処遇改善手当は最低賃金に含めてよいか|厚生労働省の見解と、介護施設の夜勤手当・深夜割増込み時給の判定

令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円となりました。改定後の額は、10月1日から12月2日までの間に、都道府県ごとに順次発効します。

改定のたびに介護施設の給与担当者が確認を迫られるのが、「処遇改善手当や夜勤手当を含めて、最低賃金を満たしていると判断してよいのか」という点です。

この記事では、介護施設を運営する事業者向けに、次の3点を整理します。

  • 処遇改善手当を最低賃金の計算に含めることについての、厚生労働省の見解
  • 夜勤手当と、非常勤職員の深夜割増込みの時給の判定方法
  • 最低賃金の改定時に、どの順番で確認すればよいか

※令和8年10月時点の情報に基づいています。最低賃金額と発効日は都道府県ごとに異なります。

目次

1. 結論:処遇改善手当は最低賃金に含められるが、国は「最低賃金を満たしたうえでの上乗せ」を求めている

「処遇改善手当は最低賃金の計算に含めてはいけない」という説明を見かけることがありますが、法律上は正確ではありません。結論は次の3点です。

1つ目に、毎月の通常の賃金として支払っている処遇改善手当は、最低賃金と比較する賃金に含まれます。一方、一時金や賞与として支払っている分は含められません。同じ処遇改善加算を原資としていても、支払い方によって扱いが分かれます。

2つ目に、厚生労働省は、含まれることを認めたうえで、「最低賃金を満たした上で、賃金の引上げを行っていただくことが望ましい」としています。これは現行の「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年3月13日)問1-6に示されている見解です。さらに政府は、この考え方は最低賃金が引き上げられた場合も同様であると、国会の答弁書(令和5年6月23日)で示しています。

つまり、処遇改善手当を含めた額で最低賃金を満たしていれば、最低賃金法の違反にはなりません。ただし、それは国が処遇改善加算に期待している使い方ではありません。法律上の扱いと加算の趣旨が、二層の関係になっているということです。

3つ目に、同じ構造の注意点は夜勤の賃金にもあります。夜勤手当のうち深夜割増に当たる部分や、非常勤職員の深夜割増込みの時給は、そのままの額で最低賃金と比べることができません。この点は第5章・第6章で説明します。

2. 最低賃金の対象になる賃金・ならない賃金

最低賃金を満たしているかどうかは、支払っている賃金の総額で判断するのではありません。総額から一定の賃金を除き、残った額を1時間あたりに直して、最低賃金額と比べます。

最低賃金の計算から除かれる賃金

除かれるのは、次の6つです。

除かれる賃金主な例
① 臨時に支払われる賃金結婚祝金など
② 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金賞与
③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金時間外労働の賃金
④ 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金休日労働の賃金
⑤ 22時から5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金を超える部分深夜割増賃金
⑥ 精皆勤手当、通勤手当、家族手当—

①〜⑤は最低賃金法施行規則1条に定められています。⑥も含めた6つの一覧は、厚生労働省の解説で確認できます。

この表のどこにも、「処遇改善手当」や「夜勤手当」という名前はありません。手当の扱いは名前で決まるのではなく、どのように支払っているか、何の対価として支払っているかで決まります。処遇改善手当については第3章、夜勤手当については第5章で説明します。

月給を1時間あたりの額に直す

月給制の職員は、対象となる賃金を「月の所定労働時間数」で割って、1時間あたりの額にします。ただし、月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均の所定労働時間数で割ります(最低賃金法施行規則2条1項3号)。

1か月単位の変形労働時間制を採っている施設では、シフトによって月ごとの所定労働時間が変わるのが普通です。そのため、この「1年間の1か月平均」を使うことになります。名前が似ていますが、1年単位の変形労働時間制を採用している必要はありません。月ごとに変わる所定労働時間を、1年分で平均するという意味です。

1時間あたりの額 = 対象となる賃金の月額 ÷ 1か月平均所定労働時間

1か月平均所定労働時間 = 1年間の所定労働時間の合計 ÷ 12

日勤と夜勤で1日の所定労働時間が異なる施設では、1日の所定労働時間を一律に掛け算するのではなく、年間のシフトで定めた所定労働時間の合計から求めます。

夜勤の時間の扱い

夜勤の時間も、休憩時間を除いて所定労働時間に含まれます。16時間夜勤のように2暦日にまたがる勤務でも、最低賃金の判定のために特別な計算方法があるわけではありません。年間のシフトで定めた所定労働時間を、上の式に入れるだけです。

