職員がメンタル不調で休み始めた。事業所には休職の規程がない。本人は「いずれ戻りたい」と言っている。どう扱えばよいのか分からない。そうした場面で読んでいただきたい記事です。
先に結論を示します。休職の規程がなければ、職員が休んでいる状態は、休職ではなく「欠勤」です。ただし、それを理由にすぐ解雇することはできません。休職という形で休ませるなら、本人との合意によるほかありません。本人から「復職したい」と言われたときは、主治医の診断書だけで決めず、業務の内容を踏まえて判断します。そのうえで、同じことが起きたときに備えて、規程を整えておきます。
この記事は、休職の規程がない小規模なクリニック・介護事業所の院長・施設長・事務長の方に向けて、こうした対応の進め方を整理します。
結論:休んでいる状態は「欠勤」。ただしすぐに解雇はできない
当事務所に寄せられる休職の相談は、職員がすでにメンタル不調で休み始めてからのものが多くを占めます。「本人は復職したいと言っているが、まだ体調がすぐれないように見える。どうしたらいいか」という相談もあります。
メンタル不調による長い休みは、特別な事業所だけの話ではありません。厚生労働省の調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者がいた事業所は、10.2%でした(常用労働者10人以上の事業所が対象。厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」)。
休職の規程がない事業所では、次の2つの思い込みが見られます。
1つ目は、「規程がないのだから、休職のことは考えなくてよい」という思い込みです。規程がなくても職員は休みますし、事業所は、休んでいる間の扱いや、戻ってきたいと言われたときの判断を迫られます。
2つ目は、「規程がないなら、休みが続けば辞めてもらうしかない」という思い込みです。最高裁判所は、精神的な不調がうかがわれる職員に対して、医師の診断を受けさせたり休職を検討したりせずに行った処分を、無効と判断しています(日本ヒューレット・パッカード事件。詳しくは第4章で扱います)。
加えて、当事務所の実感として、早く復職しすぎた場合に、再び体調が悪化するケースは少なくありません。本人が戻りたいと言ったから戻す、というだけでなく、戻った後も事業所がきちんと状況を把握し、管理していく必要があります。
この記事は、次の順序で進めます。
- 第2章:休職と欠勤の違い
- 第3章:規程がないと困る3つの場面と、人事権として休ませることはできるか
- 第4章:いま休んでいる職員への対応
- 第5章:「復職したい、でも体調がすぐれない」ときの判断と、復職後の管理
- 第6章:規程に入れておく項目と規定例
休職と欠勤の違い
「欠勤」と「休職」は、どちらも職員が仕事を休んでいる状態ですが、意味が違います。
| 欠勤 | 休職 | |
|---|---|---|
| どういう状態か | 働く義務がある日に、働かないこと | 就業規則や本人との合意にもとづき、一定の期間、働く義務を免除すること |
| 根拠 | 特に必要ない(働かなかったという事実) | 就業規則の定め、または本人との合意が必要 |
| 期間中の賃金 | 原則として無給(働いていないため) | 原則として無給(規程や合意で支給を定めていれば、それによる) |
| 期間 | 定めはない | 規程や合意で定めた期間 |
| 続いた場合 | 働く義務を果たしていない状態が続き、解雇が検討される事由になりうる | 期間中は解雇が猶予される。期間が満了したときの扱いは規程や合意による |
| 規程がない事業所では | 病気で休んでいる状態はこちら | 本人との合意がなければ、この状態にはならない |
なお、似た言葉に「休業」があります。事業所の都合で職員を休ませる場合の休業(休業手当の支払いが必要。労働基準法26条)や、育児休業・介護休業のように法律で定められた休業は、職員自身の病気やけがで休む「休職」とは別のものです。仕事が原因のけがや病気で休む場合も、労災保険の休業補償の対象となり、この記事で扱う休職とは扱いが異なります。
違いは「働く義務が免除されているか」
欠勤も休職も、働いていない以上、賃金は原則として支払われません(規程や合意で支給を定めている場合を除きます)。賃金の面では、同じように見えます。
違いは、働く義務が免除されているかどうかです。休職は、就業規則や合意にもとづいて、一定の期間、働く義務を免除する仕組みです。その期間中は、働けないことを理由に解雇されることはなく、療養に専念できます。休職は、いわば「解雇を猶予する期間」です。
これに対して欠勤は、働く義務があるのに、それを果たせていない状態が続いているだけです。
休職の規程を設けている事業所では、「私傷病による欠勤が一定の期間続いたときは、休職とする」というように、欠勤を経てから休職に移る順序で定めているのが一般的です。
