処遇改善手当・ベースアップ手当を上げたら月額変更届は必要か|医療機関・介護事業所の随時改定の判定手順

処遇改善加算やベースアップ評価料を原資に、職員の手当を新設した、あるいは金額を引き上げた。厚生局への届出も済ませた。けれども、そのあと年金事務所に何かを出した記憶はない——。

この状態は珍しくありません。手当を上げることは加算の要件を満たすための行為ですが、給与を変えたという事実は、社会保険の手続きにも影響します。それが月額変更届(随時改定)です。

この記事では、医療機関・介護事業所が手当を改定したときに、月額変更届が必要かどうかを判定する手順を、順を追って整理します。

先に結論を書いておきます。改定したからといって、必ず届出が要るわけではありません。要件を満たさなければ出す必要はなく、その場合は何もしないことが正解です。問題は、要否を判定するという工程そのものが、業務に組み込まれていない事業所が多いことにあります。

目次

算定基礎届とは別に、その都度「判定する」工程が要る

標準報酬月額が見直される経路は、2つあります。

ひとつは定時決定です。毎年7月1日時点のすべての被保険者について、4月・5月・6月に支払った報酬の平均から標準報酬月額を決め直します。届出は算定基礎届で、決まった額はその年の9月分の保険料から適用されます。

もうひとつが随時改定です。こちらは全員が対象ではありません。昇給や手当の変更などで報酬が大きく変わった人だけを、定時決定を待たずに個別に見直します。届出は月額変更届で、変更後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目の標準報酬月額から改定されます。

実務で差が出るのは、要件の中身よりも、気づく仕組みがあるかどうかです。

算定基礎届は、忘れにくい仕組みになっています。日本年金機構から毎年6月中旬以降に順次様式が送られてきて、提出期限も定められています(令和8年度は7月10日でした)。年に一度の決まった行事として、事務のカレンダーに載っている事業所がほとんどでしょう。

月額変更届には、これがありません。提出時期は「速やかに」とだけ定められていて、期限の日付がない。該当者があらかじめ分かるものでもないため、様式が送られてくることもない。該当するかどうかは、事業所が自分で判定しない限り、誰も教えてくれません。

この違いは小さくありません。月額変更届の未提出は、多くの場合「忘れた」のではなく、判定していないためにそもそも該当者が存在しないことになっている、という形で起きます。担当者の知識の問題ではなく、判定という工程が業務フローに置かれていないという、体制の問題です。

そして、手当の改定はこの判定の入口にあたります。加算を取得するために手当を上げた時点で、3か月後に判定が必要な状態が発生しています。厚生局への加算の届出と、年金事務所への社会保険の手続きは、窓口が分かれているため接続が意識されにくいのですが、給与を変えるという一つの行為が、両方を動かしています。

次章以降は、この判定を関門に分けて順に見ていきます。

第1関門:その手当は固定的賃金か。名称ではなく支給設計で決まる

随時改定の出発点は、固定的賃金が変動したかどうかです。ここを取り違えると、以降の計算をいくら正確にやっても結論が変わってしまいます。

固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものを指します。日本年金機構は、固定的賃金の変動にあたる例として、昇給(ベースアップ)・降給、給与体系の変更(日給から月給への変更等)、日給や時間給の基礎単価の変更、請負給・歩合給等の単価や歩合率の変更、住宅手当や役付手当等の固定的な手当の追加・支給額の変更などを挙げています。

対して非固定的賃金は、勤務実績によって月ごとに支給額が変わるものです。残業手当が典型です。

注意すべきは、この分類が手当の名称では決まらないことです。「処遇改善手当」という同じ名前でも、支給の設計によって分類が変わります。判定に使うのは名称ではなく、賃金規程にどう書いてあるかです。

分ける軸は「額が変わるかどうか」ではありません

ここで多い誤解があります。月々の支給額が変動するかどうかで分けるのは、誤りです。

時給制のパート職員を考えてください。時給1,100円の職員の給与は、働いた時間によって毎月変わります。しかし時給は固定的賃金です。年金機構が固定的賃金の変動の例として「日給や時間給の基礎単価の変更」を挙げているとおり、単価が決まっている以上、月額が変動しても固定的賃金として扱います。

