職員の時給を上げた。パートの勤務日を週3日から週4日に増やした。常勤だった職員が、家庭の事情でパートになった。医療機関や介護事業所では、こうした労働条件の変更が日常的に起きます。
そのたびに、労働条件通知書を作り直し、雇用契約書を結び直さなければならないのでしょうか。
この点について、インターネット上の解説は「変更のたびに交付が必要」とするものと、「変更時に交付する義務はない」とするものが混在しています。同じことを調べているのに、答えが正反対に見える状態です。
この記事では、労働基準法と労働契約法の条文に沿って、どの変更に書面の義務があり、どの変更にはないのかを、医療・介護の現場で実際に起きる4つの場面に分けて整理します。
1. 労働条件を変更しても、書面の作り直しは原則として義務ではない
結論から述べます。労働条件を変更したときに、労働条件通知書を作り直して交付する法律上の義務は、原則としてありません。
労働基準法15条1項は、労働条件の明示を「労働契約の締結に際し」行うものと定めています。義務が生じるのは契約を結ぶ時点であり、契約が続いている間の変更には、この規定は及びません。明示義務に違反した場合の30万円以下の罰金(同法120条1号)も、締結時の明示についてのものです。
したがって、無期雇用の職員の時給を引き上げたことを口頭で伝えただけであっても、そのこと自体が法違反になるわけではありません。
ただし、例外が1つあります。有期契約の更新です。
労働基準法施行規則5条が定める明示事項は、契約の締結時だけでなく更新時も対象になります。更新は新しい契約を結ぶ行為だからです。医療事務、看護助手、介護職など、有期契約のパート職員が多い医療機関・介護事業所では、この例外に当てはまる職員の方が多いこともあります。
そして、義務がないことと、書面を残さなくてよいことは別です。
労働契約法4条2項は、労働者と使用者は労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする、と定めています。罰則のない努力義務です。ただ実務では、変更に合意があったこと、そしていつから条件が変わったのかを後から示せる材料は、書面しかありません。この記事で扱う4つの場面でも、口頭で足りる場面と、書面がないと後で困る場面が分かれます。
なお、労働条件通知書と雇用契約書は役割が違います。労働条件通知書は使用者から労働者への一方的な明示、雇用契約書は労使双方が署名して合意を残す書面です。労働基準法15条が求めているのは前者で、変更の合意を証拠として残すのに向いているのは後者です。
2. 「必要」と「不要」、解説が割れているのはなぜか
同じ疑問を検索しても答えが正反対に見えるのは、2つの異なる法律の規定が、区別されないまま説明されているためです。
労働基準法15条1項は、契約の締結時に労働条件を明示することを求め、違反には罰金の定めがあります。一方、労働契約法4条2項は、契約の内容をできる限り書面で確認することを求めるもので、罰則はありません。前者は罰則付きの義務、後者は努力義務です。
「変更のたびに交付が必要」と説明する解説は、労働契約法が求める実務上の望ましい対応を、労働基準法上の義務と同じ強さで書いていることがあります。逆に「変更時に義務はない」と説明する解説は、有期契約の更新という例外に触れていないことがあります。どちらも半分は正しく、半分が抜けている状態です。
もっとも、「変更時に義務がない」ことは、書面をめぐる管理全般が緩やかであることを意味しません。
厚生労働省の資料によれば、労働基準監督署が実施する定期監督等において、労働基準法15条(労働条件の明示)の違反は令和6年で14,250件、違反率は10.0%でした。この違反率は近年おおむね10%前後で推移しています。締結時の明示は、現に監督の対象として見られている項目です。募集の段階で示した条件と実際の労働条件が食い違う場合の取り扱いは、介護の求人票、実態と違うと何が起きるかで扱っています。
したがって、労働条件を変更した場面で確かめるべきことは、次の2点になります。
- そもそも入社時の労働条件通知書が交付され、控えが残っているか
- 今回の変更が、新たな契約の締結に当たるものかどうか
1が欠けている場合は、変更時の書面を検討する前に、そちらを整える方が先です。2については、次の章で場面ごとに判定します。
3. 場面別の判定|その変更は「新たな契約の締結」に当たるか

判定は2つの問いで決まります。1つ目は、その変更が契約の更新や定年後の再雇用と重なっていないか。ここに当たる場合、書面の交付は法律上の義務です。2つ目は、賃金だけが変わるのか、それとも所定労働日数・所定労働時間も動くのか。以下では、義務の軽い場面から順に見ていきます。
3-1. 賃金だけが変わる場合(昇給・時給改定・最低賃金改定)
