「主任には主任手当を払っていて、その中に残業代も含めている」。クリニックや介護事業所で、職務手当・役職手当・主任手当をこのように扱っているなら、一度チェックが必要です。
手当の名称そのものは問われません。問われるのは、雇用契約書や就業規則などの書面、採用時の説明、実際の残業時間がそろって、「この手当は残業代として払っている」と言える状態になっているかです。そろっていなければ、その手当で残業代を払ったことにはなりません。それどころか、その手当自体が残業代の計算の基礎に加わり、未払いの額はさらに大きくなります。
この記事は、役職者や職員に支給している手当に残業代を含めているつもりの医療機関・介護事業所に向けて、有効かどうかのチェックのしかたと、就業規則の直し方を整理します。
結論:名称は問われない。問われるのは書面・説明・実態
当事務所では顧問先に、固定残業代を支給するのであれば、それが固定残業代だと分かる形にし、雇用契約書にも何時間分の残業代なのかを書くよう伝えています。ただ、職務手当などの名目のまま「この手当に残業代が含まれている」として扱っている事業所は、少なくないのが実感です。
まず前提を確認しておきます。当事務所が関わる規模の医療機関・介護事業所では、施設長を除き、主任・看護主任・事務長といった役職者は労働基準法上の管理監督者に当たらない、という前提で賃金を設計するのが実務的です。つまり、役職者にも残業代の支払いが必要です。施設長の判断については「管理監督者でも深夜割増は必要。夜勤に入る介護施設長は管理監督者か」で詳しく扱っています。
そのうえで、手当で残業代を払ったことにできるかどうかは、名称ではなく中身で判断されます。最高裁判所は、「業務手当」という名称の手当を、残業代の支払いとして有効と認めたことがあります(最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決、日本ケミカル事件)。ただしこの事件では、雇用契約書、採用条件確認書、賃金規程のいずれにも、業務手当が時間外労働の対価として支払われることが書かれていました。名称が「業務手当」でも認められたのは、書面がそろっていたからです。
この記事は、次の順序で進めます。
- 第2章:固定残業代が有効とされる条件を、最高裁の判断から整理する
- 第3章:「職務手当に残業代を含む」という扱いのどこが問題になるかを示す
- 第4章:主任手当・管理者手当・夜勤手当など、医療・介護で多い手当に当てはめる
- 第5章:無効になった場合に何が起きるかを扱う
- 第6章:規程の直し方とチェック表を示す
固定残業代が有効とされる条件(最高裁の判断)
一定の手当や基本給の一部で、残業代(時間外・休日・深夜の割増賃金)をあらかじめ払っておく仕組みを、一般に「固定残業代」(定額残業代)と呼びます。この仕組み自体は、法律で禁止されているものではありません。ただし、最高裁判所の判断を通じて、有効とされるための条件が示されてきました。大きく分けると、次の2つです。
条件①:通常の賃金と残業代を判別できること
1つ目は、支払っている賃金のうち、どこまでが通常の労働への賃金で、どこからが残業代なのかを判別できることです。判別できなければ、労働基準法37条が定める額の残業代が支払われているかどうかを確かめられないためです。
たとえば、派遣労働者の基本給が月41万円とされ、月の総労働時間が180時間を超えた場合にだけ超えた分を別に払う、という契約が争われた事件があります(最高裁第一小法廷 平成24年3月8日判決、テックジャパン事件)。最高裁は、41万円のうち通常の賃金の部分と残業代の部分を判別できないとして、180時間以内の時間外労働について残業代が支払われたとは認めませんでした。
医療機関にとって特に重要なのが、医師の年俸をめぐる事件です(最高裁第二小法廷 平成29年7月7日判決、医療法人康心会事件)。年俸1,700万円で雇われていた医師について、病院側は、年俸に時間外労働の割増賃金が含まれていると主張しました。しかし最高裁は、年俸のうち通常の賃金の部分と割増賃金の部分を判別できない以上、割増賃金が支払われたとはいえないと判断しています。
年俸が高額であることも、医師という職種の特性も、判別できないことを補う理由にはなりませんでした。「十分な額を払っているのだから、残業代も込みでよいはずだ」という考え方は、医療の現場でも通用しないということです。
