業務委託なら労務管理は不要か?医療・介護の専門職で起きる労働者性の落とし穴と、フリーランス新法

医療機関や介護事業所で、専門職を業務委託として扱っている例は珍しくありません。非常勤の医師、訪問看護の看護師、リハビリ職、登録ヘルパー。人手が足りず、本人の希望もあり、そうなっているケースです。

この記事では、その契約が法的にどう評価されるのか、そして評価された結果として何が起きるのかを整理します。

目次

契約の名前では決まりません

業務委託として扱っている場合、契約書はインターネットで見つけた雛形をそのまま使っているか、そもそも交わしていないことが少なくありません。

結論から申し上げます。契約書があってもなくても、また契約書の表題が何であっても、判断は実態で行われます。

労働基準法第9条は、労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。ここに契約の名称は出てきません。実際に該当するかどうかは、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告で示された基準により、実態に即して総合的に判断されます。この基準は現在も裁判実務で用いられており、厚生労働省は判断要素ごとの具体例をまとめた労働者性判断に係る参考資料集を公開しています。

つまり、次のどちらの理解も成り立ちません。

  • 「業務委託契約書を交わしているから大丈夫」 — 書面の表題は判断材料の一つにすぎません
  • 「契約書がないから、雇用でも業務委託でもない」 — 契約書がなくても労働契約は成立します

むしろ後者のほうが不利です。契約書がなければ、業務委託として扱ってきたと事業者側が主張する材料すら存在しません。実態を示す記録もないまま、勤務表と振込記録だけが残っている状態になります。

そのうえで、この記事の結論を先にお伝えします。

業務委託にすれば労務管理から解放される、という前提そのものが成立しません。実態が労働者にあたれば労働基準法が適用されます。あたらないと判定された場合も、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)の義務がかかります。契約の形をどちらに寄せても、事業者としての義務は残りますフリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ|厚生労働省)。

なお、1日単位のスポット勤務で必要になる書類については、スポット勤務の医師に雇用契約書は必要かで扱っています。

「自由に出勤日を選べるなら業務委託」は成立するか

業務委託として扱っている理由を尋ねると、明確な答えが返ってこないことがあります。以前からそうしている、本人がそう希望した、顧問税理士にそう言われた。そもそも雇用契約と業務委託契約で何が変わるのかを意識しないまま、報酬として支払う形が続いているケースが少なくありません。

ですので、まず違いをひとことで整理します。

雇用契約であれば、労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されます。労働時間の管理、割増賃金、有給休暇、社会保険や労働保険への加入、解雇の制限。これらがすべてかかります。業務委託契約であれば、これらは原則としてかかりません。代わりに、対等な事業者どうしの取引として扱われます。

業務委託にすれば負担が軽くなるように見えるのは、この差があるためです。

そのうえで、説明を求められたときに出てくる理由は、だいたい2つに絞られます。

ひとつは「本人が好きな日を選んで入っているので、こちらが指揮命令しているわけではない」。もうひとつは「本人がフリーランスとして働きたいと希望している」。

どちらも、現場の感覚としては筋が通っています。しかし、どちらも労働者性を否定する決め手にはなりません。

「断る自由」は、判断要素の一つにすぎません

仕事の依頼を断れるかどうか——これは諾否の自由と呼ばれ、たしかに労働者性の判断要素に含まれます。断る自由がなければ、指揮監督下にあると評価される方向に働きます。

ただし、判断要素はこれだけではありません。昭和60年の労働基準法研究会報告が示す枠組みでは、諾否の自由のほかに、業務遂行上の指揮監督の有無、時間的・場所的な拘束性、代替性、報酬が労務そのものへの対価かどうかが並び、さらに事業者性や専属性が補強要素として加わります。これらを総合的に勘案して判断されます。

