急な欠員が出たとき、知り合いの医師に1日だけ代診をお願いする。紹介サイトを通じて、当直を1回だけ引き受けてもらう。医療の現場では、こうした単発の受け入れが日常的に行われています。
そのときに院長の頭をよぎるのが、「1日だけなのに、雇用契約書のような書類がいるのだろうか」という迷いではないでしょうか。この記事では、個人クリニック・歯科医院が1日だけ人に来てもらうときに何が必要になるのかを、業界で広く見られる3つの誤解を軸に整理します。

1日だけでも労働条件の明示は必要。ただし「雇用契約書」でなくてよい
結論から申し上げます。1日だけの勤務であっても、労働条件を明示する義務はあります。根拠は労働基準法第15条です。使用者は労働契約を結ぶ際に、賃金や労働時間などの労働条件を労働者に明示しなければならないと定められています(労働条件の明示|静岡労働局)。
この義務に、契約期間の短さを理由とした例外はありません。同法第9条は労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しており、勤務が1日か1年かは問われない仕組みになっています。半日の代診でも、1回きりの当直でも、賃金を支払って働いてもらう以上は明示の対象です。
ただし、ここで多くの院長が誤解します。法律が求めているのは「明示すること」であって、「雇用契約書を作ること」ではありません。
| 労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
| 作成・交付の義務 | あり(労働基準法第15条) | なし |
| 性質 | 使用者が一方的に交付する | 双方が合意した内容を確認する |
| 署名・押印 | 不要 | 実務上は双方が行う |
| 1日だけの勤務では | これで足りる | 作成しても構わないが、手間に見合わない |
雇用契約書は、労使双方が署名や押印をして合意内容を確認する契約書です。作成しておけば後の争いに強くなりますが、作成そのものは労働基準法上の義務ではありません。義務なのは労働条件の明示であり、こちらは違反すると30万円以下の罰金の対象になります。
つまり、1日だけ来てもらう相手と、押印まで含めた契約書を交わす必要はないということです。1回の勤務のために書類を往復させる手間を考えれば、現実的でもありません。
用意すべきは、こちらから一方的に渡す労働条件通知書です。厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーには、一般労働者用の様式として「常用、有期雇用型」と並んで「日雇型」が用意されています。1日単位の勤務であれば、この日雇型が最も近い様式です。
ここまでが法律の建付けです。ただし実務では、「では何をどう渡せばいいのか」の段階で、方向の違う誤解が起きています。次章から順に見ていきます。
誤解①「知り合いの先生だから要らない」
外来が回らなくなったとき、まず頭に浮かぶのは、以前同じ職場にいた先生や、勉強会で顔を合わせる先生の名前ではないでしょうか。実際、1日だけの代診は、紹介サイトよりも知り合いへの依頼で埋めているクリニックが少なくありません。
そして、この形のときにほぼ必ず出てくるのが「知り合いなのに、書類なんて必要なんだろうか」という迷いです。
法律の側に、その線引きはありません。労働基準法第15条は「労働契約の締結に際し」と定めているだけで、相手が誰であるかを条件にしていません。医局の先輩でも、10年来の友人でも、配偶者の同級生でも、その日働いてもらって賃金を支払う以上、明示すべき労働条件の中身は変わらないということです。
むしろ、実務の感覚としては逆です。知り合いへの依頼のほうが、条件が曖昧なまま当日を迎えます。
日当はいくらか。何時から何時までか。昼の休憩はどう扱うか。診療が押した場合はどうするか。往診や急変対応はどこまでお願いするのか。交通費は出るのか。これらは、相手が知らない医師であれば当然に詰める項目です。ところが関係が近いと、「そのあたりは当日で」「まあ、いつも通りで」と流れます。細かく確認することが、かえって失礼にあたるように感じられるからです。
問題は、そのまま何事もなく終わればよいのですが、そうでない場合に起きます。