ひとつ注意したいのは、夜勤中の仮眠時間を休憩として扱っている場合です。厚生労働省のガイドラインは、指示があれば即時に業務に従事することを求められ、労働から離れることが保障されていない状態で待機している時間を、労働時間に当たるとしています。仮眠中もナースコールへの対応が求められているなら、その扱いが実態に合っているかを別途確認する必要があります。

3. 処遇改善手当の判定は支払い方で分かれる

同じ処遇改善加算を原資にした賃金でも、どのように支払っているかによって、最低賃金の計算に含まれるかどうかが分かれます。

支払い方最低賃金の計算に根拠
毎月定額の手当含まれる現行Q&A問1-6
時給・日給への上乗せ、勤務時間に比例する手当含まれる(所定労働時間を超える労働に対応する部分を除く)第2章の除外賃金に当たらない
一時金・賞与として年に数回支払う分含まれない最低賃金法施行規則1条1項
基本給の引上げとして支払う分含まれる基本給そのもの

現行のQ&A(問1-6)が「含める」としているのは、加算額が臨時の賃金や賞与として支払われておらず、予定し得る通常の賃金として毎月支払われている場合です。

注意したいのは、一時金です。実績報告で賃金改善額が加算額に届かなかった場合、不足分を賞与などの一時金で追加配分すれば返還を求めない扱いとされています(同Q&A問1-9)。しかし、この一時金は最低賃金の計算には一切使えません。

時給への上乗せ・時間比例で支払う場合

非常勤職員では、処遇改善分を時給に上乗せして支払っているケースがあります。この場合は、基本の時給に上乗せ額を足した1時間あたりの額で、最低賃金と比べます。

月給制の職員で、処遇改善手当を「実際に働いた時間×◯円」のように計算している場合は注意が必要です。その時間に残業時間が含まれていれば、残業時間に対応する部分は、第2章の表の③(所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金)に当たり、計算から除かれます。最低賃金と比べるのは、所定労働時間に対応する部分だけです。

加算の「決まって毎月支払われる手当」とは別の基準

処遇改善加算には、「基本給または決まって毎月支払われる手当」で一定以上の賃金改善を行うという要件があります。Q&Aは、この「決まって毎月支払われる手当」について次のように説明しています(問1-3・問1-4)。

  • 月ごとに額が変動する手当も含む
  • 月ごとに支払われるか否かが変動する手当は含まない
  • 時給や日給への上乗せの形の手当は、決まって毎月支払われる手当と同等に扱ってよい

この定義は、加算の要件を満たすかどうかを判断するための基準です。最低賃金の計算に含まれるかどうかは、第2章の除外賃金に当たるかどうかで決まります。2つは別の物差しです。

たとえば、夜勤のある月にだけ支払われる手当は、加算の定義では「決まって毎月支払われる手当」に当たりません。しかし、最低賃金の除外賃金に名前があるわけでもありません。こうした手当の扱いは、第5章で説明します。

なお、処遇改善分を基本給・手当・賞与のどれで配るかの考え方は、処遇改善加算は基本給・手当・賞与どれで配る?で詳しく扱っています。

4. 厚生労働省の見解:現行のQ&Aと国会答弁

加算が一本化された後も、見解は変わっていない

処遇改善手当と最低賃金の関係について、厚生労働省は平成30年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6、平成30年8月6日)の問7で見解を示しました。令和6年度に旧3加算(介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算)が「介護職員等処遇改善加算」に一本化された後も、同じ見解がQ&Aに引き継がれています。

現行の「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年3月13日)の問1-6は、次のとおりです。

処遇改善加算の加算額が、臨時に支払われる賃金や賞与等として支払われておらず、予定し得る通常の賃金として、毎月労働者に支払われているような場合には、当該加算額を最低賃金額と比較する賃金に含めることとなるが、処遇改善加算の目的等を踏まえ、最低賃金を満たした上で、賃金の引上げを行っていただくことが望ましい。

前半が法律上の扱い(含まれる)、後半が加算の趣旨からの要請(望ましい)です。第1章で「二層」と書いたのは、この2つのことです。

最低賃金が引き上げられた場合も同様(国会答弁)