条件②:その手当が、残業代として払われていること
2つ目は、その手当が、実際に残業の対価として払われていることです。
先に紹介した日本ケミカル事件(最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決)で、最高裁は、ある手当が時間外労働の対価として払われているかどうかは、次のような事情を考慮して判断するとしました(厚生労働省「多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」)。
- 雇用契約書などの書面の記載内容
- 使用者が労働者に対して行った、その手当や割増賃金についての説明の内容
- 労働者の実際の労働時間などの勤務状況
この事件では、薬剤師に支払われていた「業務手当」が問題になりました。雇用契約書、採用条件確認書、賃金規程に、業務手当が時間外労働の対価として支払われることが記載されていました。また、業務手当が想定していた残業時間と、実際の残業時間が大きくかけ離れてもいませんでした。こうした事情から、業務手当の支払いは残業代の支払いと認められています。
裏を返すと、名称が「職務手当」や「主任手当」であることは、それだけで問題になるわけではありません。問題になるのは、書面にも説明にも「残業代として払う」ことが表れておらず、実際の残業時間とも結びついていない場合です。
差額の精算は必須の要件か
日本ケミカル事件では、原審の高等裁判所は、手当が何時間分の残業に当たるのかや割増の単価が分からないことなどを理由に、この業務手当を無効としていました。最高裁は、そうした事情は必須のものではないとして、判断を覆しています。
そのため、「何時間分かを書くこと」や「超えた分の差額を払う仕組みを設けること」は、最高裁が示した独立の要件とまではいえません。
ただし、実務上の意味は大きいものです。何時間分の残業代なのかが書かれていなければ、実際の残業がそれを超えたかどうかを確かめられません。超えた分を払っていなければ、その分はそのまま未払いになります。当事務所が顧問先に対し、雇用契約書に何時間分の残業代かを書くよう伝えているのは、このためです。規程と雇用契約書には、時間数と、超えた分を別に支払うことを書いておくべきです。
主な最高裁判決の一覧
| 判決 | 事案 | ポイント |
|---|---|---|
| 高知県観光事件(平成6年6月13日) | タクシー運転手の歩合給 | 通常の賃金と割増賃金を判別できることが必要 |
| テックジャパン事件(平成24年3月8日) | 派遣労働者の基本給 | 基本給に含めても、判別できなければ残業代の支払いにならない |
| 医療法人康心会事件(平成29年7月7日) | 医師の年俸 | 高額の年俸でも、判別できなければ残業代の支払いにならない |
| 日本ケミカル事件(平成30年7月19日) | 薬剤師の業務手当 | 名称ではなく、書面・説明・勤務状況で判断する |
| 国際自動車事件(令和2年3月30日) | タクシー運転手の歩合給 | 形式上区分されていても、実質が残業の対価でなければ無効 |
「職務手当に残業代を含む」のどこが問題になるか
第2章の条件を当てはめると、「職務手当(主任手当、役職手当)に残業代を含む」という扱いがつまずくのは、主に次の4つの形です。
| よくある状態 | 問題になる点 |
|---|---|
| ①書面になく、採用時に口頭で説明しているだけ | 「残業代として払う」ことが書面に表れていない |
| ②「主任手当には残業代を含む」とだけ書き、何時間分・いくら分かが分からない | 通常の賃金と残業代を判別できない |
| ③時間外だけでなく、深夜・休日の割増も含むのかが分からない | 対象が時間外だけなら、深夜・休日は別に払う必要がある |
| ④規程に書いてあるが、職員に周知していない | 周知されていない規程は、労働契約の内容にならない |
当事務所が実務でよく目にするのは①と②で、③も少なくありません。
①書面になく、口頭で説明しているだけ
採用面接で「この手当には残業代も入っています」と説明し、職員も納得していた。それでも、雇用契約書や就業規則にそのことが書かれていなければ、後から争いになったときに、残業代の支払いと認められる見込みは低くなります。
日本ケミカル事件で最高裁が考慮した事情の中心は、雇用契約書などの書面の記載でした。使用者の説明も考慮されますが、口頭の説明だけでは、何をどう説明したのかを後から示すことが困難です。