つまり、「断る自由があるから業務委託」という一点突破の理屈は、最初から成り立たない構造になっています。

自由なのは「入口」だけです

もう一段、実務的な問題があります。

勤務日を自由に選べるといっても、自由なのはシフトを決める段階までです。いったんその日に入ると決まれば、状況は変わります。

  • 時間的・場所的な拘束が発生します。指定された時間に、指定された場所(自院や利用者宅)で業務を行うことになります。遅刻や早退が事実上許されないのであれば、拘束性は強く評価される方向に働きます
  • 業務の進め方について指示を受けます。医師の指示書に基づくリハビリ、サービス提供責任者の指示に沿った訪問介護、院内のマニュアルに従った処置。医療・介護の業務は、その性質上、進め方を本人の裁量に委ねることができません
  • 代わりの人を立てられません。当日に都合が悪くなったとき、本人の判断で別の有資格者に行かせることは、まず認められていないはずです

この3点が残る限り、入口の自由がいくらあっても、判断は労働者側に傾きます。

「本人が希望している」という点も同様です。労働者にあたるかどうかは実態で決まるものであり、当事者の意思で選べる性質のものではありません。

では、業務委託が成立する余地はないのか

まったくないわけではありません。判断基準に照らせば、次のような条件が重なる形であれば、業務委託として説明できる余地があります。

  • 業務を行う時間と場所を、こちらが指定していない
  • 進め方について具体的な指示を出していない
  • 報酬が、拘束時間ではなく件数や成果で決まっている

たとえば、健診の画像読影を、自宅や本人の診療所で好きな時間に行ってもらい、件数に応じて報酬を支払う形です。この場合、時間的・場所的な拘束も、業務遂行上の指揮監督もありません。

逆に言えば、これに当てはまらない働き方——自院に来てもらい、決まった時間に、こちらの指示で動いてもらう形は、名称にかかわらず労働と評価される可能性が高いということになります。外来の応援も、訪問介護も、施設内のリハビリも、この類型に入ります。

なお、労働者性の判断基準そのものについては、約40年ぶりの見直しに向けた検討が厚生労働省で進められています(2026年8月時点)。現時点では昭和60年の基準が実務の前提です。

判断基準を自院に当てはめる

判断要素を、実際の場面に置き換えて整理します。厚生労働省が公開している労働者性判断に係る参考資料集には、裁判例で実際に考慮された事情が要素ごとに列挙されています。それを、医療機関・介護事業所の場面に当てはめたものが次の表です。

確認項目雇用に近づく(労働者性を肯定する方向)業務委託に近づく(否定する方向)
仕事を断れるかシフトが確定したら、個別の依頼は断れない/欠員が出れば入らざるを得ない依頼を断っても、それ以上強く求められず、不利益もない
進め方を指示しているかマニュアルや指示書に沿って行わせる/日報や業務報告を義務づけている/契約外の業務も頼む最低限の指示にとどまり、進め方は本人の裁量
時間と場所を指定しているか始業終業が決まっている/タイムカードや出勤簿で管理している/中抜けが事実上できない稼働日も時間も本人が決められる/途中で抜けても終了しても差し支えない
代わりの人を立てられるか本人が行うことが前提。再委託は想定していない本人の判断で、他の有資格者に行わせることができる
報酬の決まり方時給・日給・月額固定/遅刻早退で控除する/時間外に手当をつける件数や成果で決まる/稼働時間と連動しない
道具は誰の負担か施設・機器・備品をこちらが提供している高価な機器を本人が所有し、維持費も負担している
他でも働けるか実質的に自院の業務で手一杯で、他を受ける余地がない兼業に制約がなく、実際に他でも働いている

表を使うときの注意が3つあります

1つ目。1項目で決まるものではありません。

すべてを勘案して総合的に判断されます。ただし要素には軽重があり、指揮監督の有無と報酬の性質が主要な要素で、道具の負担や兼業の可否は補強的な要素という位置づけです。「兼業を認めているから業務委託」という説明が通らないのは、このためです。

2つ目。業務の性質による拘束は、割り引いて見る必要があります。

参考資料集では、勤務場所や時間が指定されていても、業務の性質上そうならざるを得ない場合や、施設管理・安全確保の必要から限定されている場合があるとされ、その指定が業務の性質によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極めるべきとされています。

