の案内にも、許可を得た後の注意として、人員の異動や業務内容の変更に伴い宿直中に通常勤務時間と同じ態様の業務に従事することが常態となっている場合には、勤務内容の見直しなどの対応が必要になる旨が示されています。許可は、取得して終わりではありません。
職種で分けるという判断をするのであれば、シフト表の上で分けるだけでは足りません。夜間に看護職員が何をするのかを業務として定め、そこから外れる作業が発生しない体制を作ることが前提になります。
そしてもし、実態として看護職員が介護業務に入らざるを得ないのであれば、それは宿直ではありません。その場合は夜勤として、労働時間を数えて割増賃金を支払う設計に切り替える方が、結果的にリスクは小さくなります。
6. 許可がないまま「宿直」と呼んでいる場合
ここまでの要件に照らして、自施設の夜間勤務が宿直に当たらない、あるいは許可が見当たらない、という結論になることがあります。その場合に何が生じるのかを整理します。
その時間は、すべて労働時間です
許可がなければ、適用除外の効果は生じません。呼び方が宿直であっても、宿直手当を支払っていても、労働基準法上はその時間がまるごと労働時間になります。
そこから次のことが順に問題になります。
- 時間外労働の割増賃金:1日8時間・週40時間を超える部分について必要です。夜間の拘束時間が長いほど、超過時間も大きくなります。
- 深夜割増賃金:午後10時から午前5時までの時間について必要です。
- 休憩:8時間を超える勤務であれば1時間以上を、労働時間の途中に与えなければなりません。与えていなければ、それ自体が法違反です。
- 36協定:法定労働時間を超えて働かせる以上、締結・届出がなければ労働基準法32条違反になります。
時間外労働の割増賃金の計算については、法定内残業と週40時間の判定を整理した記事があります。また、深夜業に従事する職員には、割増賃金とは別の義務も生じます。深夜業に常時従事する職員の健康診断は、回数の判定でつまずきやすい部分です。
なお、すでに支払っている宿直手当があっても、その分だけ不足が減るとは限りません。支払済みの手当が割増賃金の支払いとして扱われるためには、就業規則や賃金規程で、それが割増賃金として支払われるものだと定められており、通常の労働時間分の賃金と区別できる状態になっている必要があるとされています。割増賃金をあらかじめ定額で支払う仕組みについて、裁判ではこの区別がつくかどうかが繰り返し問われてきました。「宿直1回につき何円」とだけ定めている場合、この区別はつきません。手当を支払っていたことが、そのまま不足額の減額につながるとは限らないとお考えください。
許可があっても、安心とは限りません
許可を受けている場合でも、宿直中に通常の勤務時間と同じ態様の業務に従事した時間については、東京労働局の案内のとおり、労働基準法36条による時間外労働の手続をとり、37条の割増賃金を支払う必要があります。
利用者の急変対応のように、その夜だけ突発的に生じたものであれば、その時間分の処理で済みます。問題は、それが常態になっている場合です。同じ案内では、人員の異動や業務内容の変更に伴い、宿直中に通常勤務と同じ態様の業務に従事することが常態となっている場合には、勤務内容の見直しなどの対応が必要になるとされています。
許可書には回数などの条件が付款として記載されており、その内容にのっとった運用が求められます。許可は、一度取れば無期限に安全が保証されるものではありません。
遡る期間
賃金請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に支払期日が到来した賃金について、5年(当分の間は3年)とされています(厚生労働省のリーフレット)。付加金を請求できる期間も同様に5年(当分の間は3年)です。
ここで効いてくるのが、この問題が個人ではなく体制の問題であることです。夜間の運用は全員が同じ形で行っているため、1人について不足があれば、同じ勤務に就いていた職員全員について同じ構造の不足が生じています。3年分を人数分で見ると、金額は想定より大きくなります。
そして、その計算の材料になるのは、事業所自身が保管しているシフト表と賃金台帳です。実態の再現は難しくありません。
気づいた時点でできること
すでに宿直として運用してきた期間があると、手をつけにくく感じられるかもしれません。ただ、放置している間も不足は積み上がり続けます。
現実的な選択肢は2つです。要件を満たせる体制に整えたうえで許可申請に進むか、夜勤として労働時間を数える設計に切り替えるかです。どちらを選ぶにしても、出発点は現在の夜間勤務の実態を書き出すことになります。前章で挙げた申請資料が、そのまま整理の項目になります。
7. よくある質問
日勤のあとに宿直に入り、翌日も日勤という勤務は可能ですか
許可を受けた宿直であれば、その時間は労働時間として算定されないため、前後の日勤と連続したとしても、それ自体が直ちに法違反になるわけではありません。労働基準法上、宿直の翌日の勤務を制限する規定も置かれていません。
ただし、2つ注意点があります。
1つは、許可の要件として、本来業務の始業または終業時刻に密着した時間帯に行われる勤務は原則として許可されないとされている点です。日勤の終業直後に始まる時間帯をどう設定するかは、申請時に確認を受ける部分になります。