規程がない事業所で、欠勤が続くとどうなるか
休職の規程がない事業所で、職員が病気で休み続けている状態は、休職ではなく欠勤です。
欠勤が続くことは、解雇を検討する事由にはなりえます。ただし第1章で触れたとおり、精神的な不調で休んでいる職員を、受診や療養の機会を与えずに辞めさせれば、無効とされるおそれがあります。
欠勤には、休職のような「いつまで待つか」という区切りがありません。事業所は、いつまで待てばよいのか、いつ判断すればよいのかが分からず、職員も、いつまで療養できるのかの見通しを持てません。規程がないことの一番の不都合は、この区切りのなさにあります。次の章では、それが具体的にどんな場面で表れるかを見ていきます。
なお、職員が年次有給休暇を使った日は、欠勤でも休職でもなく、有給の休みとして扱われます。これについては、よくある質問で扱います。
規程がないと困る3つの場面
休職の規程がない事業所では、第2章で見た「区切りのなさ」が、次の3つの場面で表れます。

場面1:休職を命じる根拠がない
休職は法律で定められた制度ではないため、事業所が一方的に休職を命じるには、就業規則などに根拠が必要とする見解が有力です。規程がなければ、原則として休職を命じる根拠がありません。
規程がない事業所で、休職という形で職員を休ませるには、本人との合意によるほかありません。当事務所でも、規程がない事業所が職権で休職させたケースに立ち会ったことはありません。
人事権として休ませることはできるか
では、規程がなくても、事業所の人事権として職員を休ませることはできないのでしょうか。これは、職員がどういう状態にあるかによって分かれます。
| 職員の状態 | 事業所がとれる対応 | 休んでいる間の賃金 |
|---|---|---|
| ①体調不良で働けない状態 | 規程がなくても、事業所は就労を受け入れないことができる。形式は欠勤 | 原則として無給 |
| ②本人は働ける・働きたいと言っているが、事業所が体調に不安を感じている | 一方的に休ませると、働く用意があるのに事業所が受け入れなかったと評価されるおそれがある | 賃金の支払い義務が残るおそれがある(民法536条2項)。少なくとも休業手当(労働基準法26条)が問題になりうる |
| ③本人の同意を得て休ませる | 規程がなくても、合意によって休職にできる(第4章) | 合意の内容による |
注意が必要なのは②です。最高裁判所は、職種や業務を限定せずに雇われた職員について、元の業務が十分にできなくても、配置される現実的な可能性があるほかの業務で働くことができ、本人がそれを申し出ている場合には、働く義務を果たす用意があると判断しています(最高裁第一小法廷 平成10年4月9日判決、片山組事件)。
つまり、職員が「働ける」と言っているのに事業所が受け入れない場合、本当に働ける状態ではないことを、事業所の側で示せなければなりません。どこまでの賃金を払う必要があるかは事情によって判断が分かれますが、少なくとも「事業所が不安だから休ませておく」というだけでは足りません。
これが、第5章で扱う「復職したいと言っているが、まだ体調がすぐれない」という場面です。規程がないと、この場面で判断の根拠になるものがありません。
場面2:期間が満了しても、自動的に退職にはできない
休職の規程を設けている事業所の多くは、「休職期間が満了しても復職できないときは、退職とする」と定めています。休職期間の満了によって自動的に雇用が終わる扱いで、一般に「自然退職」と呼ばれます。
この扱いは、就業規則などにその定めがあることが前提です。定めがなければ、休みがどれだけ続いても、自動的に退職にはなりません。事業所から雇用を終わらせるなら、それは解雇にあたり、30日前の予告(労働基準法20条)が必要になるうえ、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるか(労働契約法16条)が問われます。
では、本人と休職の合意書を交わす際に、「期間が満了しても復職できないときは退職とする」と定めておけばよいのでしょうか。当事務所では、これは勧めていません。退職の合意は、本人の自由な意思によるものかが厳しく問われます。休み始めたばかりで体調が悪く、先の見通しも持てない時期に、将来の退職まで事前に約束させることは、後から有効性が争われやすいためです。就業規則にもとづいて自然退職とした場合でさえ、無効とされた裁判例があります(横浜地裁 令和3年12月23日判決)。
当事務所では、休職中に定期的に面談を行い、復職などについての本人の意思を確かめるようにしています。期間が満了するときも、自動的に扱いを決めるのではなく、面談を実施して本人の意思を確認します。
場面3:復職の判断の拠りどころがない
規程があれば、復職するときの手続きをあらかじめ定めておけます。主治医の診断書の提出、事業所が指定する医師の受診、復職の可否を事業所が判断すること、などです。