衆議院議員の質問主意書に対する政府の答弁書(令和5年6月23日)は、この見解について、最低賃金が引き上げられた場合も同様であると答えています。旧特定加算と旧ベースアップ等支援加算についても、同様に考えるとしています。

質問主意書では、パート職員の時給のうち基本給だけでは最低賃金を下回り、処遇改善加算による上乗せを足してようやく上回る、という例が挙げられていました。政府は個別の事案として回答を控えたうえで、一般論として同じ見解を改めて示しています。

同じ答弁書は、介護事業者は介護報酬を原資として、最低賃金法を含む労働基準関係法令を守って賃金を支払うべきものと考えているとも述べています。そのうえで、最低賃金を満たすための別の支援金などは必要と考えていない、としています。

「望ましい」をどう受け止めるか

「望ましい」は、法律上の義務を課す表現ではありません。処遇改善手当を含めた額で最低賃金を満たしていれば、最低賃金法の違反にはなりません。

一方で、国がこの見解を繰り返す理由は、加算の仕組みから読み取れます。処遇改善加算の賃金改善額は、加算を原資として改善した後の賃金水準と、加算を算定しない場合の賃金水準とを比べて算出するとされています(現行Q&A問1-1)。つまり加算は、本来支払う賃金の上に積み上げることを前提にした制度です。

最低賃金に届かない部分を加算で埋めれば、改善分のうちその部分は、法律上の最低限を満たすことに使われることになります。国の「望ましい」は、そうした使い方を避けてほしいという趣旨と読めます。

職員から問われたときに説明できるか

現行Q&Aの問2-6は、職員から処遇改善加算による賃金改善について照会があった場合、書面を用いるなどして分かりやすく回答するよう求めています。

処遇改善手当を含めて最低賃金を満たしている施設では、職員から「処遇改善手当がなければ最低賃金を下回るのではないか」と問われることがあり得ます。そのときに、基本給と手当の内訳、加算による改善額を示して説明できる状態にしておくことが、事業者側の実務上の備えになります。

5. 夜勤手当の判定:深夜割増に当たる部分は除かれ、それ以外は設計で決まる

夜勤手当と深夜手当(深夜割増)の違い

深夜手当(深夜割増賃金)は、22時から5時までの労働に対して、通常の賃金の25%以上を上乗せして支払うものです。労働基準法37条4項で定められており、支払いは法律上の義務です。

夜勤手当は、法律に定めのない、施設が独自に設ける手当です。支払うかどうか、いくらにするかは、就業規則(賃金規程)で決めます。

名前が似ているため混同されがちですが、最低賃金を判定するときは、この2つを分けて考える必要があります。

除かれるのは「深夜割増に当たる部分」だけ

第2章の表の⑤のとおり、最低賃金の計算から除かれるのは、22時から5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金を超える部分です。つまり、深夜割増の0.25に当たる部分です。

「夜勤手当」という名前の手当そのものが、除外賃金として挙がっているわけではありません。夜勤手当が最低賃金の計算に含まれるかどうかは、その手当が深夜割増の支払いを兼ねているかどうかで分かれます。

設計による2つのパターン

パターンA:深夜割増とは別立てパターンB:深夜割増を含む定額
深夜割増の支払い方夜勤手当とは別に計算して支払う夜勤手当に含めて支払ったことにしている
最低賃金の計算原則として含まれると考えられる深夜割増に当たる部分は含まれない
注意点1時間あたりの額への換算方法に、公的な計算例がないそもそも深夜割増を支払ったと認められるかが問題になる

パターンA(深夜割増とは別立て)

この場合の夜勤手当は、「夜勤という勤務」に対して支払う手当です。第2章の除外賃金のどれにも当たらないため、条文の構造からは、最低賃金の計算に含まれると考えられます。

ただし、夜勤手当は夜勤の回数によって月ごとの額が変わります。こうした手当を1時間あたりの額にどう換算するかについて、当事務所が確認した範囲では、厚生労働省の解説に計算例は見当たりません。換算の方法しだいで判定の結果が変わり得る以上、最低賃金を満たしているかの確認は、夜勤手当を入れずに行うのが安全です。具体的な手順は第7章で示します。