無期雇用の職員の時給や基本給を引き上げた場合、労働条件通知書を作り直して交付する法律上の義務はありません。契約は続いており、新たに締結したわけではないためです。口頭で伝えただけでも、それ自体は法違反ではありません。
最低賃金の改定に伴う引き上げは、さらに性質が異なります。最低賃金法4条2項により、最低賃金額に達しない賃金の定めはその部分が無効となり、最低賃金と同額を定めたものとみなされます。法律の効力で契約内容が自動的に置き換わるため、改定に合わせて契約を結び直す必要はありません。
2026年度の地域別最低賃金は、中央最低賃金審議会が引き上げ額の目安を答申しています。目安どおりに改定された場合の全国加重平均は1,176円です。ただしこれは目安であり、確定額は各都道府県労働局長が決定します。発効日も都道府県ごとに異なります。自院・自施設の所在地の額と発効日は、管轄の労働局で確認してください。
義務ではありませんが、賃金改定通知書などの形で記録を残すことは実務上有用です。いつからいくらに変わったのかは、後から給与明細を並べても正確には辿れないことがあります。
3-2. 勤務日・勤務時間が変わる場合
ここは2つの異なるものが混ざりやすい場面です。
1つは、契約上の所定そのものを変える場合。週3日勤務の契約を週4日にする、午前のみだった職員を午後も勤務にする、といったケースです。これは労働契約の内容の変更にあたり、労働契約法8条により労使の合意が必要です。書面の交付は労働基準法上の義務ではありませんが、合意があったことと変更日を示せる書面を残すべき場面です。
もう1つは、あらかじめ定めた範囲の中で、月ごとの勤務日を割り振る場合。「週3日勤務、勤務日はシフトによる」と契約したうえでシフト表を組む行為は、契約の範囲内での特定にすぎません。シフトが変わるたびに書面を作り直す必要はありません。
なお、契約時に労働日や始業終業時刻が確定していない場合、労働条件通知書に「シフトによる」とだけ記載することは足りないとされています。厚生労働省のシフト制により就業する労働者の雇用管理に関する留意事項(令和4年1月策定)は、労働日ごとの始業終業時刻を明記するか、原則的な時刻を記載したうえで一定期間分のシフト表を交付することを求めています。曜日によって診療時間が異なるクリニックでは、この点が曖昧なまま運用されていることがあります。書き方の具体例は、曜日で診療時間が違う勤務を労働条件通知書にどう書くかで扱っています。
そして、所定労働日数・所定労働時間が変われば、社会保険と雇用保険の加入判定に影響します。いずれも届出が必要になるため、手続きの流れで気づくことが多い部分です。
3-3. 常勤とパートを行き来する場合
常勤からパートへ、パートから常勤へ、あるいは日勤から夜勤専従へ。この場面では、賃金と所定の両方が同時に動きます。3-1と3-2で挙げたことがすべて重なるうえ、賃金や勤務時間が減る方向であれば、労働条件の不利益変更の問題になります。
不利益変更については、最高裁が判断の枠組みを示しています。賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意は、同意書への署名押印があるというだけでは足りず、不利益の内容と程度、その行為に至った経緯、事前の情報提供や説明の内容に照らして、労働者の自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点から判断されるとしたものです(山梨県民信用組合事件・最高裁第二小法廷 平成28年2月19日判決)。
本人からの希望による変更であっても、何を説明し、本人が何に合意したのかを書面で残しておく必要がある場面です。この記事で扱う4つの場面のうち、口頭で済ませることが最も危険なのがここです。手当の廃止など、賃金を下げる方向の変更を進める手順は、固定残業代を廃止する場合の手順と不利益変更の実務が参考になります。
あわせて、社会保険の加入区分も確認してください。常勤かどうかの判断を医療法の基準で行うと誤りが生じます。この点は常勤の社会保険加入、医療法の「常勤32時間」で判断してはいけない理由で整理しています。
なお、所定労働日数が変わると、年次有給休暇の付与日数も変わります。判定は次の基準日の時点で行い、その年度にすでに付与された日数は増減しません。勤続年数は雇用区分が変わっても通算されるため、パートになったことを理由に数え直すことはできません。付与された休暇の数え方については、午前診療日の有給を1日と数えるか半日と数えるかも参考にしてください。
3-4. 有期契約の更新・定年後の再雇用
この場面だけは、書面の交付が法律上の義務です。
有期労働契約の更新は、新しい労働契約を締結する行為です。したがって労働基準法15条1項の明示義務が生じ、労働基準法施行規則5条が定める事項を明示しなければなりません。2024年(令和6年)4月からは、就業場所・業務の変更の範囲、更新上限の有無と内容、無期転換申込権が発生する更新時には申込機会と無期転換後の労働条件が、明示事項に加わっています。