就業規則に受診の義務が定められている場合に、それにもとづく受診の命令は有効とした最高裁判所の判断があります(最高裁第一小法廷 昭和61年3月13日判決、電電公社帯広電報電話局事件)。規程がなければ、事業所が指定する医師の受診を命じる根拠は弱くなります。受診を求めること自体はできるとする見解もありますが、職員が応じない場合に強く求めることは難しくなります。
規程がない事業所で復職の判断をどう進めるかは、第5章で具体的に扱います。
いま休んでいる職員への対応
規程がないまま職員が休み始めている場合、事業所は目の前の職員への対応と、規程の整備を並行して進めることになります。この章では、目の前の職員への対応を扱います。
まず診断書で、休む期間と状態を確かめる
職員がメンタル不調で休み始めたら、まず主治医の診断書を出してもらい、休養が必要な期間と状態を確かめます。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」も、主治医の診断書が提出されて休業が始まる流れを示しています(厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の改訂について)。
診断書は、後の傷病手当金の申請や、復職の判断のときにも前提になります。
すぐに解雇しない
休みが長くなりそうだと分かると、「規程もないし、辞めてもらうしかない」と考えてしまうかもしれません。しかし、その判断は急がないでください。
最高裁判所は、精神的な不調がうかがわれる職員が欠勤を続けた事案で、使用者は精神科医による健康診断などでその状態を把握し、必要な治療を勧め、休職などの対応を検討するべきだったとして、欠勤を理由とした処分を無効と判断しています(最高裁第二小法廷 平成24年4月27日判決、日本ヒューレット・パッカード事件)。
この事件で問題になったのは懲戒処分でしたが、精神的な不調で休んでいる職員に対して、状態を確かめず、療養の機会も与えずに雇用を終わらせることは、解雇であっても認められにくいと考えるべきです。
休職の合意書を交わす
規程がない事業所で、いま休んでいる職員を休職として扱うには、本人との合意によるほかありません。当事務所では、就業規則に書くような内容で、休職の合意書を作成しています。
合意書に入れておきたいのは、次のような項目です。
- 休職の期間
- 期間中の賃金(無給とする場合はその旨)
- 連絡の方法と、定期的に面談を行うこと
- 療養に専念し、状態を報告すること
- 復職するときの手続き(主治医の診断書の提出、事業所が主治医に業務の内容を伝えて意見を求めることへの同意)
- 期間が満了するときは、面談を実施して本人の意思を確認すること
- 社会保険料の本人負担分の支払い方法
第3章で触れたとおり、期間が満了したときに自動的に退職とする定めは入れていません。
連絡の窓口を決め、月に1回程度は面談する
休んでいる職員への連絡は、窓口を1人に決めます。複数の人から連絡が来ると、本人の負担になるためです。
当事務所では、月に1回程度を目安に面談を行うよう顧問先に伝えています。傷病手当金は1か月ごとに申請することが多いため、申請書の事業主記入欄をやりとりする機会に合わせて面談すると、自然に定期的な接点を持てます。面談では、体調や療養の状況を無理のない範囲で確かめ、復職などについての本人の意思を聞きます。
休んでいる間の賃金・傷病手当金・社会保険料
賃金:休職の規程がなく、合意書で支給を定めていなければ、欠勤中の賃金は原則として無給です。
傷病手当金:仕事以外の病気やけがで働けず、賃金が支払われない場合は、健康保険から傷病手当金が支給されます。支給期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です(全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」)。申請書には事業主が記入する欄があり、事業所は、申請の対象期間の出勤の状況と賃金の支払いの状況を証明します。傷病手当金は健康保険の給付なので、事業所に休職制度があるかどうかとは関係なく申請できます。
社会保険料:無給で休んでいる間も、健康保険と厚生年金の保険料は、本人負担分・事業所負担分ともに発生します。給与から差し引けないため、本人負担分をどう払ってもらうかを決めておく必要があります。当事務所では、毎月、本人から振り込んでもらうよう勧めています。休職が終わってからまとめて精算しようとすると、額が大きくなり、本人の負担が重くなるためです。毎月の請求のしかたや、無給でも保険料が下がらない理由は、休職中の社会保険料はどうなるかで解説しています。
「復職したい、でも体調がすぐれない」ときの判断と、復職後の管理