診療は診療時間中に院内で行うほかなく、訪問介護は利用者が指定した時間に伺うほかありません。この部分の拘束は、それだけで労働者性を決定づけるものではありません。ただし、業務の性質から必要な範囲を超えた拘束——朝礼への参加、日報の提出、開始時刻の管理——が加わると、評価は変わります。

3つ目。ここが最も誤解されています。

「源泉徴収を給与としていない」「労働保険に入れていない」ことは、業務委託である根拠になりません。

参考資料集は、給与所得としての源泉徴収を行っていることや、労働保険の適用対象としていること、服務規律を適用していることを、労働者性を肯定する補強事由として挙げています。そのうえで、これらの事情がないことが、労働者性を否定する補強事由になるわけではないと明記しています。

つまり、この扱いは一方通行です。やっていれば労働者と判断される材料になり、やっていなければ何の材料にもなりません。「報酬として払っているから業務委託です」という説明は、判断に何も貢献しないということです。

小規模なクリニック・事業所なら、2つだけ

全項目を確認するのは大変です。実務的には、次の2つに絞って見てください。

  • 「その人の進め方に、こちらが口を出しているか」
  • 「報酬が、働いた時間で決まっているか」

主要な判断要素である指揮監督と報酬の性質を、そのまま問いにしたものです。どちらも「はい」であれば、業務委託として説明することは相当に難しくなります。

資格業務は雇用、事務は業務委託——契約を分ける形

もう一つ、実務で見られる形があります。同じ人と、業務の内容ごとに契約を分けているケースです。

看護師や医療事務のスタッフについて、資格に基づく業務は雇用契約、それ以外の事務作業や付随業務は業務委託契約とする。あるいは、日中の勤務は雇用契約で、それ以外の時間帯の対応は業務委託とする。契約書が2本存在する状態です。

発想としては理解できます。すべてを雇用にすると負担が大きいので、切り分けられる部分は切り分けたい、ということでしょう。

まず、正直にお伝えします

この形態について、行政の解釈や裁判例で正面から扱ったものは見当たりませんでした。厚生労働省の通達にも、労働者性の参考資料集にも、同一の当事者間で契約を併存させる場合の判断方法は示されていません。

ですので、「違法です」とも「問題ありません」とも申し上げられません。ここで書けるのは、既に確立している判断基準を、この形に当てはめるとどうなるかという整理です。

判断基準を当てはめると

労働者性は、契約の単位ではなく、働き方の実態で判断されます。契約書が1本か2本かによって判断の方法が変わるという説明は、どこにもありません。

すると、次のように考えるのが自然です。業務委託とした部分についても、それ単独で判断基準に照らされる。そして、同じ事業所で、同じ相手の指示のもと、続きの時間帯に行っている作業であれば、雇用部分と切り離して評価される理由は乏しい、ということになります。

そして、ここが実務上の急所です。この形は運用が続くうちに、どこからどこまでがどちらの契約なのかが分からなくなります。

分からなくなった状態というのは、法的に見れば、事業者側が「分けていた」と説明する材料を持っていない状態です。労働基準監督署の調査でも、本人との争いになった場面でも、説明を求められるのは事業者側です。

分けられていると説明できるか

契約を分けている場合は、業務委託とした部分について、次の順で確認してみてください。最初の項目で止まる事業所が多いはずです。

  1. いつ・どこで行ったかを記録で示せるか
  2. 雇用部分と時間帯が明確に分かれているか
  3. やり方や手順の指示を出していないか
  4. 報酬が、時間ではなく成果や件数で決まっているか
  5. 本人以外の者に行わせることを認めているか

2から5は、前章で見た判断要素(拘束性、指揮監督、報酬の労務対償性、代替性)をそのまま当てはめたものです。1だけは判断要素ではなく、その手前の実務の問題です。記録がなければ、2以降を検討することすらできません。