そもそも賃金の決定・計算・支払いの方法は、雇い入れの際に書面で明示しなければならない労働条件です(労働基準法15条、同法施行規則5条)。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則にも必ず記載しなければなりません(同法89条)。
10人未満のクリニックや小規模な事業所では、就業規則の作成義務がないため、雇用契約書(労働条件通知書)の記載がいっそう重要になります。昇給や手当の変更のたびに書面を改めているかについては、「労働条件通知書は変更のたびに必要か」も参考にしてください。
②何時間分・いくら分かが分からない
実務で最も多いのが、雇用契約書や賃金規程に「主任手当には時間外手当を含む」とだけ書かれている形です。書面があるだけ①よりはましですが、この書き方では、主任手当のうちどれだけが主任という役職への対価で、どれだけが残業代なのかが分かりません。
第2章で見たとおり、最高裁は、通常の賃金と残業代の部分を判別できることを求めています。役職の対価と残業代が1つの手当に混ざったまま区別されていなければ、この条件を満たさないとされるおそれがあります。その場合、手当の全額が「役職への通常の賃金」と扱われることになります(その影響は第5章で扱います)。
加えて、何時間分の残業代なのかが分からなければ、実際の残業がそれを超えた月に、差額をいくら払えばよいかも決められません。超えた分を払っていなければ、その分はそのまま未払いになります。
③深夜・休日の割増も含むのかが分からない
割増賃金は、時間外労働、法定休日の労働、深夜(午後10時〜午前5時)の労働のそれぞれについて定められています(労働基準法37条)。
固定残業代が「時間外労働の対価」としてだけ定められているなら、夜勤や遅い時間までの勤務で深夜労働が生じた場合、その深夜割増は固定残業代とは別に払う必要があります。法定休日に出勤した場合も同じです。
夜勤や休日の出勤がある医療機関・介護事業所では、「手当を払っているから、夜の分も休日の分も済んでいる」と考えていないかを確認する必要があります。深夜や休日の割増も固定残業代に含めるのであれば、規程でそれぞれを区分して定めておくのが安全です。
④規程に書いてあるが、周知していない
就業規則は、職員に周知されていなければ、労働契約の内容として効力を持ちません。周知は使用者の義務でもあります(労働基準法106条)。
トラック運転者の手当をめぐる事件では、就業規則に「運行時間外手当」が残業の対価であると明示されていました。それでも、就業規則が周知されていなかったとして、この手当は通常の労働時間の賃金に当たり、残業代は支払われていないと判断されています(東京高裁 令和4年2月24日判決)。会社は就業規則を額縁に入れて掲示していたと主張しましたが、45枚もの厚さのものを額縁で掲げるのは不自然だとして、退けられました。
規程に正しく書いてあっても、事務室の棚にしまい込んだままでは足りません。職員がいつでも見られる状態にしておくことまでが、手当を残業代として扱うための前提です。
医療・介護で多い手当の確認
第3章の4つの形を、医療機関・介護事業所で「残業代込み」とされやすい手当に当てはめます。
管理者手当・主任手当
訪問看護ステーションの管理者が未払いの残業代を求めた事件があります(横浜地裁 令和3年2月18日判決、アルデバラン事件)。会社側は「管理者手当が残業代に当たる」と主張しましたが、裁判所はこの主張を退けています。
介護事業所の管理者手当、看護主任手当、ユニットリーダー手当などについて「残業代も込み」としている場合は、第3章の①と②に当たらないかを確かめてください。役職手当は、名称からして役職への対価と受け取られやすい手当です。書面で「このうち○時間分・○円を時間外労働の対価として支払う」と区分していなければ、残業代の支払いと認められるのは難しくなります。
資格手当
看護師手当、介護福祉士手当といった資格手当を、残業代込みとしている例もあります。
資格手当は、本来は資格を持っていることへの対価です。資格手当に残業代を含めると、同じ資格を持つ職員の間で、残業の多い人と少ない人に同じ額を払うことになり、手当の目的が分かりにくくなります。残業代として扱うのであれば、役職手当と同じく、資格への対価の部分と残業代の部分を書面で区分しておく必要があります。
夜勤手当