パターンB(深夜割増を含む定額)

深夜割増に当たる部分は除外されるため、夜勤手当の全額を最低賃金の計算に入れることはできません。

そもそも、定額の手当で深夜割増を支払ったと言えるためには、手当のうち通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できること、労働基準法で計算した額を下回らないことが必要です。この判別の考え方は、「職務手当に残業代を含む」は有効かと、管理監督者でも深夜割増は必要。ただし夜勤に入る介護施設長は、そもそも管理監督者かで扱っています。

加算の定義とは関係なく判定する

第3章で触れたとおり、夜勤のある月にだけ支払われる手当は、処遇改善加算でいう「決まって毎月支払われる手当」には当たりません。しかし、それは加算の要件の話です。最低賃金の計算から除かれるかどうかは、あくまで第2章の除外賃金に当たるかどうかで決まります。

6. 非常勤職員の深夜割増込み時給:22時〜5時の時間帯だけ割り戻して比べる

割増込みの時給は、割増を除いた額に戻して比べる

非常勤職員の夜勤では、深夜割増を含めた「夜間時給」を定めている施設があります。第2章の⑤と第5章で見たとおり、最低賃金の計算から除かれるのは深夜割増に当たる部分です。そのため、割増込みの時給は、そのまま最低賃金と比べることはできません。割増を除いた「通常の時給」に戻してから比べます。

割増率が25%の場合、割増込みの時給を1.25で割ると、通常の時給に戻ります。

計算例:兵庫県(1,172円)の場合

兵庫県の最低賃金は、令和8年10月1日から1,172円です。割増込みの夜間時給を1,450円としている場合で計算します。

1,450円 ÷ 1.25 = 1,160円 < 1,172円

見た目の1,450円は最低賃金を大きく上回っていますが、割り戻すと1,160円で、最低賃金を下回ります。逆算すると、割増込みの夜間時給は1,172円 × 1.25 = 1,465円以上が必要です。

最低賃金の改定時に、日中の時給は改定額に合わせて引き上げたものの、夜間時給の見直しを漏らす、というのが典型的な見落としです。改定のたびに、日中の時給と夜間時給の両方を確認する必要があります。

※最低賃金額は都道府県ごとに異なります。自施設の所在地の額と発効日で計算してください。

割り戻すのは22時〜5時の時間帯だけ

深夜割増が付くのは22時から5時までの時間帯だけです。夜勤が16時から翌9時までの場合、22時より前と5時より後の時間帯には深夜割増がありません。この時間帯の時給は割り戻さずに、そのまま最低賃金と比べます。

16時から翌9時までの夜勤のうち、22時から5時の時間帯だけを1.25で割り戻して最低賃金と比べることを示した図|キャプション:割り戻して比べるのは、深夜割増のある22時〜5時の時間帯だけ

つまり、1回の夜勤の中に「そのまま比べる時間帯」と「割り戻して比べる時間帯」が混在しています。夜勤専従の非常勤職員の所定労働時間の数え方は、介護の夜勤専従パート、社会保険と雇用保険は月何回から入るのかで扱っています。

夜勤の全時間に一律の「夜勤時給」を当てている場合

実務では、夜勤の全時間に同じ「夜勤時給」を当て、その中に深夜割増が含まれるとしている形も見られます。この形には2つの問題があります。

1つは、通常の時給がいくらなのかが規程上はっきりしないことです。22時より前と5時より後には、その夜勤時給が割増なしの通常の時給として支払われています。同じ額が、22時〜5時には「割増込み」だと言えるのかが問われます。通常の賃金と割増部分が判別できなければ、深夜割増を支払ったとは認められない可能性があります(第5章のパターンBと同じ問題です)。

もう1つは、最低賃金の判定の問題です。最低賃金を満たしているかは、安全側として、夜勤時給を1.25で割った額で確認してください。上の計算例のとおり、夜勤時給1,450円であれば、22時〜5時の時間帯は最低賃金を下回るおそれがあります。

この形を採っている場合は、賃金規程で「基本時給」と「深夜割増」を分けて定め、深夜割増は22時〜5時の時間帯について別に計算する形に整理しておくのが確実です。

割増率が25%を超える場合

深夜割増を30%など25%を超える率で支払っている場合は、1.25ではなく、実際の率(30%なら1.30)で割り戻します。最低賃金の計算から除かれるのは、通常の時給を超える部分すべてだからです。1.25で割ると、通常の時給を実際より高く見積もることになります。