すべて説明できる場合は、業務委託として説明できる状態にあるといえます。それ以上のことは申し上げられません。最終的な評価は行政や司法が行うためです。

説明できない場合に起きること

業務委託部分も含めて労働と評価されると、その部分の時間も労働時間に算入されます。すると、雇用部分と合わせて法定労働時間を超えていた分について割増賃金の問題が生じ、報酬の扱いも変わります。「切り分けたつもり」が、最も面倒な形で戻ってくることになります。

契約を分けること自体を否定するものではありません。ただし、分けるのであれば、分けたことを説明できる状態を維持する必要があります。それができないのであれば、初めから一本の雇用契約にしておくほうが、管理としては簡単です。

職種別に見る

判断要素は共通ですが、職種によって、どの要素が問題になりやすいかが違います。実務で相談が多い4つの形について整理します。

医師:自院に来てもらう形は、ほぼ労働です

外来の応援、代診、当直。自院に来てもらい、診療時間中に、自院の設備とスタッフを使って診療してもらう形は、前章の表に当てはめるとほぼすべてが雇用側に振れます。時間と場所を指定し、患者を割り当て、当日の判断は院内の体制に従ってもらうためです。契約書の表題が業務委託でも、この構造は変わりません。

判断が分かれやすいのはオンコールです。待機時間全体が労働時間にあたるかについて、厚生労働省は、待機中に求められる義務の態様によるとしたうえで、①呼び出しの頻度がどの程度か、②呼び出された場合にどの程度迅速に病院に到着することが義務づけられているか、③呼び出しに備えて待機中の活動がどの程度制限されているかを踏まえ、個別具体的に判断されるとしています。裁判例も、労働時間にあたると認めたものと認めなかったものに分かれています。

「電話が鳴らなければ自由だから、定額の委託料で足りる」という整理は成り立ちません。飲酒を禁じ、行動範囲を制限し、短時間での到着を求めているのであれば、評価は変わります。

訪問看護:違法と一律には言えませんが、二重の確認が必要です

訪問看護ステーションが看護師と業務委託契約を結ぶ形について、一律に違法と定めた規定は見当たりません。ただし、確認すべきことが2つあります。

1つ目は労働者性です。訪問看護は、主治医の指示書に基づいて提供され、記録の作成が義務づけられ、訪問の日時は利用者と事業所の調整で決まります。進め方の裁量が構造的に小さく、判断は労働者側に振れやすい形です。

2つ目は人員基準です。指定基準上の人員として、業務委託契約の看護師を常勤換算に算入できるかという問題があります。ここは断定を避けます。取り扱いが指定権者(都道府県・市町村)によって異なる可能性があり、公的資料で統一的な解釈を確認できませんでした。該当する場合は、指定権者に直接確認してください。仮に労働者性が否定されたとしても、人員基準の側で認められなければ、事業そのものに影響します。

リハビリ職:指示に基づくことが制度上の前提です

理学療法士や作業療法士については、訪問リハビリテーションも通所リハビリテーションも、医師の指示に基づいて提供されることが制度上の前提になっています。指揮監督の要素が、制度の側から組み込まれている形です。

歩合制にしていても、判断は変わりません。報酬の決まり方は主要な要素の一つですが、それだけで決まるものではないためです。

登録ヘルパー:通達は「断定していません」

訪問介護の登録ヘルパーについては、専用の通達があります。平成16年8月27日の訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(基発第0827001号)です。

ここは正確に読む必要があります。通達はこう書いています。

この訪問介護の業務に従事する者の中には、委託、委任等の呼称が用いられている場合もあるが、労働者に該当するかどうかについては、使用者の指揮監督等の実態に即し総合的に判断すること

なお、介護保険法に基づく訪問介護の業務に従事する訪問介護員等については、一般的には使用者の指揮監督の下にあること等から、労働基準法第9条の労働者に該当するものと考えられること。

つまり通達は、委託という呼称が使われる実態があることを認めたうえで、実態判断を求めています。「通達で労働者と決まっている」という説明は、正確ではありません。

ただし、実務的な結論は変わりません。サービス提供責任者の指示のもとで動き、時間と訪問先が指定され、記録の作成が義務づけられている以上、判断要素に当てはめれば、労働者側に振れます。通達が「一般的には」と書いているのは、そういう意味です。