正しくは、基本給と手当を分けて考えます。

  1. 基本給は、月給・日給・時給のどれであっても固定的賃金です。時給制で月額が変動しても、分類は変わりません
  2. 手当は、支給の有無や額が勤務実績で決まるかどうかで分けます。毎月決まって支払われるものは固定的賃金、その勤務に入ったときだけ発生するものは非固定的賃金です
  3. 非固定的賃金であっても、単価や計算のルールを変更した場合は、固定的賃金の変動にあたります。額の増減ではなく、賃金体系が変わったとみなされるためです

この3つを踏まえて、医療機関・介護事業所に多い賃金項目を当てはめると、次のようになります。

賃金項目支給の設計分類
基本給(月給制)月額固定固定的賃金
基本給(時給制・日給制)単価 × 実績固定的賃金
ベースアップ手当・処遇改善手当毎月一律定額固定的賃金
ベースアップ手当・処遇改善手当時給への上乗せ(時給+◯円)固定的賃金
資格手当保有資格に対する定額固定的賃金
住宅手当・家族手当定額固定的賃金
固定残業代定額固定的賃金
夜勤手当回数にかかわらず月額定額固定的賃金
夜勤手当・当直手当1回いくらで回数に応じる非固定的賃金
オンコール手当(待機手当)待機回数に応じる非固定的賃金
時間外手当実労働時間による非固定的賃金

夜勤手当・当直手当・オンコール手当を非固定的賃金としているのは、その勤務に入ったかどうかで支給の有無が決まるためです。公的な解説でも、非固定的賃金の例として宿日直手当が挙げられています。ただし、同じ夜勤手当でも、回数にかかわらず月額定額で支給している場合は固定的賃金です。ここでも判断の材料は名称ではなく、賃金規程の定め方になります。

とくに注意したいのが、表の4行目です。ベースアップ評価料も処遇改善加算も、原資を時給に上乗せする形で配ることがあります。時給1,100円を1,130円にする、あるいは「ベースアップ手当として時給に30円加算する」といった設計です。

この場合、月々の支給額は労働時間によって変わりますが、これは固定的賃金の変動です。ベースアップ評価料の施設基準が求めている「基本給の引上げ」そのものにあたります。「額が毎月変わるから非固定的賃金だ」と判断して判定を飛ばすと、そこで漏れます。

ただし、時給制の職員には支払基礎日数の要件があります。時給制の場合は出勤日数で数えるため、3か月のいずれかで17日を下回れば、時給を上げていても随時改定にはなりません。この点は次章で扱います。

住宅手当・役付手当や日給・時給の基礎単価については年金機構が明示していますが、夜勤手当やオンコール手当のように公的資料が個別に名指ししていない手当は、上の考え方に当てはめて整理したものです。自院・自施設の賃金規程で支給の条件を確認してください。

ベースアップ評価料は、構造的に固定的賃金の変更となります

ここで押さえておきたいのは、ベースアップ評価料の要件との関係です。

ベースアップ評価料の施設基準では、当該評価料により得られる収入をすべて、対象職員の基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げと、それに伴う賞与・時間外手当等に充てることが求められています。

「決まって毎月支払われる手当」は、社会保険でいう固定的賃金とほぼ重なります。つまり、ベースアップ評価料の要件を満たすように賃金改善を行えば、その行為はほぼ自動的に固定的賃金の変動を発生させることになります。加算を取るための手続きが、そのまま社会保険の判定を起動させている、という関係です。

介護職員等処遇改善加算の場合は配分の自由度がやや高く、一時金を組み合わせることも選べます。この違いは後の章で扱います。

非固定的賃金は、「増減」と「単価の変更」で扱いが逆になります

ここが第1関門でつまずきやすい箇所です。同じ夜勤手当でも、何が変わったかで結論が反対になります。

何が起きたか固定的賃金の変動随時改定
夜勤の回数が増えた(単価は同じ)なし対象外
夜勤手当の単価を1回8,000円から10,000円に上げたあり判定が必要

夜勤の回数が増えて手当が伸びた、時間外が急増した——こうした理由で給与総額が上がっても、固定的賃金が動いていなければ随時改定にはなりません。非固定的賃金の増減だけを見て「今月は大きく上がったから月変では」と考える必要はありません。