もう1つは、宿直中に実作業が生じればその時間は労働時間になるという点です。連続勤務の形が定着している場合、その実態が積み重なると、許可の前提そのものが問われます。
宿直の夜にほとんど眠れなかった場合、どう扱えばよいですか
その夜に実作業に従事した時間については、労働時間として扱い、時間外労働の手続と割増賃金の支払いが必要になります。
判断が分かれるのは、その頻度です。たまたま利用者の急変が重なった夜が年に数回あるという程度であれば、その都度の処理で足ります。一方、眠れない夜が月に何度もあるという状態であれば、それはもう「常態としてほとんど労働をする必要のない勤務」ではありません。許可の要件を満たさなくなっている可能性があります。
眠れなかった夜が続いていること自体を、体制を見直す指標として扱うのが実務的です。
夜勤専従の介護職員を、宿直として扱うことはできますか
できません。
宿直の許可は、常態としてほとんど労働をする必要のない勤務であることを前提にしています。夜勤専従の介護職員が行っているのは、排泄介助、体位変換、見守り、記録といった通常の業務そのものです。社会福祉施設の基準に照らしても、一勤務中に1回ないし2回、1回10分程度という水準には収まりません。
なお、労働基準法41条3号にはもう1つ、監視または断続的労働に従事する者についての許可(様式第14号)があります。ただしこちらは、手待ち時間が実作業時間を上回る業務であることが前提です。介護の夜勤はこれにも当てはまりません。加えて、断続的労働と通常の労働が1日の中で混在する業務は、許可の対象外とされています。
宿直手当はいくらに設定すればよいですか
相場から決めるものではありません。計算で下限が決まります。
第3章で示したとおり、宿直勤務1回の手当は、深夜割増賃金を含めて、同種の労働者に支払われる賃金(家族手当や通勤手当など、割増賃金の基礎から除外できる7つの賃金を除いたもの)の1人1日平均額の3分の1を下回らない額である必要があります。
宿直勤務総員数の1か月所定内賃金額合計 ÷(1か月所定労働日数 × 宿直勤務総員数 × 3)≦ 宿直手当額
注意したいのは、この下限が固定ではないことです。分子は宿直勤務に就く職員の賃金額の合計なので、昇給やベースアップがあれば下限も上がります。手当額を何年も据え置いていると、気づかないうちに下回ることがあります。
賃金改定を行った年は、宿直手当が下限を満たしているかを併せて確認する運用にしておくと安全です。
まとめ
介護事業所の夜間勤務が夜勤なのか宿直なのかは、呼び方では決まりません。労働基準監督署長の許可を受けているかどうかと、実際の勤務の中身で決まります。
この記事で確認したことを整理します。
指定基準と労働基準法は別の制度です。指定基準に「宿直職員」と書かれていても、それは人員配置の話であって、労働基準法上の宿直として扱ってよいという意味ではありません。特別養護老人ホームの宿直員が防火のための配置であり、消防設備の普及と人手不足を理由に不要とされてきた経緯が、その違いをよく表しています。運営指導で指摘されなかったことも、労務面の適法性を示すものではありません。
許可には具体的な要件があります。社会福祉施設の場合、夜間に許容される介助作業は、一勤務中に1回ないし2回、1回の所要時間が通常10分程度という水準です。要介護者を抱きかかえるような負担を伴う作業は含まれません。この数値に照らせば、自施設の夜間勤務がどちらに当たるかは、おおよそ判断がつくはずです。
施設類型によって出発点が変わります。特養、老健、短期入所、グループホーム、特定施設では、夜勤職員として配置している職員を宿直に切り替えることはできません。小規模多機能や養護老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅では検討の余地がありますが、それは指定基準が否定していないというだけで、許可が下りることを意味しません。
職種を限った許可という考え方はあります。ただし、介護施設に勤務する看護職員にどの基準が適用されるかについて、公的資料で明示された取扱いは確認できませんでした。所轄の労働基準監督署への確認が必要な領域です。
許可がなければ、その時間はすべて労働時間です。夜間の運用は職員全員が同じ形で行っているため、不足が生じていれば全員分になります。気づいた時点で、要件を満たす体制に整えて申請に進むか、夜勤として設計し直すかを選ぶことになります。
まず確認していただきたいのは、許可書が施設内にあるかどうかと、その付款にどのような条件が付いているかです。ここが出発点になります。
なお、本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。許可基準の運用は所轄の労働基準監督署によって判断が分かれる部分があり、指定基準も介護報酬改定のたびに見直されます。実際に申請や体制の変更を行う際は、厚生労働省や都道府県労働局の公表資料、自治体の指定基準資料で最新の内容を確かめてください。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や顧問の社会保険労務士などの専門家にご相談ください。