同通達は、労働者にあたる場合の取り扱いも具体的に示しています。移動時間・業務報告書の作成時間・待機時間・研修時間は、一定の条件のもとで労働時間にあたります。また、利用者が利用を取りやめたことを理由に休ませた場合、代替業務の提供などの努力を尽くしたと認められなければ、平均賃金の6割以上の休業手当が必要になります。

このあたりの労働時間の扱いは、訪問介護・看護の労働時間|移動・待機・直行直帰はどこから給料が発生するかで詳しく整理しています。

公的資料に掲載されている事例

厚生労働省の参考資料集には、労働者性が争われた裁判例が職種とともに一覧化されています。そのなかに、介護ヘルパーの事例と、介護ヘルパー・看護師の事例が含まれており、いずれも労働者性が肯定されています。

後者は、契約書の標題が「業務請負契約書」とされていたものの、医師の指示のもとで業務を行い、シフト表に従って勤務し、休日の変更も認められず、報酬は月給制で遅刻早退による控除が予定されていた、という事情から労働契約と判断されたものです。契約書の表題と実態が食い違っていた典型例として、公的資料に載っているということになります。

雇用と判定されたら、何が起きるか

ここまでは判断の話でした。では、実態が労働者だと判定されたとき、何が起きるのか。

多くの場合、判定は突然やってきます。本人からの請求、退職後の相談、労働基準監督署の調査、年金事務所の調査。そのときには、すでに何年分かが積み上がっています。

項目遡る期間内容
未払いの割増賃金3年(当分の間)時間外・休日・深夜の割増分。裁判ではさらに付加金が加わることがある
社会保険料2年事業主負担分と本人負担分の両方を、まず事業主が納付する
労働保険料2年遡って算定し、追加納付する
年次有給休暇雇入れ日から6か月経過時点に遡って発生する
契約の終了期間満了による終了が、雇止めとして制限される場合がある

割増賃金は3年分です

賃金請求権の消滅時効は、2020年4月以降に支払期日が到来したものについて5年とされ、経過措置により当分の間は3年とされています。裁判所が支払いを命じることのできる付加金についても同様です(厚生労働省リーフレット)。

業務委託として報酬を払っていた場合、その報酬は「残業代を含まない基本の賃金」と評価されることになります。時間外の割増分は、まったく支払っていない扱いです。これが3年分積み上がります。

社会保険料は、本人負担分も先に払うことになります

社会保険料の徴収権の時効は2年です。加入漏れが判明した場合、最大で2年分を遡って加入させられます。

問題はここからです。事業主負担分と本人負担分を合わせた全額を、まず事業主が納付します。本人負担分は本人から回収することになりますが、すでに退職している場合、実際に回収できるとは限りません。在職中であっても、給与から何回にも分けて控除することになり、本人との関係が悪化します。

「業務委託だから社会保険料の負担がない」と考えて選んだ形が、2年分をまとめて負担する形で戻ってくるということです。

労災は、最も重い形で戻ってきます

労働保険の未手続期間中に労災事故が発生した場合、保険料の遡及徴収だけでは済みません。費用徴収制度があります。

行政機関から加入手続について指導等を受けたにもかかわらず手続を行わない期間中に事故が発生した場合は「故意」と認定され、支給された保険給付額の100%が事業主から徴収されます。指導等を受けていない場合でも、事業開始から1年を経過してなお手続を行わない期間中に事故が発生すれば「重大な過失」と認定され、40%が徴収されます(厚生労働省)。

対象となるのは療養開始後3年間に支給される給付です。重い後遺障害や死亡事故であれば、金額は相当な規模になります。

「本人が納得していた」は通りません

「本人が業務委託でいいと言っていた」「本人が希望した」という事情は、判定を左右しません。労働者にあたるかどうかは実態で決まり、当事者の合意で選べる性質のものではないためです。