休んでいる職員から「そろそろ復職したい」と言われたものの、事業所から見ると、まだ体調がすぐれないように見える。これは、第3章の表で②とした場面です。
職員が働く用意があると言っているのに、事業所が「不安だから」というだけで受け入れなければ、賃金の問題になりえます。一方、本当に働ける状態でないのに復職させれば、再び体調を崩すおそれがあります。だからこそ、働ける状態かどうかを、手順を踏んで確かめることが大切です。
主治医の「復職可能」は、業務ができるという判断とは限らない
職員が主治医の「復職可能」という診断書を持ってくれば、事業所としては復職させるしかないと考えがちです。
しかし厚生労働省は、職場復帰支援の手引きの改訂の要点として、主治医による職場復帰の判断は、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているかの判断とは限らない、と示しています(厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の改訂について)。主治医は、日常生活でどこまで回復しているかを見て判断することが多く、本人の「戻りたい」という希望が反映されることもあるためです。
診断書は大切な判断材料ですが、それだけで決めるものではありません。
本人の同意を得て、主治医に業務の内容を伝える
同じ手引きは、より円滑に職場に復帰できるよう、主治医にあらかじめ、職場で必要とされる業務遂行能力の内容や勤務制度などの情報を伝えることを求めています。
たとえば、夜勤があるか、立ち仕事や移乗介助などの身体的な負担はどの程度か、利用者や患者、その家族への対応がどの程度あるか、といった具体的な業務の内容を、本人の同意を得たうえで書面にまとめ、主治医の意見を求めます。業務の内容を知ったうえでの意見であれば、事業所の判断の拠りどころになります。

判断基準の例で確かめる
手引きのパンフレットは、復職の可否を判断する基準の例として、次のような項目を挙げています(厚生労働省・労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」)。
- 労働者が十分な意欲を示している
- 通勤時間帯に一人で安全に通勤できる
- 決まった勤務日、時間に就労を続けられる
- 業務に必要な作業ができる
- 作業による疲労が翌日までに十分回復する
- 適切な睡眠と覚醒のリズムが整っていて、昼間に眠気がない
- 業務に必要な注意力・集中力が回復している
本人との面談では、こうした項目を一つずつ確かめます。「戻りたい」という意欲があっても、決まった時間に通えるか、疲れが翌日に残らないかといった点がまだ整っていなければ、復職を急がない判断もありえます。
産業医がいない事業所は、地域産業保健センターに相談できる
常時50人未満の事業所には、産業医を選任する義務がありません。医師の意見を聞く相手がいないことが、小規模な事業所の悩みです。
そうした事業所は、労働者健康安全機構の地域窓口である地域産業保健センターに相談できます。産業医の選任義務がない50人未満の事業所を対象に、医師による健康相談などを原則無料で行っています(労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」)。復職を判断する際に、医学的な助言を得る先として検討できます。
元の業務が難しいとき
職種や業務を限定せずに雇っている職員であれば、第3章で見た片山組事件の考え方から、元の業務は難しくても、ほかに配置できる業務があるかを考える必要があります。
小規模なクリニックや介護事業所では、配置できる業務は限られます。それでも、夜勤を外す、勤務日や勤務時間を減らす、利用者や患者への対応が少ない業務から始める、といった調整であれば、現実にとれる場合があります。どこまで調整できるかを事業所として検討し、その内容を本人と話し合います。
お試し出勤は、先にルールを決めてから
復職の前に、一定期間試しに出勤してもらう「試し出勤」という方法もあります。ただし、手引きは、こうした制度を設ける前に、その間の処遇や、災害が起きた場合の対応などを労使で検討し、ルールを定めておくよう求めています。小規模な事業所で実際に使われる例は多くありませんが、導入するなら、先にルールを決めてからにしてください。
復職後も、事業所が状況を把握し続ける必要がある
第1章で触れたとおり、当事務所の実感として、早く復職しすぎた場合に、再び体調が悪化するケースは少なくありません。手引きも、職場復帰後のフォローアップを、職場復帰支援の最後の段階として位置づけています。
復職した後も、面談の頻度は画一的に決めず、本人の様子を見ながら、状況を確かめる機会を持ちます。業務の負担は、様子を見ながら段階的に元に戻していきます。
それでも再び休むことになった場合に、前回の休職期間と通算するかどうかは、規程や合意書で決めておく必要があります。これは次の章で扱います。