一方、単価そのものを引き上げた場合は話が変わります。支給の実績が変わったのではなく、支給のルールが変わっているためです。年金機構が固定的賃金の変動の例として挙げている「日給や時間給の基礎単価の変更」「請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更」は、この類型にあたります。

夜勤手当の単価改定は、処遇改善加算の配分とは別に、人材の確保や定着を目的として行われることがあります。この場合も判定は必要です。手当の名称や、原資が何であるかは関係がありません。

なお、単価を上げた場合の起算月は、変更後の単価による手当が実際に支払われた月です。夜勤のシフトが翌月払いになっている事業所では、単価を改定した月と、その単価が給与に反映される月がずれます。判定の3か月は、規程を変えた月ではなく、支払った月から数えます。

同じことは時間外手当にも当てはまります。時間外手当そのものは非固定的賃金ですが、割増率や計算の基礎単価を変更した場合は、その変更が固定的賃金の変動にあたります。

ただし、非固定的賃金の「新設」は別扱いです

ここは間違えやすいので、はっきり書きます。

支給額が変動する手当であっても、それを新しく設けた場合は、随時改定の契機になります。手当の増減ではなく、賃金体系そのものが変わったとみなされるためです。

日本年金機構の標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集では、非固定的賃金の新設による賃金体系の変更を随時改定の契機とする場合、その非固定的賃金が支払われたかどうかにかかわらず、新設された月を起算月とすると示されています。以後の継続した3か月間のいずれかの月に支給実績が生じていれば、随時改定の対象となります。3か月間のいずれにも支給実績がなければ、報酬の変動要因とみなせないため、対象にはなりません。(賃金体系の変更となるため。)

たとえば「オンコール1回につき◯円」という手当を6月に新設し、その職員が6月は一度も待機に入らず、7月に初めて待機が発生した場合。起算月は7月ではなく、新設した6月です。

第2関門:2等級以上の差が出るか。出なければ届出は不要

固定的賃金が動いていることを確認できたら、次は金額の判定に進みます。

判定は、変動月から続く3か月の報酬の平均額で行います。変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額から算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じることが要件です。ここでいう変動月とは、変動した固定的賃金により報酬を支払った月を指します。

平均に含めるのは、その3か月に支払った報酬の全額です。固定的賃金だけを取り出して比べるのではありません。時間外手当や夜勤手当といった非固定的賃金も、すべて合算したうえで3で割ります。

ここで押さえるべき点があります。手当を上げたからといって、2等級以上動くとは限りません。むしろ、処遇改善の原資から配分される手当の額は、1人あたり月数千円から1万円台であることが多く、その程度では等級が1つ動くか動かないかにとどまるケースが相当あります。

2等級に届かなければ、月額変更届は提出しません。出さないことが正しい処理です。「手当を上げたのだから何か出さなければ」と考えて全員分を提出する必要はありませんし、逆に「金額が小さいから関係ない」と判定自体を省略してよいわけでもありません。判定はする、結果として不該当なら出さない。これが正しい姿です。

3か月とも、支払基礎日数が足りていること

もうひとつの要件は日数です。

変動月以後引き続く3か月の各月について、報酬の支払基礎日数が17日以上であることが必要です。特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上となります。支払基礎日数とは給与計算の対象となる日数で、日給制や時給制の場合は出勤日数、月給制や週給制の場合は暦日数で計算します。

3か月のうち1か月でも17日を下回れば、その時点で随時改定は行いません。平均を取る前に脱落します。

医療・介護では、この要件で外れる職員が一定数出ます。時給制のパート職員が3か月のいずれかで出勤日数を落とした場合や、月の途中で長期の休みに入った場合などです。固定的賃金が動いた対象者の一覧を作ったら、その全員について3か月分の支払基礎日数を確認する必要があります。