7. 最低賃金改定時の確認手順:安全側から順に確かめる

最低賃金の改定時の確認は、どの賃金を含めて計算するかの順番が大切です。国が「最低賃金を満たしたうえで引き上げることが望ましい」としていること(第4章)、夜勤手当の換算に決め手がないこと(第5章)を踏まえると、含める賃金を絞った安全側の計算から確かめるのが確実です。

ステップ1:月給制の職員は、基本給と毎月定額の手当だけで満たしているか

基本給に、資格手当や役職手当など毎月定額の手当を加え、1か月平均所定労働時間で割ります。この段階では、処遇改善手当と夜勤手当は入れません。

結果意味
満たしている法律上も、国が望ましいとする水準でも問題ない
処遇改善手当(毎月定額)を足すと満たす最低賃金法の違反ではない。ただし、国が望ましいとする水準には届いていない。基本給の見直しを検討し、職員に説明できるようにしておく
処遇改善手当を足しても満たさない最低賃金を下回るおそれがある。直ちに見直す。夜勤手当を入れれば満たす、という判断には頼らない

計算例(兵庫県1,172円)

年間休日110日・1日8時間の場合、1か月平均所定労働時間は、年間2,040時間 ÷ 12 = 170時間です。

基本給190,000円 + 資格手当5,000円 = 195,000円

195,000円 ÷ 170時間 = 約1,147円 < 1,172円 → ステップ1では満たさない

毎月定額の処遇改善手当15,000円を足すと210,000円

210,000円 ÷ 170時間 = 約1,235円 ≧ 1,172円 → 違反ではないが、国が望ましいとする水準には届かない

この職員の場合、基本給と定額の手当だけで満たすには、1,172円 × 170時間 = 199,240円以上が必要です。

ステップ2:非常勤職員は、日中の時給と夜間時給の両方を確かめる

日中の時給が最低賃金以上かを確認します。処遇改善分を時給に上乗せしている場合は、上乗せ後の額で比べて構いません(第3章)。

あわせて、夜間時給を確認します。22時〜5時の時間帯の割増込み時給は1.25で割り戻して比べます。夜勤の全時間に一律の夜勤時給を当てている場合は、その全額を1.25で割った額で確かめます(第6章)。日中の時給だけを引き上げて、夜間時給の見直しを漏らしていないかが確認のポイントです。

ステップ3:外国人職員の賃金も、同じ手順で確かめる

技能実習生や特定技能の職員にも、最低賃金は日本人と同じく適用されます。技能実習生については、日本人が従事する場合と同等以上の報酬とすることが求められています。また、技能実習生と特定技能1号の職員は、処遇改善加算の対象にもなります(現行Q&A問2-3)。

当事務所が見てきた中にも、外国人職員の賃金を最低賃金付近に設定し、処遇改善手当を含めて最低賃金を満たしたことにしていた例がありました。外国人職員の賃金は、ステップ1・2の手順で日本人職員と同じように確認してください。同等報酬の考え方や処遇改善加算の配分については、介護事業所の外国人職員、賃金から何を引けるかで扱っています。

最低賃金改定時に、基本給と定額手当、処遇改善手当、夜間時給の順に確認する3段階のフロー|キャプション:含める賃金を絞った安全側の計算から順に確かめる

8. よくある質問

処遇改善の一時金は、最低賃金の計算に含められますか

含められません。賞与や年に数回支払う一時金は、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金として、最低賃金の計算から除かれます(最低賃金法施行規則1条1項)。

実績報告で賃金改善額が加算額に届かなかったときに、年度末に一時金で精算した分も同じです。最低賃金を満たしているかの確認には使えません。

処遇改善手当を基本給に組み替えれば、問題はなくなりますか

名目を基本給に変えても、処遇改善加算を原資とする賃金であることは変わりません。国の見解(最低賃金を満たしたうえでの引上げが望ましい)の対象であることも、変わらないと考えられます。最低賃金の確認は、第7章のステップ1の手順で、加算による改善分を除いた水準で行うのが確実です。

また、組み替えによって収入が下がる職員が出る場合は、就業規則の不利益変更に当たります。その場合は、合理的な理由に基づいて労使の合意を得る必要があります(現行Q&A問1-10・問3)。

最低賃金を下回っていた場合、どうなりますか

最低賃金を下回る賃金の定めは、その部分が無効になります。無効になった部分は、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。下回っていた期間の差額は、速やかに支払わなければなりません。

地域別最低賃金以上の賃金を支払わなかった場合は、50万円以下の罰金の対象になります(最低賃金法40条)。

最低賃金の発効日が、給与の計算期間の途中にある場合は?