夜勤手当については、深夜割増との関係とは別に、「夜勤の時間帯の賃金を夜勤手当だけで賄う」という設計が否定された裁判例があります(東京高裁 令和6年7月4日判決、社会福祉法人A会事件)。
事案は、障害者のグループホームで、午後3時から午後9時まで勤務し、そのまま宿泊して翌日午前6時から午前10時まで勤務する職員に関するものです。職員には月額の基本給のほか、泊まり勤務1回につき6,000円の夜勤手当が支払われていました。
- 一審(千葉地裁):宿泊していた時間を労働時間としたうえで、夜勤手当だけを割増賃金の計算の基礎とし、1時間の単価を750円としました。
- 高裁(東京高裁):夜勤の時間帯が、実作業に従事していない時間も含めて労働時間に当たることを前提に、その対価として6,000円だけを支払うという合意があったとは認められないと判断しました。そのうえで、基本給などを基礎に割増賃金を計算し直し、法人側が逆転敗訴しています。
介護施設でも、夜勤手当が何の対価なのかが書面で明確でなければ、事業所の想定どおりには扱われません。「夜勤の時間帯の賃金そのもの」なのか、「深夜割増」なのか、「夜勤という負担への手当」なのかを書き分けておく必要があります。
なお、夜勤と、労働基準監督署の許可を受けた宿直とは扱いが異なります。違いは「介護施設の夜勤と宿直は何が違うのか」をご覧ください。
医師の年俸・手当
第2章で紹介したとおり、医師の年俸についても、通常の賃金と残業代の部分を判別できなければ、残業代を払ったことにはなりません(医療法人康心会事件)。
院長以外の常勤医を年俸制や高額の手当で雇い、「残業代も込み」としているクリニックでは、年俸や手当のうち何時間分・いくらが残業代なのかを、雇用契約書で区分しているかを確認してください。
無効になると、未払いは二重に膨らむ
払ったことにならず、単価も上がる
手当が残業代の支払いと認められなかった場合、事業所への影響は2つ重なります。
1つ目は、その手当で残業代を払ったことにならない点です。事業所としては「手当で払い済み」のつもりでも、実際に残業した時間の残業代は、全額が未払いになります。
2つ目は、その手当が「通常の労働時間の賃金」として扱われ、残業代の計算の基礎に加わる点です。割増賃金の計算の基礎から除いてよいのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に限られます(労働基準法37条5項、同法施行規則21条)。職務手当・役職手当・資格手当はこれに当たらないため、手当の額が1時間あたりの単価を押し上げます。
仮の数値で比べると、次のようになります。
| 項目 | 事業所の想定 | 手当が無効とされた場合 |
|---|---|---|
| 月給の内訳 | 基本給25万円+主任手当3万円(残業代込みのつもり) | 同じ |
| 1時間あたりの単価 | —(主任手当で払い済みのつもり) | (25万円+3万円)÷160時間=1,750円 |
| 月20時間の残業代 | 追加の支払いなし | 1,750円×1.25×20時間=4万3,750円 |
| 3年分(時効の期間) | — | 約157万円 |
※数値は説明のための仮のものです(月平均所定労働時間160時間、毎月20時間の時間外労働、職員1人あたり)。
主任手当を単価に含めない場合の単価は1,562.5円です。手当が無効とされると、単価そのものが約190円上がったうえで、残業代の全額が未払いになります。これが「二重に膨らむ」ということです。

さかのぼる期間と付加金
未払いの残業代は、さかのぼって請求される可能性があります。賃金の請求権の時効は、法律上は5年とされていますが、当分の間は3年とされています(労働基準法115条、附則143条)。上の表の「3年分」は、この期間で計算したものです。
裁判で未払いが認められた場合は、未払い額と同じ額までの付加金の支払いを命じられることもあります(同法114条)。
最低賃金との関係
固定残業代として有効な部分は、最低賃金を満たしているかの計算には入りません(最低賃金法4条3項、同法施行規則1条)。基本給などの残りの部分だけで、最低賃金を上回っている必要があります。第6章で手当を分け直す際には、この点も確認が必要です。
自社の手当の扱いに確信が持てない場合、どこまでを外部に任せられるかは業務案内ページをご覧ください。
規程の直し方とチェック表
チェック表:手元の書面で確かめる