診療が長引いて終了が2時間遅れた。当初の日当のままでよいのか、追加を支払うのか。院内で転倒して手をついた。労災として処理すべきなのか。約束していた金額と、実際に振り込んだ金額の認識が食い違っていた。こうした場面で、関係が近い相手ほど、後から金銭の話を切り出せなくなります。言い出せないまま、こちらが飲むか、相手が飲むかのどちらかになり、次から声をかけづらくなります。
労災については、もう一段はっきりしています。労災保険は労働者を一人でも使用する事業であれば、業種や規模を問わずすべてに適用され、アルバイトやパートタイマーといった雇用形態も関係ありません(労災補償|厚生労働省)。1日だけの代診中のケガも当然に対象です。ただし手続きの入口では、その人を労働者として受け入れていたという事実関係が問われます。何も書面がない状態は、この確認を余計に手間のかかるものにします。
もう一点、「謝礼」という言い方にも触れておきます。労働の対価として支払う以上、それは謝礼ではなく賃金です。呼び方を変えても実態は変わりません。
労働条件通知書は、相手を疑うための書類ではありません。近い関係だからこそ、後で気まずくならないように条件を紙にしておく、という位置づけで考えるほうが実態に合っています。
なお、募集の段階で示す条件と、実際に雇い入れるときに明示する条件は、法律上は別の場面の話です。この違いについては介護の求人票、実態と違うと何が起きる?事業者の労働条件明示ルールで整理しています。
誤解②「書面でなければ違反」「メールで十分」— 両方が不正確
用意すべきは労働条件通知書だとして、では、それをどう渡せばよいか。
ここで、方向が正反対の2つの誤解が並んでいます。片方は「紙に印刷して手渡ししなければ違反になる」、もう片方は「今どきメールで送れば十分だろう」。院長によってどちらに振れているかが違い、そしてどちらも正確ではありません。
「書面でなければ違反」ではありません
かつては書面の交付に限られていました。ただし2019年4月から、労働者が希望した場合には、FAXや電子メール、SNS等による明示も認められています(厚生労働省リーフレット)。
つまり、1日だけの代診をお願いする医師に、わざわざ来院してもらって紙を手渡す必要はありません。前日までにメールでPDFを送る形も、要件を満たせば適法です。1回の勤務のために書類を郵送で往復させるような運用も不要です。
医療機関の実務では、依頼から勤務日までが数日しかないことも珍しくありません。この点で、電子での明示が使えることは実務上の助けになります。
「メールで十分」でもありません
問題はこちらです。電子での明示には、2つの条件がついています。
条件1:労働者が希望した場合に限られること
省令が認めているのは、あくまで「労働者が希望した場合」です。書面交付が原則である構造は変わっていません。院長側が便利だからという理由で、一方的にメールで送る運用は想定されていません。
この点について、労働局は踏み込んだ書き方をしています。労働契約の締結時に明示を怠ったり、労働者が希望していないにもかかわらず電子メール等のみで明示したりすることは、労働基準関係法令の違反にあたるとされています(茨城労働局)。
「メールで送ったから明示は済んでいる」と考えている院長は、実際には要件を満たしていない可能性があります。内容が正しくても、渡し方の手順が抜けているためです。
条件2:出力して書面を作成できるものに限られること
もう一つは形式です。受け取った側が印刷して書面にできるものでなければなりません。
LINEなどのSNSメッセージ機能を使うこと自体は、認められています。ただし実務上の注意があり、SNSのメッセージ本文に直接書き込む方法は、印刷の際に途切れるおそれがあるため、PDF等の添付ファイルで送ることが推奨されています。SMS(ショートメール)は、ファイルを添付できず文字数制限もあるため望ましくないとされています。また、第三者が閲覧することを目的としたブログや個人のホームページへの書き込みによる明示は認められません。
要するに、「LINEで条件を箇条書きして送っておいた」という運用は、認められる形からは外れます。同じLINEでも、労働条件通知書のPDFを添付して送るのであれば形式は満たします。
渡し方の可否一覧
| 渡し方 | 可否 | 補足 |