規程に入れておく項目と規定例
目の前の職員への対応とあわせて、同じことが起きたときに備えて、休職のルールを整えておきます。
10人未満の事業所は、合意書と就業規則のどちらで備えるか
常時10人未満の職員を使用する事業所には、就業規則の作成義務がありません。ただし、作成すること自体はでき、職員に周知し、内容が合理的であれば、労働契約の内容になります(労働契約法7条)。
第4章で扱った合意書は、いま休んでいる職員への対応としては現実的な手段です。ただ、職員ごとに合意するため、内容がばらつきやすく、そのつど一から取り決める必要があります。同じことが起きたときに備えるなら、全職員に共通のルールとして、就業規則に休職の規定を置いておく方が確実です。小規模な事業所で就業規則を整える意味は、「クリニックに就業規則は必要か?10人未満でも整備すべき理由」でも解説しています。
なお、常時10人以上の職員を使用する事業所が就業規則を変更するときは、職員の過半数代表者の意見を聴き、労働基準監督署に届け出たうえで、職員に周知する必要があります(労働基準法89条・90条・106条)。
規程を新しく作るとき、すでに休んでいる職員はどう扱うか
休職の規程を新しく作っても、すでに休んでいる職員に、その規程をさかのぼって当てはめることはできないと考えます。たとえば、規程を作る前からの欠勤期間を通算して、早々に休職期間の満了とするような扱いは避けるべきです。
すでに休んでいる職員については、それまでに本人と取り交わした合意書などの内容によって対応します。新しい規程は、施行した日以降に休み始める職員から適用します。
規程に入れておく項目
休職の規定には、一般に次のような項目を定めます。
- 休職を命じる事由(業務外の傷病による欠勤が一定の期間を超えたときなど)
- 休職の期間
- 休職期間中の賃金
- 休職期間を勤続年数に算入するか
- 療養に専念し、状況を報告すること
- 事業所が指定する医師の受診
- 復職の手続きと、復職の可否の判断
- 復職後に再び休んだ場合の、休職期間の通算
- 休職期間が満了したときの扱い
メンタル不調は、回復と悪化を繰り返すことがあります。第5章で触れたとおり、早く復職して再び体調を崩す場合に備え、再び休んだときに前の休職期間と通算する定めを置いておくことが大切です。この定めがないと、短い出勤と休職を繰り返すたびに、休職期間が一から数え直されることになります。
規定例
次は、考え方を示すための例です。数値は「○」としています。実際の規程は、事業所の規模や職員の構成、ほかの条文との関係に合わせて調整が必要です。
第○条(休職)
1 職員が業務外の傷病により欠勤し、その欠勤が○か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないときは、休職を命じることがある。
2 休職期間は、○か月以内とする。
3 休職期間中の賃金は支給しない。
4 休職期間は、勤続年数に算入しない。
第○条(休職中の報告及び受診)
1 休職中の職員は、療養に専念し、事業所の求めに応じて、療養の状況を報告しなければならない。
2 事業所は、必要と認めるときは、休職中の職員に対し、事業所が指定する医師の受診を命じることがある。
第○条(復職)
1 休職中の職員が復職を希望するときは、主治医の診断書を提出しなければならない。
2 事業所は、復職の可否を判断するため、職員の同意を得て、主治医に業務の内容を伝え、意見を求めることがある。
3 復職の可否は、診断書、面談の結果などをもとに事業所が判断する。元の職務に復帰させることが困難なときは、ほかの職務に就かせることがある。
4 復職後○か月以内に、同一又は類似の傷病により欠勤したときは、休職を命じることがある。この場合の休職期間は、前の休職期間と通算する。
第○条(休職期間の満了)
休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず、就業が困難なときは、休職期間の満了をもって退職とする。
最後の条文は、厚生労働省のモデル就業規則にも置かれている、期間満了で退職とする定めです。第3章では、休み始めた職員と個別の合意書で事前に退職を決めることは勧めないとしましたが、全職員に共通のルールとしてあらかじめ定め、周知しておく就業規則とは扱いが異なります。
ただし、この定めがあっても、期間が満了すれば機械的に退職にできるわけではありません。就業規則にもとづく自然退職が無効とされた裁判例もあります。当事務所では、期間満了の前にも面談を行い、本人の状態と意思を確かめたうえで判断するようにしています。
就業規則の休職の規定と、雇用契約書・労働条件通知書の記載をそろえておくことも大切です。労働条件通知書の見直しについては、「労働条件通知書は変更のたびに必要か」で解説しています。
よくある質問
Q1. 休職制度がなくても、傷病手当金は受けられますか?