なお、短時間労働者の11日という基準は、特定適用事業所に該当する場合に限られます。令和8年8月時点では、厚生年金保険の被保険者数が常時50人を超える企業等が対象です。クリニックや小規模の介護事業所では、通常は17日で判定することになります。

変動の向きが一致しないときは、対象外になります

実務で最も見落とされやすいのがここです。

固定的賃金は上がったのに、3か月の平均で見ると標準報酬月額が下がっている——医療・介護ではこれが現実に起きます。非固定的賃金の比重が大きいためです。

たとえば、6月に処遇改善手当を1万円増額した職員がいたとします。ところが同じ時期に病棟の勤務調整で夜勤の回数が減り、6月から8月の夜勤手当が従前より月2万円ほど下がった。この場合、固定的賃金は増えているのに、3か月平均の報酬は従前を下回ります。

このように、固定的賃金は上がったが非固定的賃金が減ったために、3か月の平均額から算出した標準報酬月額が従前より下がって2等級以上の差が生じた場合、随時改定の対象にはなりません。反対に、固定的賃金は下がったが非固定的賃金が増えて標準報酬月額が上がった場合も、同じく対象外です。

固定的賃金が動いた向きと、標準報酬月額が動いた向きが一致していることが必要です。手当を上げたのに等級が2つ下がった、という結果が出たときは、届出をせずに止めます。

例外:上限・下限では1等級差でも対象になります

原則は2等級以上ですが、等級表の端にいる人には例外があります。

標準報酬月額の上限または下限にわたる等級変更の場合は、1等級差でも随時改定の対象となります。厚生年金保険では、従前が31等級(62万円)で報酬の平均月額が66万5千円以上となった場合や、従前が1等級(8万8千円)で報酬月額が8万3千円未満だった人が9万3千円以上となった場合などが該当します。

該当する職員がいる事業所は限られますが、役員報酬を含めて処理している医療法人などでは、上限側で発生する可能性があります。

誰を判定するのか。原資制度で対象の範囲が違う

判定の手順が分かったら、次は誰について判定するかです。

随時改定の判定が必要なのは、実際に賃金が変更となった職員だけです。全職員ではありません。そして誰の賃金が動くかは、原資となる制度が誰を賃金改善の対象としているかによって決まります。

ここが通常の一律ベースアップと違う点です。全員に同じ額を上乗せする昇給なら、対象者を考える必要はありません。処遇改善加算やベースアップ評価料を原資とする場合は、制度上の対象職員に該当する人にだけ配分されるため、事業所の中で判定が必要な人とそうでない人が分かれます。

医療機関の場合

ベースアップ評価料の対象職員は、令和8年度の診療報酬改定で範囲が広がりました。

医療提供体制を支える幅広い職員の人材確保と確実な賃上げを実施する観点から対象職員を拡大するとされ、事務職員、40歳未満の医師、40歳未満の歯科医師、40歳未満の薬局薬剤師も対象とすることが示されています。一方、保険医療機関の開設者、管理者、法人の代表者、役員は対象職員に含まれません。

令和6年度の施設基準では、対象職員から「専ら事務作業を行う職員」が除かれていました(医療事務作業補助者や看護補助者は含まれます)。令和8年度に対象が広がったことで、受付や医事課の職員など、これまで賃金が動かなかった層が新たに判定の対象に入る可能性があります。前年度と同じ感覚で対象者を絞ると、判定から漏れます。

介護事業所の場合

介護側も令和8年度に変更がありました。令和8年度介護報酬改定では、処遇改善の対象が介護職員から介護従事者全般へ拡大され、対象範囲の拡大と加算率の見直しが行われました。これまで処遇改善加算の対象外だった訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援についても、加算(Ⅳ)に準ずる要件または令和8年度特例要件を満たすことで算定が可能になっています。

つまり、これまで加算と無縁だった事業所で、初めて賃金改善が発生している場合があります。訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所を併設している法人では、その事業所の職員が新たに判定対象に入ります。