|---|---|---|
| 紙に印刷して手渡し | ○ | 最も確実。迷ったらこれ |
| 本人の希望を確認し、PDFを添付してメール送信 | ○ | 実務上の最適解 |
| 本人の希望を確認し、PDFを添付してLINE等で送信 | ○ | 保存期間が限られる場合があるため、印刷・保存を促す |
| 本人の希望を確認し、LINE等の本文に直接記載 | △ | 印刷時に途切れるおそれがあり、望ましくないとされる |
| 本人の希望を確認し、SMSで送信 | △ | ファイルを添付できず文字数制限もあり、望ましくないとされる |
| 本人の希望を確認せず、メール等のみで送信 | × | 労働基準関係法令の違反 |
| 口頭で伝えるだけ | × | 明示義務違反(30万円以下の罰金) |
小規模クリニックなら、ここだけ押さえる
完璧な運用を目指す必要はありません。守れる形にすると、実質的には次の一手間だけです。
依頼の連絡をする段階で、「労働条件はメールでお送りしてよいですか」と一言確認する。
これで条件1が満たせます。しかも、メールやメッセージでのやり取りであれば、相手の返信がそのまま希望を確認した記録として残ります。改まった同意書は必要ありません。あとは労働条件通知書をPDFにして添付し、送信後に「届きましたか」と一声かけておけば、実務上の要件はおおむね押さえられます。
紙で渡せる場面であれば、紙が最も確実です。判断に迷ったら印刷して手渡す、というのが小規模なクリニックにとっては結局いちばん簡単な結論になります。
誤解③「紹介サイトが出してくれる」— 雇用主は自院です
もう一つ、依頼経路にまつわる誤解があります。「医師の派遣サイトに頼んだのだから、契約書のたぐいは向こうが用意してくれるはずだ」というものです。
実際、サイトによっては労働条件通知書を作成して送ってくることがあります。一方で「そちらで作成してください」と言われることもあります。この対応がサイトごとに分かれているために、書類は先方の裁量で決まるものだと受け取られやすくなっています。
しかし、法律の構造はケースバイケースではありません。
そもそも「派遣」ではありません
まず前提を整理します。「医師派遣サイト」という呼び方が広く使われていますが、1日だけの外来応援や当直を、労働者派遣として受け入れることは制度上ほぼできません。理由は2つあります。
第一に、医療関係業務への労働者派遣は原則として禁止されています。労働者派遣法第4条第1項第3号と同法施行令第2条により、医師や看護師などの業務は派遣が認められない業務とされています(労働者派遣法施行令|日本法令外国語訳データベースシステム)。例外は限定されており、紹介予定派遣、産前産後休業・育児休業・介護休業を取得する労働者の代替、へき地等の一定の場所にある医療機関、社会福祉施設等での業務などです。欠員が出たから1日だけ来てもらう、という理由はこの例外に含まれません。
第二に、業種を問わない規制として、日雇派遣が原則禁止されています。派遣元との労働契約が30日以内である労働者を派遣することは、原則として認められていません(派遣労働ハンドブック|東京都)。1日だけの勤務は、まさにこの類型にあたります。
つまり、医療機関が1日単位で人に来てもらうときに使っている仲介サービスは、労働者派遣ではなく職業紹介として運営されているのが通常です。呼び方が「派遣」でも、法的な位置づけは異なります。
職業紹介である以上、雇用主は自院です
ここが実務上の結論になります。
職業紹介は、求人者と求職者を引き合わせる仲介です。紹介事業者は、あっせんをするだけで雇用主にはなりません。労働契約は、自院と医師との間に直接成立します。
したがって、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務を負うのは、紹介会社ではなく自院です。ここに例外はありません。
紹介会社が書式を用意してくれること自体は、まったく問題ありません。実務上はむしろ助かります。ただし、その書類は自院の名義で出すものであり、記載された内容についての責任も自院にあります。日当、勤務時間、業務の範囲が実際の依頼内容と合っているか、確認するのは院長の仕事です。先方が作ったから中身は見なくてよい、とはなりません。