そして、判定された結果として発生する義務は、すべて事業者側が負います。

なお、業務委託として扱っていた方を雇用に切り替える場合、社会保険の資格取得届は雇用開始日から5日以内、雇用保険の資格取得届は翌月10日までが期限です。過去分をどう扱うかも含め、切り替えの前に整理しておくことをおすすめします。社会保険の加入判断については、常勤の社会保険加入、医療法の「常勤32時間」で判断してはいけない理由もあわせてご覧ください。

業務委託なら、今度はフリーランス新法がかかります

ここまでの判定を経て、「実態としても業務委託で説明できる」という結論に至ったとします。

その場合でも、義務がなくなるわけではありません。2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)の適用対象になります。

まず、自院が対象かどうか

この法律が対象とするのは、発注事業者からフリーランスへの業務委託です。

ここでいうフリーランスとは、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しない者です。個人の医師、個人の看護師、個人のリハビリ職は、通常これにあたります。

そして発注事業者の側は、従業員を使用しているかどうかで義務の範囲が変わります。「従業員」とは、週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者を指します。

受付や看護師を雇っているクリニック、介護事業所、訪問看護ステーションは、まず該当します。つまり、義務の広いほうがかかります。

何が求められるか

義務適用される条件内容
取引条件の明示すべての発注事業者業務内容、報酬額、支払期日など9項目を、書面等により直ちに明示する
報酬支払期日の設定・支払従業員を使用する発注事業者役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り早い日に設定し、期日内に支払う
募集情報の的確表示同上募集広告に虚偽・誤解を与える表示をせず、内容を最新に保つ
ハラスメント対策の体制整備同上方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の適切な対応
7つの禁止行為1か月以上の業務委託受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・利用強制など
育児介護等との両立への配慮6か月以上の業務委託申出に応じて納期の調整などの必要な配慮を行う
中途解除等の予告・理由開示6か月以上の業務委託原則30日前までに予告し、請求があれば理由を開示する

(出典:公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省リーフレット

医療・介護の現場で重要なのは、この3つです

1つ目は、結局のところ書面が必要になることです。

取引条件の明示は、業務委託をしたら直ちに行わなければなりません。雇用であれば労働条件通知書、業務委託であれば取引条件の明示。どちらを選んでも、書面等を出す義務からは逃れられません。電子メールなどの電磁的方法も認められますが、相手から書面の交付を求められた場合には、原則として交付する必要があります。

2つ目は、報酬の支払期日です。

役務の提供を受けた日から60日以内に設定し、その期日内に支払う必要があります。「月末締めの翌々月払い」といった慣行は、日付によっては60日を超えます。業務委託の報酬だからと後回しにできる性質のものではなくなりました。

3つ目は、ハラスメント対策の体制整備です。

方針を明確にして周知し、相談に応じる体制を整えることが求められます。自院のスタッフ向けに整備している相談窓口を、業務委託の相手も利用できる形にしておくのが実務的です。就業規則の整備と一体で考えるべき部分になります(参考:クリニックに就業規則は必要か?10人未満でも整備すべき理由)。

なお、この法律の所管は分かれており、取引条件の明示・報酬支払期日・禁止行為については公正取引委員会と中小企業庁、募集情報の表示・両立への配慮・ハラスメント対策・中途解除の予告については厚生労働省(都道府県労働局)が担当しています。

結局、どちらを選んでも義務は残ります

実態が労働者であれば、労働基準法をはじめとする労働関係法令。実態が事業者であれば、フリーランス新法。契約の形をどちらに寄せても、事業者としての義務は残ります。

であれば、選ぶべきは「義務が軽そうな形」ではなく、「実態に合った形」です。実態に合っていない契約は、義務を減らさないまま、前章で見たリスクだけを積み上げます。

よくある質問

Q. 本人が「業務委託がいい」と希望している場合も、雇用にしなければいけませんか。

労働者にあたるかどうかは実態で判断されるため、当事者の希望で選べるものではありません。本人の希望を尊重したい場合は、希望に沿った契約書を作るのではなく、働き方そのものを業務委託として説明できる形に変えられるかを検討することになります。