職員名簿ではなく賃金台帳から確認をする

対象職種の範囲を制度側から確認することは必要ですが、判定の実務では別の入口を使う方が確実です。

賃金台帳を、改定前の月と改定後の月で突き合わせることです。制度上の対象職員と、実際に手当が支給された職員は、必ずしも一致しません。配分の設計によっては、対象職種であっても金額がゼロの職員が出ることもあれば、加算とは無関係の理由で同じ月に昇給した職員が混ざることもあります。

判定に必要なのは「制度上の対象者か」ではなく「固定的賃金が実際に動いたか」です。この違いは、賃金改善計画を作った担当者と、給与計算をする担当者が別の人である事業所ほど、意識しておく価値があります。計画上の対象者リストをそのまま判定対象として使うと、計画に載っていない昇給を見落とします。

令和8年は6月から。算定基礎届を出した後、9月にもう一度確認が必要

ここまでの判定を、実際のカレンダーに乗せます。医療機関・介護事業所には、他業種にない事情があります。賃金改善の起点が、報酬改定の施行時期に縛られるということです。

そして令和8年は、医療も介護も6月が起点でした。

医療側は、令和8年6月からベースアップ評価料を算定するために、令和8年6月1日までに施設基準を届け出る必要がありました。これは初めて算定する医療機関でも、すでに算定している医療機関でも同じです。介護側も、処遇改善分の施行は令和8年6月です。

つまり、6月支給分の給与から手当が動いた事業所が多いはずです。この場合、判定の3か月は6月・7月・8月、改定月は9月になります。

9月改定は、定時決定と重なります

ここが問題です。定時決定で決めた標準報酬月額も、9月分から適用されます。同じ月に、2つの改定が向かってくることになります。

順を追うと、こうなります。

  1. 7月10日まで:算定基礎届を提出する。4月・5月・6月の平均で計算します。このうち6月には、増額後の手当がすでに1か月分だけ入っています
  2. 9月:算定基礎届で決めた標準報酬月額が適用される。ただし6月分しか反映されていないため、中途半端な水準です
  3. 9月:随時改定にも該当していれば、そちらが適用される。6・7・8月の平均なので、増額後の手当が3か月分入った、実態に合った水準です

7月・8月・9月の随時改定に該当する場合は、随時改定により決定された標準報酬月額が優先されます。算定基礎届の提出後であっても、随時改定に該当した場合は月額変更届を提出することになります。

給与計算の担当者から見ると、「7月に算定基礎届を出して一段落したのに、9月からまた等級が変わる」という状態です。そして算定基礎届を出した時点では、8月の給与がまだ確定していないため、随時改定に該当するかどうかも分かりません。

算定基礎届を出すときに、選べる処理があります

この重なりに対して、制度側に手当てがあります。

算定基礎届の提出対象は7月1日現在のすべての被保険者ですが、次に該当する方は提出が不要です。6月1日以降に資格取得した方、6月30日以前に退職した方、7月改定の月額変更届を提出する方、そして8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った方です。

つまり、6月起点で9月改定が見込まれる職員については、あらかじめ申し出て算定基礎届を省略できます。

処理の方法は、提出媒体で異なります。

提出方法処理
紙の届出用紙報酬月額欄を空欄にし、備考欄の「3.月額変更予定」に○を付ける
電子申請・電子媒体該当者を対象から除外して作成する

ただし、これは義務ではありません。通常どおり算定基礎届を出しておき、後から随時改定に該当したら月額変更届を出す、という順序でも処理としては成立します。随時改定が優先されるためです。

事業所の規模と、判定の見通しの立ち具合で選ぶことになります。該当が確実に見込めるなら省略する方が事務は減ります。逆に、7月上旬の時点で判定の見通しが立たないなら、通常どおり出しておく方が安全です。

実務上では、月変予定者も月額算定を提出します。そのうえで、月変予定者として備考欄に記載しています。

省略したのに該当しなかった場合は、出し直しが要ります

省略を選んだ場合には、後始末があります。

8月・9月の随時改定を見込んで算定基礎届を省略したものの、その後に時間外が減ったり、支払基礎日数が足りなかったりして、結果として随時改定に該当しないことがあります。この場合、その職員の標準報酬月額はどこにも決定されないまま残ります。