定年後の再雇用も同じ扱いになります。定年でいったん退職し、改めて契約を結ぶ形をとるためです。厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&Aでも、継続雇用にあたって嘱託やパートなど従来と異なる労働条件で雇用すること、1年ごとに契約を更新する形態をとることが想定されています。条件が変わるからこそ、明示が必要になる場面です。
医療機関・介護事業所は、医療事務、看護助手、介護職など有期契約のパート職員の比率が高い職場です。「変更に書面は要らない」という結論が最も当てはまらない層が、職員の多数を占めていることがあります。
さらに2026年10月1日からは、パートタイム・有期雇用労働者の明示事項が1つ増えます。この点は次の章で扱います。
4. 2026年10月1日から、パート・有期の職員に明示する事項が1つ増える
ここまで「変更時に書面の義務はない」と述べてきましたが、この章は例外です。
2026年(令和8年)10月1日から、パートタイム・有期雇用労働法6条に基づく施行規則が改正され、雇い入れ時の明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」が加わります。改正されるのは法律の条文ではなく、明示すべき事項を定めた省令です(厚生労働省リーフレット)。
なお、正社員との待遇差について説明を求める権利は、同法14条2項により、すでに労働者に保障されています。今回新設されるのは権利そのものではなく、その権利があることを雇い入れ時に知らせる義務です。
この明示義務は、労働基準法15条とは別のものです。パート・有期雇用の職員を雇い入れたとき、および労働契約を更新したときに、文書の交付等により明示しなければなりません。従来の4つの事項(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口)に、5つ目として加わる形になります。
違反した場合、行政指導によっても是正されなければ、職員1人につき契約ごとに10万円以下の過料の対象となります。
実務上の意味は明確です。2026年10月1日以降に契約更新を迎えるパート・有期雇用の職員から、順に新しい様式が必要になります。医療事務、看護助手、介護職員など、1年契約の更新を続けている職員が多い医療機関・介護事業所では、10月以降の更新分から対象になると考えてください。
一方、無期雇用でフルタイムの職員に、この改正を理由として通知書を配り直す義務はありません。改正の対象は、パート・有期雇用の職員を雇い入れるとき、および更新するときの明示だからです。
厚生労働省は、この改正に対応したモデル労働条件通知書を公開しています。自院・自施設の様式を使っている場合も、10月1日までにモデル様式と突き合わせて、記載が漏れていないかを確認してください。記載例としては、説明を求める窓口の部署名・担当者・連絡先を示す形が示されています。
そして、10月1日に施行されるのは明示事項の追加だけではありません。同時に、同一労働同一賃金ガイドラインと、雇用管理の改善等に関する措置を定めた指針(告示)も改正されます。賞与・退職手当の目的の考え方や、各種手当・福利厚生の取り扱いに追加があるため、パート・有期雇用の職員が多い事業所では、明示事項だけを直して終わりにしない方が安全です。
5. 小規模クリニック・小規模事業所ならこう実践する
ここまでの内容を、職員数十数名までの事業所で実際に回せる形に落とすと、次のようになります。
すべての変更について書面を都度作ろうとすると、続きません。続かない仕組みは、結局どこかで途切れて、途切れた箇所が後で問題になります。優先順位をつけて、上から順に確実にする方が現実的です。
- 有期契約の更新と定年後の再雇用。ここだけは法律上の義務であり、過料の対象にもなります。職員ごとの契約満了日を一覧にして、更新月を管理してください。人数が少ない事業所ほど、更新日が担当者の記憶だけで管理されていることがあります。
- 所定労働日数・所定労働時間が変わるときと、常勤とパートを行き来するとき。法律上の義務ではありませんが、合意の内容と変更日を後から示せるようにしておく必要がある場面です。
- 賃金だけが変わる場合。賃金改定通知書のような形で記録が残れば足ります。最低賃金の改定に伴う引き上げについては、法律の効力で契約内容が置き換わるため、書面を作る必要はありません。
書面の様式は、入社時に使っている労働条件通知書と同じものを使い、変更後の内容を記入して交付し直す形を推奨します。変更部分だけを書いた覚書は、作る手間は少ないものの、年月が経つと「今の条件は何か」を知るために複数の書面を並べる必要が出てきます。1枚を見れば現在の条件がすべて分かる状態の方が、後々の確認が容易です。事業所側の控えも必ず残してください。
なお、本人が希望した場合には、電子メールなど電磁的方法による明示も認められています。紙での交付が難しい場合は、この方法も選択できます。