求人票を見せただけでは足りません
もう一点、混同しやすい部分があります。
紹介会社が提示する求人票や案件情報にも、労働条件は記載されています。ただし、これは募集の段階での明示であり、職業安定法第5条の3に基づく別の義務です(労働者を募集する企業の皆様へ|厚生労働省)。
募集時に示した条件どおりに契約が成立するとは限らないため、契約を結ぶ段階では、改めて確定した労働条件を明示する必要があります。案件情報を見て応募してもらったから明示は済んでいる、という整理はできません。
小規模クリニックなら、ここだけ押さえる
依頼を決めた段階で、紹介会社の担当者に一言確認してください。
「労働条件通知書は、御社で作成されますか。それとも当院で用意しますか」
作成してもらえるならその書式を確認して自院から渡す。用意がないなら自院で作る。どちらであっても、渡す責任は自院にあるという点だけ押さえておけば、経路によって対応がぶれることはなくなります。
依頼の経路で、注意点が変わります
ここまでは、経路を問わず共通する話でした。ここから先は、どうやって来てもらったかによって、注意すべき点が変わります。
分かれ目は職種ではありません。紹介会社や知り合いを通じて個別に日程を調整したのか、スキマバイトのアプリで募集をかけたのか。この違いで、適用される行政の整理そのものが変わります。
| 紹介・知り合いで頼んだ医師 | アプリで募集したスタッフ | |
|---|---|---|
| 契約が成立する時点 | 個別に合意した時点 | 応募した時点(先着順・面接なしの求人の場合) |
| 明示のタイミング | 依頼が決まった段階 | 遅くとも就労開始前 |
| 特に注意する点 | 常勤先との労働時間の通算 | 直前キャンセルと休業手当 |
| 依頼前に確認すること | その週の常勤先での勤務時間 | 募集条件を確定させてから掲載する |
| 準備行為の扱い | 通常どおり労働時間 | 打刻前の着替え・ミーティングも労働時間 |
紹介・知り合いで頼んだ医師:その日は「他院の常勤医」です
1日だけ代診に入ってもらう医師は、多くの場合、平日は別の医療機関で常勤として働いています。ここに、クリニック側が見落としやすい規定があります。
労働時間は、事業主が異なる場合であっても通算されます。労働基準法第38条第1項がこれを定めており、「事業場を異にする場合」には事業主が異なる場合も含まれると解釈されています。副業・兼業の場面でも同様で、他の会社に雇われる形で副業・兼業をする場合、1日8時間・週40時間といった労働時間の規制は通算して適用されます(副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省)。
そして通算した結果、法定労働時間を超える部分が生じた場合、その時間外労働を自らの36協定に基づいて行わせ、割増賃金を支払うことになるのは、原則として後から労働契約を締結した使用者です。ガイドラインは、後から契約する事業主は、その労働者が他の事業場で働いていることを確認したうえで契約を締結すべき、という考え方に立っています。
1日だけの応援を依頼するクリニックは、構造上ほぼ確実に「後から契約した側」になります。常勤先で週40時間近く働いている医師に土曜の外来を頼めば、その日の労働は通算後の法定時間外にあたる可能性があります。日当で合意していても、割増賃金の考え方が乗ってくるということです。
医師の時間外労働の上限規制も、同じ構造で見ます。上限は医師個人に対するものであるため、副業・兼業先での時間外・休日労働と合算して管理する必要があり、副業・兼業先での労働時間は医師からの自己申告等により把握することとされています(医師の時間外労働の上限規制に関するQ&A|厚生労働省)。
実務では、依頼を決める段階で「その週、常勤先での勤務は何時間くらいになりますか」と聞いておくことです。労働条件通知書を渡す一手間と同じタイミングで済みます。聞かずに受け入れることは、自院が負う可能性のある割増賃金と、相手の医師が抱える上限規制の両方を、把握しないまま進めることを意味します。