日本年金機構は、当該被保険者について、8月または9月の随時改定の要件に該当した場合は月額変更届を、随時改定の要件に該当しないことが判明した場合は算定基礎届を、速やかに提出するよう求めています

注意したいのは、この不該当が誰からも知らされないことです。特に電子申請でデータから除外した場合、除外したという記録が手元に残りにくく、9月を過ぎてから気づくことになります。省略を選ぶなら、除外した職員の一覧を別に持っておく必要があります。

4月から前倒しで充当した場合は、7月改定です

なお、令和8年6月を待たず、4月から賃金改善に充当した医療機関もあります。この場合、変動月は4月、判定は4・5・6月、改定月は7月になります。7月改定に該当する職員は、そもそも算定基礎届の対象外です。

整理すると次のとおりです。

手当が動いた支給月判定する3か月改定月算定基礎届
4月(前倒し充当)4・5・6月7月対象外
5月5・6・7月8月申し出により省略可
6月(令和8年の標準)6・7・8月9月省略可。省略しない場合は定時決定を上書き

一時金で配った場合は、別の手続きになる

ここまでは、毎月の給与に手当として上乗せする配分を前提にしてきました。原資を一時金でまとめて配る場合は、手続きの経路が変わります。

一時金は、随時改定の判定対象になりません。固定的賃金の変動ではないためです。代わりに、賞与支払届の対象になります。標準賞与額として、支給の都度、保険料が計算されます。

ただし、支給回数によって扱いが変わります。給与規程等で年4回以上支給することが定められている場合、その一時金は賞与ではなく報酬として扱われ、標準報酬月額の計算に含まれます。年3回以下であれば賞与です。

処遇改善の原資を配る場面では、年1回か2回にまとめる設計が多いため、通常は賞与支払届で処理することになります。ただし、すでに夏と冬の賞与を支給している事業所で、処遇改善分を別枠で年2回追加すると、合計で年4回になります。この場合は取り扱いが変わるため、回数を数え直す必要があります。

配分方法の選択肢は、医療と介護で違います

配分をどうするかは経営判断ですが、どちらの制度も、毎月の賃金を一定割合以上引き上げることを求めています。

医療機関の場合、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)では、評価料による収入の3分の2以上を基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げに充て、残りの3分の1以下を賞与等に充てることとされています。一時金だけで配分を完結させることはできません。

介護事業所の場合も、月額賃金改善要件があります。新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てる必要があります(このほか、ベースアップ等加算相当分についての要件もあります)。こちらも、一時金だけで配ることはできません。

つまり、どちらを選んでも、随時改定の判定は原則として発生します。一時金は、月額の改善に上乗せする部分や、実績が加算額に届かなかった場合の補填として使われるものであって、判定を回避する手段ではありません。

ただし、月額に回す義務の範囲は医療のほうが広く、介護のほうが一時金に回せる余地があります。同じ加算額でも、月額の引上げ幅が小さければ2等級差に届く職員は減ります。配分方法を検討する段階でこの違いを織り込んでおくと、判定が必要になる人数の見通しが立ちます。

なお、いずれの割合も令和8年8月時点のものです。制度は改定されるため、配分を決める前に最新の要件を確認してください。

配分方法そのものの検討については、ベースアップ評価料が余ったら賞与でいいのかと、処遇改善加算は基本給・手当・賞与どれで配るかで詳しく扱っています。

提出の漏れは調査で見つかる。原因は判定力ではなく伝達

月額変更届の未提出は、提出しなかった時点では何も起きません。誰からも指摘されず、給与計算もそのまま処理。表面化するのは、たいてい年金事務所の調査です。

調査では、賃金台帳、就業規則・賃金規程、出勤簿やタイムカードといった書類の提出を求められます。担当官はこれらを突き合わせます。賃金規程で手当が新設されているのに月額変更届が出ていない、賃金台帳で基本給が上がっているのに判定した形跡がない——この照合は、書類が揃っていれば機械的にできます。