まず、現在の書面と運用を、次の表で確かめてください。
| 確認する書面・事実 | 確認すること |
|---|---|
| 雇用契約書(労働条件通知書) | 手当のうち、何時間分・いくらが残業代かが書かれているか |
| 就業規則・賃金規程 | 手当が時間外労働の対価である旨と、超えた分を別に支払う旨が書かれているか |
| 給与明細 | 固定残業代が、ほかの手当と分けて表示されているか |
| 採用時の説明 | 説明した内容が、確認書などの書面に残っているか |
| 周知 | 就業規則・賃金規程を、職員がいつでも見られる状態にしているか |
| 実際の残業時間 | 想定した時間を超えた月に、差額を払っているか |
| 深夜・休日 | 固定残業代の対象に含むのか、別に払うのかが明確か |
1つでも「書かれていない」「していない」がある場合は、次の直し方を検討してください。
直し方の3つの方向
ア 今まで固定残業代として支給してきた手当の、時間数を明示する
手当の名称が職務手当でも主任手当でも、これまで残業代として支給してきたのであれば、何時間分の残業代なのかを、規程と雇用契約書にきちんと書くべきです。あわせて、実際の残業がその時間を超えた月には差額を払うことも明記します。
書き直す際は、職員に対して「この手当は○時間分の残業代として支給している」ことを説明し、書面で確認をとっておきます。これまでの扱いを文字にして確かにする作業です。
イ 手当の内訳を分け直し、固定残業手当を別の項目として設ける
1つの手当に役職への対価と残業代が混ざっている場合、両者を別々の手当に分ける方法です。
ただし、手当の総額を変えずに内訳を分け直すと、役職への対価として受け取っていた部分が減ったと職員に受け取られる場合があります。どの部分をどう分けるかは、職員への説明と同意の取り方を含めて、慎重に進める必要があります。
ウ 固定残業代をやめ、実際の残業時間に応じて払う
固定残業代をやめて、毎月の実際の残業時間に応じて残業代を払う方法もあります。進め方は「クリニックの固定残業代、やめるには。廃止の手順と不利益変更の実務」で整理しています。

規定例と雇用契約書の記載例
賃金規程に定める場合の例です。対象は時間外労働だけとし、深夜・休日の割増は別に支給する形にしています。夜勤や休日の出勤がある事業所では、深夜・休日まで固定残業代に含めると区分が複雑になり、誤りやすいためです。
第○条(固定残業手当)
1 固定残業手当は、法定労働時間を超える時間外労働に対する割増賃金の一部として支給する。
2 固定残業手当の額と、これに相当する時間外労働の時間数は、各人の雇用契約書で定める。
3 実際の時間外労働に対する割増賃金の額が固定残業手当の額を超えたときは、その差額を別に支給する。
4 深夜労働および法定休日労働に対する割増賃金は、固定残業手当とは別に、第○条の定めにより支給する。
雇用契約書(労働条件通知書)には、次のように、手当ごとに分けて書きます。
基本給 ○円
主任手当 ○円
固定残業手当 ○円(時間外労働○時間分として支給。○時間を超えた時間外労働、深夜労働、法定休日労働の割増賃金は別に支給)
給与明細でも、固定残業手当をほかの手当と分けて表示してください。規程、雇用契約書、給与明細の名称と金額がそろっていることが大切です。
なお、この規定例は考え方を示すためのものです。実際の規程は、事業所の賃金制度やほかの条文との関係に合わせて調整が必要です。雇用契約書の作り方は「クリニック開業時の労働条件通知書・雇用契約書」も参考にしてください。
自社で進められること、専門家に確認すべきこと
チェック表で確かめること、就業規則や賃金規程を職員がいつでも見られる状態にすること、給与明細の表示を分けることは、自社ですぐに進められます。常時10人未満で就業規則を作っていない事業所でも、書面を整えておく意味は大きいものです(「クリニックに就業規則は必要か?10人未満でも整備すべき理由」)。
一方、手当の中身を分け直す(イ)、固定残業代の時間数と金額を設定し直す、過去に払っていなかった差額をどう扱うか、といった判断は、就業規則や賃金台帳、実際の勤務の実態を確認したうえで進める必要があります。顧問の社会保険労務士など、専門家に確認することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 求人票に固定残業代をどう書けばよいですか?