発効日以降の労働については、改定後の最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります(厚生労働省「最低賃金に関するよくある質問」)。たとえば、毎月20日締めで発効日が10月1日の場合、9月21日〜10月20日の計算期間のうち、10月1日以降の労働分から新しい最低賃金が適用されます。「翌月の給与から引き上げる」という対応では、発効日から次の引上げまでの期間が不足になります。

計算期間の途中で単価を切り替える方法と、計算期間の初日に前倒しで引き上げる方法の、どちらでも構いません。ただし、引き上げの時期は、社会保険の随時改定(月額変更)の判定にも関わります。手当を引き上げたときの随時改定の考え方は、処遇改善手当・ベースアップ手当を上げたら月額変更届は必要かで扱っています。

9. まとめ

処遇改善手当は、毎月の通常の賃金として支払っていれば、最低賃金の計算に含まれます。含めた額で最低賃金を満たしていれば、最低賃金法の違反にはなりません。ただし国は、処遇改善加算の目的を踏まえ、最低賃金を満たしたうえで賃金を引き上げることが望ましいとしています。この見解は現行のQ&Aでも維持されており、最低賃金が引き上げられた場合も同様とされています。

夜勤の賃金では、深夜割増に当たる部分が最低賃金の計算から除かれます。非常勤職員の割増込みの夜間時給は、22時〜5時の時間帯について1.25で割り戻して比べます。回数払いの夜勤手当は換算方法に決め手がないため、含めずに確認するのが安全です。

最低賃金の改定時は、①基本給と毎月定額の手当だけで満たしているか、②非常勤職員の日中の時給と夜間時給、③外国人職員の賃金、の順に確かめると、法律上の要件と国の見解の両方に沿った確認になります。

最低賃金額と処遇改善加算のルールは、毎年度見直されます。この記事は令和8年10月時点の情報に基づいています。最低賃金額と発効日は厚生労働省の公表資料や各都道府県労働局で、加算の取扱いは最新のQ&Aで確認してください。自施設の賃金の判定に迷う場合は、都道府県労働局や、顧問の社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

医療・介護・福祉の事業者さまへ


顧問先の約8割が医療機関・介護福祉事業所です。業種は問いませんので、他の業種の事業者さまもご相談いただけます。労務相談と手続き代行を継続的にお受けする顧問契約(月額22,000円〜・税込)のほか、就業規則の作成・変更、助成金の申請代行、給与計算のみのご依頼もお受けしています。何をどこまでお受けするか、料金と契約の条件は業務案内に記載しています。ご契約前の面談は無料です。オンラインで全国対応。

※ご相談は事業者さまからのみお受けしています。従業員個人における案件(障害年金や賃金未払い請求に関するご相談など)のご相談はお受けできません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

川西 隆之のアバター 川西 隆之 社会保険労務士

兵庫県川西市の川西隆之社労士事務所
クラウドツールを活用した労務のデジタル化を得意としています
(ジョブカン認定アドバイザー)

税理士事務所勤務平成22年3月~平成31年1月
社労士業補助平成22年3月~平成28年8月
社労士登録平成28年9月~
1984年3月9日生まれ。
兵庫(但馬)産まれ兵庫(但馬)育ち。川西市在住。
一人の妻と3人の子どもたち。

2005年社労士試験合格
2016年開業登録(岐阜県)
→2020年より兵庫県川西市にて開業

以下の事項に力を入れています。
・クラウド勤怠管理・給与計算を利用した勤怠管理・給与計算の効率化
→給与計算に必要な時間の圧倒的な削減

・クラウド労務管理を導入することで、法定帳簿の管理・社会保険手続きの効率化
→代行することなく自社での管理・申請が容易に可能

・適切な労務管理を行うことによる、労使トラブルの防止
→疑問点があれば、その都度の相談可能

目次