判明した場合は、遡って標準報酬月額を訂正することになります。保険料の差額は労使双方に生じるため、事業所は自社負担分を追加で納め、従業員からは過去分を追加徴収することになります。なお、保険料を徴収する権利は2年で時効により消滅すると定められているため、遡る範囲はその期間内に限られます。

ここが厄介です。従業員側から見れば、何年も前の給与について、いま突然の控除が発生することになります。本人に落ち度はなく、説明も難しい。金額が大きければ、給与への信頼そのものが揺らぎます。保険料の負担よりも、この説明の場面の方が実務では重くなります。

原因は、判定できなかったことではありません

こうした事例で実際に起きているのは、判定を誤ったことではなく、判定するきっかけが届いていなかったということです。

賃金を変えると決めるのは、院長・理事長・施設長です。処遇改善加算やベースアップ評価料であれば、加算の届出をする担当者もいます。一方、給与計算をして社会保険の届出を出すのは、また別の担当者であることが多い。この間に「給与を変えました」という情報を渡す工程がなければ、届出担当者にとってその変更は存在しません。

給与ソフトのマスターは書き換えられ、翌月から正しい金額が支給されます。計算そのものは合っている。だからこそ気づかれません。3か月後に判定が必要だと教えてくれる仕組みは、給与ソフトにも年金事務所にも用意されていません。

賃金を変えたときに発生する手続きは、月額変更届だけではありません。昇給したときに労働条件通知書が必要になるかという論点もあります。どちらも「賃金を変えた」という同じ出来事から発生しますが、担当する人も期限も違います。だからこそ、変更の情報を一箇所に集める工程が要ります。

塞ぐのは、知識ではなく段取りです

必要なのは、担当者が随時改定の要件を暗記することではありません。賃金を変えたときに、それが届出担当者に届く経路を作ることです。

たとえば、次のような形が考えられます。

  • 賃金規程や個人別の賃金を変更したら、変更した月・対象者・変更前後の金額を1枚に残す
  • 毎月の給与計算のときに、前月と当月で固定的賃金に差がある職員を機械的に抽出する
  • 抽出した職員について、3か月後にもう一度見ることを決めておく

いずれも高度な知識は要りません。やっていないだけの工程です。特に、給与計算をExcelや手作業で回している事業所では、前月との差分を出す作業自体が手間になるため、抜けやすくなります(勤怠・マイナンバー・給与計算をExcelで扱う場合のリスクも参考にしてください)。

よくある質問

手当を上げたら、必ず月額変更届が必要ですか。

いいえ。必要になるのは、固定的賃金が変動し、変動月から3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上動き、その3か月とも支払基礎日数が足りている場合です。すべてを満たさなければ、提出しません。手当の額が小さく2等級に届かないケースは珍しくありません。ただし、要件を満たすかどうかを確認する作業自体は必要です。

賃金規程を変えた月と、実際に手当を支払った月が違います。どちらから数えますか。

支払った月から数えます。判定に使う「変動月」は、変動した固定的賃金により報酬を支払った月です。規程の改定日ではありません。ただし、支給額が変動する手当を新しく設けた場合だけは例外で、支払いの有無にかかわらず新設した月が起算月になります。

パート職員の時給に上乗せする形でベースアップ手当を出しています。額が毎月変わりますが、対象になりますか。

対象になります。時給は固定的賃金であり、その単価を上げたことは固定的賃金の変動にあたります。労働時間によって月々の支給額が変わることは、分類に影響しません。ただし、時給制は支払基礎日数を出勤日数で数えるため、3か月のいずれかで17日を下回れば対象外になります。

4月に遡って差額を支給しました。変動月は4月ですか。

いいえ、差額を実際に支払った月が変動月になります。そのうえで、平均額を計算するときは、その月に含まれる過去分の差額を除いて計算します。

手当を上げたのに、標準報酬月額が2等級下がりました。届出は必要ですか。

必要ありません。固定的賃金が動いた向きと、標準報酬月額が動いた向きが一致していない場合は、随時改定の対象外です。夜勤回数の減少などで非固定的賃金が大きく減ったときに起こります。