なお、この労働時間の通算のあり方については、見直しの議論が進んでいます。労働基準関係法制研究会の報告書では、副業・兼業を行う場合の割増賃金の支払いについて労働時間の通算を要しないようにする制度改正が提案されました。ただし、労働者の健康確保のための通算は維持すべきとされています(労働基準関係法制研究会の報告書|厚生労働省)。あくまで研究会の提案であり、現時点で決まった内容ではありません。
36協定そのものの整備については、クリニック・歯科医院の36協定。出していても無効になる4つの落とし穴で扱っています。
アプリで募集したスタッフ:応募の時点で契約が成立します
医療事務や看護助手の欠員を、スキマバイトのアプリで埋めるクリニックが増えています。こちらは、行政の整理そのものが異なります。
厚生労働省は2025年7月4日、いわゆる「スポットワーク」について使用者向けのリーフレットを公表しました。対象とされているのは、雇用仲介アプリを利用してマッチングや賃金の立替払を行う形態です(いわゆる「スポットワーク」の留意事項等|厚生労働省)。
ここで示された整理のうち、クリニックが知っておくべきものは3つです。
1つ目は、労働契約が成立する時点です。面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、掲載した求人に応募した時点で、労使双方の合意があったものとして労働契約が成立すると一般的に考えられる、とされています。就労当日ではありません。
2つ目は、直前のキャンセルです。労働契約が成立した後に事業主の都合で休業させたり、早上がりさせたりした場合には、休業手当を支払う必要があるとされています。「今日は予約が少ないので来なくて大丈夫です」という前日の連絡は、この場面に該当し得ます。
3つ目は、労働時間の範囲です。業務に必要な準備行為等も労働時間にあたるとされています。白衣への着替えや朝のミーティングを打刻前に行わせている運用は、見直しが必要になります。
この整理は、紹介会社を通じて個別に日程を調整する医師のスポット勤務に、そのまま当てはまるものではありません。ただし、アプリを使うのであれば、募集を出した時点から責任が始まっていると考えるべきです。
経路を問わず共通すること
保険関係は、経路にかかわらず同じです。
| 制度 | 1日だけの勤務での適用 |
|---|---|
| 労災保険 | 適用される(保険料は全額事業主負担) |
| 雇用保険 | 原則として適用されない |
| 健康保険・厚生年金 | 原則として適用されない |
| 休憩・割増賃金・最低賃金 | 適用される |
ただし、これが「単発のつもりが、月に何度も来てもらう関係」に変わったときには、判断が変わります。常勤・非常勤の区分と社会保険の考え方については、常勤の社会保険加入、医療法の「常勤32時間」で判断してはいけない理由で整理しています。
最低限、何を書けば足りるか
書類を作る側から見ると、ここがいちばん知りたいところかもしれません。ただ、身構える必要はありません。1日だけの勤務であれば、埋める項目はごく限られます。
厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーにある「一般労働者用(日雇型)」の労働条件通知書を使えば、必要な欄はそろっています。そのうえで、1日だけの受け入れで実際に埋まるのは、次の項目です。
| 項目 | 1日だけの勤務での書き方 |
|---|---|
| 契約期間 | 期間の定めあり。当日の日付のみを記載 |
| 就業の場所 | 自院の名称と所在地。その日の場所を書けば足り、「変更の範囲」の記載は不要 |
| 従事すべき業務 | 「外来診療」「当直」「医療事務業務」など。こちらも「変更の範囲」の記載は不要 |
| 始業・終業時刻、休憩 | 実際に来てもらう時間。診療が延びる可能性があれば所定時間外労働の有無も |
| 賃金 | 日当か時給か、支払方法、支払日 |
| 退職に関する事項 | 期間満了により終了する旨 |
2024年4月から、就業場所と業務について「変更の範囲」の明示が加わりました。この改正を知っている院長ほど、1日だけの勤務でこの欄をどう埋めるかで手が止まります。