受けられます。傷病手当金は健康保険の給付で、仕事以外の病気やけがで働けず、賃金が支払われないなどの要件を満たせば支給されます。事業所に休職制度があるかどうかは関係ありません。申請書には事業主が記入する欄があるため、事業所は出勤の状況と賃金の支払いの状況を証明します。
Q2. 休職中の社会保険料はどうなりますか?
無給で休んでいる間も、健康保険と厚生年金の保険料は、本人負担分・事業所負担分ともに発生します。産前産後休業や育児休業と違い、病気で休んでいる間の保険料を免除する仕組みはありません。給与から差し引けないため、当事務所では、本人負担分を毎月振り込んでもらう方法を勧めています。
Q3. 休んでいる職員から、年次有給休暇を使いたいと申し出があったら?
職員の請求に応じて、年次有給休暇を与えます。有給休暇を取った日は賃金が支払われるため、その日の分の傷病手当金は、原則として支給されません(賃金の額が傷病手当金より少ない場合は、差額が支給されます)。なお、傷病手当金を受けるために必要な連続3日間の待期は、有給休暇を使った日でも成立します。こうした関係を職員に説明しておくと、本人が有給休暇の使い方を判断しやすくなります。
Q4. 休んでいる職員から、退職したいと申し出があったら?
本人の意思を尊重しつつ、面談で、本人の自由な意思による申し出かを確かめます。体調が悪い中での申し出なので、急がせず、落ち着いて考えられる時間をとることも大切です。
なお、退職した後も、傷病手当金を続けて受けられる場合があります。退職日まで継続して1年以上健康保険の被保険者であり、退職日に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であることが要件です。退職日に出勤すると、続けて受けられなくなるため、職員に伝えておきます。
まとめ
- 休職の規程がなければ、職員が休んでいる状態は「欠勤」です。休職という形で休ませるなら、本人との合意によるほかありません。本人が働きたいと言っているのに、事業所の判断だけで休ませ続けることには慎重さが必要です。
- いま休んでいる職員については、診断書で状態を確かめ、すぐには解雇せず、就業規則に書くような内容で休職の合意書を交わします。連絡の窓口を決めて月1回程度は面談し、傷病手当金の証明や社会保険料の支払い方法も決めておきます。
- 「復職したい」と言われたら、主治医の診断書だけで決めず、本人の同意を得て主治医に業務の内容を伝え、意見を求めます。判断基準の例で状態を確かめ、産業医がいなければ地域産業保健センターに相談できます。復職した後も、様子を見ながら状況を把握していきます。
- 同じことが起きたときに備えて、就業規則に休職の規定を置きます。再び休んだときの期間の通算や、期間満了時の扱いも定めておきます。
休職や復職をめぐる裁判例の判断や、傷病手当金などの制度は、今後変わる可能性があります。最新の情報は、厚生労働省や全国健康保険協会などの公式情報で確認してください。判断に迷う場合は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや顧問の社会保険労務士など、専門家に確認したうえで進めることをおすすめします。
ここまでの手順で自社での対応が見通せるようでしたら、専門家への相談は必要ありません。
休職の扱いは、規程の文言だけでなく、合意書の内容、復職の判断の手順、傷病手当金や社会保険料の手続きまでが一続きになっています。職員の体調を気にかけながら、事業所だけでそのすべてを進めるのは、負担の大きいところです。当事務所では、医療・介護の事業者さまから、休職の規定を含む就業規則の作成・変更のみのご依頼をお受けしています。休んでいる職員への対応や復職の判断を含め、継続して労務のご相談を受けたい場合は、顧問契約の中でお受けしています。