算定基礎届と月額変更届の両方に該当します。どちらを出しますか。

7月・8月・9月の随時改定に該当する場合は、随時改定が優先されます。あらかじめ申し出て算定基礎届を省略することもできますし、通常どおり算定基礎届を出したうえで、後から月額変更届を出すこともできます。どちらでも処理は成立します。

月額変更予定として算定基礎届を省略しましたが、結局該当しませんでした。

その職員について、速やかに算定基礎届を提出してください。放置すると標準報酬月額が決まらないまま残ります。この不該当は自動的には知らされないため、省略した職員の一覧を手元に残しておくことをおすすめします。

パート職員も判定の対象になりますか。

対象になります。ただし支払基礎日数の要件があり、3か月のいずれかで17日を下回れば対象外です。時給制の職員は出勤日数で数えます。なお、特定適用事業所(令和8年8月時点では厚生年金保険の被保険者数が常時50人を超える企業等)に勤務する短時間労働者は、11日以上で判定します。

一時金で配れば、月額変更届は不要ですか。

一時金そのものは随時改定の対象ではなく、賞与支払届で処理します。ただし、ベースアップ評価料も介護職員等処遇改善加算も、加算額の一定割合以上を毎月の賃金の引上げに充てることを求めています。一時金だけで配分を完結させることはできないため、判定を回避する手段にはなりません。

提出期限はいつですか。

「速やかに」と定められており、日付の期限はありません。該当が判明した時点で提出します。3か月目の給与が確定してはじめて判定できるため、実務上は4か月目に入ってからの提出になります。

まとめ

手当を上げたときに月額変更届が必要かどうかは、次の順に確認すれば判定できます。

  1. その手当は固定的賃金か。名称ではなく、金額が毎月一定かどうかで決まります。支給額が変動する手当でも、新しく設けた場合は判定の対象になります
  2. 3か月とも支払基礎日数が足りているか。1か月でも17日を下回れば、そこで対象外です
  3. 3か月の平均で2等級以上の差が出るか。出なければ、提出しません
  4. 変動した向きと、標準報酬月額が動いた向きは一致しているか。固定的賃金を上げたのに平均が下がったなら、対象外です

そして令和8年は、医療も介護も6月が起点でした。6月支給分から手当が動いた事業所では、改定月は9月です。算定基礎届を7月に出していても、9月から随時改定が上書きします。

判定そのものは、慣れれば難しい作業ではありません。実務で問題になるのは、判定するきっかけが担当者に届いているかどうかです。賃金を変えたという情報が、給与計算をする人に渡る経路を作っておくことが、いちばん確実な対策になります。

なお、この記事の内容は令和8年8月時点のものです。診療報酬・介護報酬の改定、保険料率の変更、社会保険の適用範囲の見直しは今後も続きます。判断に迷う場合は、日本年金機構の随時改定(月額変更届)のページや管轄の年金事務所、顧問の社会保険労務士に確認してください。

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この記事を書いた人

川西 隆之のアバター 川西 隆之 社会保険労務士

兵庫県川西市の川西隆之社労士事務所
クラウドツールを活用した労務のデジタル化を得意としています
(ジョブカン認定アドバイザー)

税理士事務所勤務平成22年3月~平成31年1月
社労士業補助平成22年3月~平成28年8月
社労士登録平成28年9月~
1984年3月9日生まれ。
兵庫(但馬)産まれ兵庫(但馬)育ち。川西市在住。
一人の妻と3人の子どもたち。

2005年社労士試験合格
2016年開業登録(岐阜県)
→2020年より兵庫県川西市にて開業

以下の事項に力を入れています。
・クラウド勤怠管理・給与計算を利用した勤怠管理・給与計算の効率化
→給与計算に必要な時間の圧倒的な削減

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・適切な労務管理を行うことによる、労使トラブルの防止
→疑問点があれば、その都度の相談可能

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