ここは、書かなくて構いません。厚生労働省のQ&Aでは、日雇い労働者について、雇入れ日における就業の場所と従事すべき業務を明示すれば足り、「変更の範囲」を明示する必要はないとされています(令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A)。その日の場所と業務を書いた時点で、契約期間中の変更の範囲も明示したことになる、という整理です。
同様に、更新上限についても、上限の定めがない場合にその旨まで明示する必要はないとされています。
つまり、常用・有期雇用型の様式を1日だけの勤務に流用するから、埋めにくい欄が出てくるわけです。日雇型の様式を使えば、この迷いは生じません。
賃金の欄で注意したいのが、日当の扱いです。前章で見たとおり、常勤先との通算で法定時間外が生じる場面があります。「日当◯万円(所定◯時間)」というように、日当が何時間分の対価なのかを書いておくと、後から時間外の計算が必要になったときに揉めません。
印鑑は不要です。署名も求める必要はありません。渡す書類だからです。作成した通知書は、控えを自院に残しておいてください。労働関係の重要書類には保存期間の定めがあります。
よくある質問
Q. 半日だけの代診でも、労働条件通知書は必要ですか。
必要です。労働基準法に、勤務時間の短さや期間の短さを理由とした例外はありません。半日でも数時間でも、賃金を支払って働いてもらうのであれば明示の対象です。
Q. 2024年から追加された「変更の範囲」は、1日だけの勤務でも書く必要がありますか。
必要ありません。厚生労働省のQ&Aでは、日雇い労働者について、雇入れ日における就業の場所と従事すべき業務を明示すれば足り、「変更の範囲」の明示は不要とされています。その日の場所と業務を書いた時点で、契約期間中の変更の範囲も明示したことになる、という整理です。同様に、更新上限の定めがない場合に、その旨を明示する必要もありません。
Q. 当日に口頭で条件を伝え、後日メールで送るのでは駄目ですか。
明示は労働契約の締結に際して行うものなので、働いてもらう前に済ませておくのが原則です。依頼が決まった段階で送るようにしてください。
Q. 毎月1回、同じ先生に来てもらっています。毎回作り直しますか。
その都度契約を結んでいる形であれば、原則として都度の明示が必要です。ただし、実態として継続的な非常勤勤務になっているのであれば、単発の積み重ねではなく期間を定めた契約として整理し直すほうが実務的です。あわせて、雇用保険や社会保険の適用も検討が必要になります。
Q. 相手が「そんなものは要らない」と言った場合は。
明示は使用者の義務であり、相手の意向で免除されるものではありません。受け取りを断られたとしても、こちらから渡した記録は残しておいてください。
Q. 業務委託契約にすれば、この話は関係なくなりますか。
契約書の表題を業務委託としても、実態が指揮命令下の労働であれば労働契約と評価されます。日時と場所を指定し、自院の設備で診療してもらう形は、業務委託として成立しにくい形態です。この論点は別記事で詳しく扱います。

まとめ
1日だけ来てもらう医師やスタッフについて、押さえるべきことは3つです。
- 関係性は関係ありません。知り合いの先生でも、明示すべき内容は変わりません
- 渡し方に要件があります。書面が原則で、電子は本人が希望した場合のみ。PDFを添付して送る形が実務的です
- 雇用主は自院です。紹介会社が書式を用意しても、責任の所在は変わりません
そのうえで、依頼を決めた段階で聞いておくとよいのは、次の2つです。
- 「労働条件はメールでお送りしてよいですか」
- 「その週、常勤先での勤務は何時間くらいになりますか」
この2つを確認しておけば、明示の方法と労働時間の通算という、後から問題になりやすい部分の大半は押さえられます。
制度は変わります。労働時間の通算ルールは見直しが議論されており、雇用保険の適用範囲も今後広がる予定です。本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。実際の手続きにあたっては、厚生労働省や都道府県労働局の公式情報で最新の内容をご確認ください。判断に迷う場面があれば、所轄の労働基準監督署や顧問社会保険労務士にご相談ください。
なお、単発の受け入れが常態化してきた段階では、就業規則の整備が次の課題になります。クリニックに就業規則は必要か?10人未満でも整備すべき理由もあわせてご覧ください。