そのうえで、年に1回、全職員の所定労働日数・所定労働時間・賃金を一覧にして、書面の内容と実態が一致しているかを確認する機会を作ることを勧めます。時期は、最低賃金が改定される10月か、有期契約の更新が集中する月に合わせると、作業がまとまります。日常的に書面を完璧に運用するより、年1回の棚卸しで実態とのズレを見つける方が、小規模な事業所では現実的です。
6. よくある質問
給与明細で時給の変更を伝えれば、書面を出したことになりますか
変更時に交付義務がない場面では、記録として一定の意味はあります。ただし給与明細には、所定労働日数や所定労働時間、契約期間は記載されません。賃金以外の条件が変わった場合には記録として機能しません。また、有期契約の更新時のように明示義務がある場面では、給与明細で明示事項を満たすことはできません。
辞令を出していますが、労働条件通知書は別に必要ですか
義務のない場面であれば、辞令だけでも記録としては足ります。ただし辞令には、通常、役職や配属先しか書かれていません。所定労働日数や賃金が変わったのであれば、その内容が読み取れる書面が別に必要です。有期契約の更新時は、明示事項をすべて満たす必要があるため、辞令では足りません。
メールやLINEで変更を伝えるのは有効ですか
明示義務がある場面では、本人が希望した場合に限り、ファクシミリ、電子メール、SNSのメッセージ機能等による明示が認められています。ただし、受け取った本人が出力して書面を作成できるものに限られます。厚生労働省は、本人が本当に電子メール等による明示を希望したかを個別かつ明示的に確認するよう求めており、希望していないのに電子メール等のみで明示することは法令違反になります。
本人が「書面はいらない」と言っている場合はどうすればよいですか
有期契約の更新や定年後の再雇用のように明示義務がある場面では、本人の意向にかかわらず交付が必要です。義務が免除されることはありません。義務のない場面でも、後から条件を確認する必要が生じるのは事業所の側です。控えだけでも残しておくことを勧めます。
就業規則を変更して全職員の労働条件を変えた場合、個別の書面は必要ですか
労働基準法15条の明示義務は生じません。就業規則による変更の場合に必要なのは、変更後の就業規則を職員に周知することです。ただし、賃金や労働時間を引き下げる内容であれば、変更後の就業規則の内容が合理的であることが必要になります。周知していない、あるいは内容を説明していない状態での引き下げは、効力が争われやすい部分です。就業規則そのものの整備については、クリニックに就業規則は必要か。10人未満でも整備すべき理由で扱っています。
育児休業から復帰して短時間勤務になる場合、書面は必要ですか
育児・介護休業法に基づく所定労働時間の短縮措置は、事業主に措置を講じる義務があるものです。労働基準法上、書面の交付義務は生じません。ただし所定労働時間が変わるため、本人からの申出書と、事業所からの決定通知を残しておく形が実務的です。開始日と終了予定日が記録に残ります。
7. まとめ
労働条件を変更したときに、労働条件通知書や雇用契約書を作り直す法律上の義務は、原則としてありません。労働基準法15条1項の明示義務は、契約を締結する時点のものだからです。無期雇用の職員の時給を上げたことを口頭で伝えただけであっても、それ自体が法違反になるわけではありません。
一方で、有期契約の更新と定年後の再雇用は、新たな契約の締結にあたります。この場面では明示義務が生じます。医療事務、看護助手、介護職員など有期契約の職員が多い医療機関・介護事業所では、この例外に該当する職員が職員数の相当部分を占めることもあります。「変更に書面は要らない」という結論が、最も当てはまらない層です。
さらに、2026年(令和8年)10月1日からは、パート・有期雇用の職員への明示事項が1つ増えます。10月以降に契約更新を迎える職員から、順に新しい様式が必要になります。
義務のない場面についても、所定労働日数や所定労働時間が変わる場合と、常勤とパートを行き来する場合は、合意の内容と変更日を書面で残しておくべき場面です。とくに賃金や勤務時間が減る方向の変更では、本人が同意したこと自体が後から争われることがあります。
まず確認していただきたいのは、変更時の書面より前に、入社時の労働条件通知書が交付され、控えが残っているかです。ここが欠けている場合は、そちらを整えることが先になります。
なお、労働条件の明示に関するルールは改正が続いています。2024年(令和6年)4月に明示事項が追加され、2026年(令和8年)10月にも追加されます。地域別最低賃金も毎年改定されます。本記事は2026年8月時点の内容です。実際の手続きにあたっては、厚生労働省や都道府県労働局の最新の情報をご確認ください。判断に迷う場面では、管轄の労働基準監督署や顧問の社会保険労務士にご相談ください。