固定残業代を支給する場合、求人票や募集要項には次の3点を明示します(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」)。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額などの計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働などに対して、割増賃金を追加で支払う旨
雇用契約書の記載と食い違わないよう、同じ時間数・金額で書いてください。
Q2. 固定残業代は、最低賃金の計算に含まれますか?
含まれません。時間外・休日・深夜の割増賃金は、最低賃金を満たしているかの計算から除かれます(最低賃金法4条3項、同法施行規則1条)。基本給などの残りの部分を時間あたりに換算して、最低賃金を上回っている必要があります。地域別最低賃金が改定されたときは、固定残業代を除いた部分で確かめ直してください。
Q3. 固定残業代に深夜割増を含めることはできますか?
含めることはできます。ただし、時間外・深夜・休日の割増は別々に定められているため、それぞれについて何時間分・いくらかを区分して定めておく必要があります。夜勤のある医療機関・介護事業所では、固定残業代の対象を時間外労働に限り、深夜割増は別に支給する方が、計算の誤りが起きにくくなります。
Q4. 差額を払っていなかった月があります。固定残業代は無効になりますか?
最高裁は、差額の精算を、固定残業代が有効とされるための独立の要件とはしていません(日本ケミカル事件)。ただし、実際の残業が想定した時間を超えた月に払っていない差額は、未払いの残業代であり、支払う必要があります。また、有効かどうかの判断では、手当が想定する残業時間と実際の残業時間との関係も考慮されます。
Q5. 施設長にも固定残業代は必要ですか?
施設長が労働基準法上の管理監督者に当たる場合、時間外労働の割増賃金は不要です。ただし、深夜の割増賃金は必要です。施設長が管理監督者に当たるかどうかは役職名ではなく実態で判断され、当たらない場合は他の職員と同じく残業代が必要になります。詳しくは「管理監督者でも深夜割増は必要。夜勤に入る介護施設長は管理監督者か」をご覧ください。
まとめ
- 職務手当・役職手当・主任手当で残業代を払ったことにできるかは、名称ではなく、雇用契約書や規程、給与明細といった書面、採用時の説明、実際の残業時間で判断されます。医師の高額な年俸でも、通常の賃金と残業代の部分を判別できなければ、残業代を払ったことにはなりません。
- 実務で多いのは、口頭で説明しているだけのもの、何時間分の残業代か分からないもの、深夜・休日の割増を含むのかが分からないものです。無効とされると、残業代は全額が未払いになるうえ、手当が1時間あたりの単価に加わり、未払いは二重に膨らみます。
- まずはチェック表で、手元の書面を確かめてください。これまで固定残業代として支給してきた手当であれば、何時間分の残業代なのかを、規程と雇用契約書に明示することから始めます。
固定残業代をめぐる裁判例の判断や、賃金請求権の時効の経過措置は、今後変わる可能性があります。最新の情報は、厚生労働省などの公式情報で確認してください。自社の手当の扱いに迷う場合は、労働基準監督署や顧問の社会保険労務士など、専門家に確認したうえで進めることをおすすめします。