Q. 契約書のタイトルを「業務委託契約書」から変えれば済みますか。

判断は契約の形式や名称ではなく、働き方の実態に基づいて行われます。タイトルの変更に効果はありません。

Q. 週1回だけ来てもらう非常勤の医師も、雇用になりますか。

回数や頻度は判断要素ではありません。自院に来てもらい、診療時間中に、自院の設備で診療してもらう形であれば、週1回でも判断は労働者側に振れます。

Q. 業務委託のスタッフに指示を出すと問題だと聞きましたが、医療や介護の現場で指示を出さないことは不可能です。

そのとおりで、それがこの問題の本質です。医療・介護の業務は、医師の指示や管理者の指揮のもとで提供されることが制度上の前提になっています。指示を出さずに業務を行わせることができないのであれば、その業務は業務委託になじまないという結論になります。無理に契約を業務委託にするより、雇用として整理するほうが実態に合います。

Q. 今まで業務委託として扱ってきましたが、雇用に切り替えると過去分を請求されませんか。

切り替えたこと自体が過去分の請求を生むわけではありませんが、過去に遡って請求される可能性は、切り替えの有無にかかわらず存在します。むしろ、そのままの状態を続けるほうが、遡及の対象となる期間が伸び続けます。過去分の扱いを含めて、切り替えの前に整理しておくことをおすすめします。

Q. 訪問看護ステーションで、業務委託の看護師を人員基準に入れられますか。

労働者性とは別に、指定基準上の取り扱いを確認する必要があります。取り扱いが指定権者によって異なる可能性があるため、都道府県または市町村に直接ご確認ください。

まとめ

医療・介護の専門職と業務委託契約を結ぶことについて、押さえるべきことは3つです。

  • 契約の名前では決まりません。契約書の有無も、タイトルも、判断を左右しません
  • 「自由出勤」「本人の希望」は決め手になりません。自由なのは入口までで、判断されるのは働き方の実態です
  • どちらに転んでも義務は残ります。労働者なら労働基準法、事業者ならフリーランス新法がかかります

そのうえで、自院の状況を確認する問いは2つです。

  • 「その人の進め方に、こちらが口を出しているか」
  • 「報酬が、働いた時間で決まっているか」

どちらも「はい」であれば、業務委託として説明することは相当に難しくなります。その場合は、雇用として整理し直すほうが、結果として管理は簡単になります。

制度は変わります。労働者性の判断基準については、約40年ぶりの見直しに向けた検討が厚生労働省で進められており、フリーランス新法も施行から日が浅く、運用は今後積み重なっていく段階です。本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。実際の手続きにあたっては、厚生労働省・公正取引委員会・中小企業庁・都道府県労働局の公式情報で最新の内容をご確認ください。判断に迷う場面があれば、所轄の労働基準監督署や顧問社会保険労務士にご相談ください。

なお、1日単位のスポット勤務で必要になる書類については、スポット勤務の医師に雇用契約書は必要かで扱っています。

医療・介護・福祉の事業者さまへ


顧問先の約8割が医療機関・介護福祉事業所です。業種は問いませんので、他の業種の事業者さまもご相談いただけます。労務相談と手続き代行を継続的にお受けする顧問契約(月額22,000円〜・税込)のほか、就業規則の作成・変更、助成金の申請代行、給与計算のみのご依頼もお受けしています。何をどこまでお受けするか、料金と契約の条件は業務案内に記載しています。ご契約前の面談は無料です。オンラインで全国対応。

※ご相談は事業者さまからのみお受けしています。従業員個人における案件(障害年金や賃金未払い請求に関するご相談など)のご相談はお受けできません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

川西 隆之のアバター 川西 隆之 社会保険労務士

兵庫県川西市の川西隆之社労士事務所
クラウドツールを活用した労務のデジタル化を得意としています
(ジョブカン認定アドバイザー)

税理士事務所勤務平成22年3月~平成31年1月
社労士業補助平成22年3月~平成28年8月
社労士登録平成28年9月~
1984年3月9日生まれ。
兵庫(但馬)産まれ兵庫(但馬)育ち。川西市在住。
一人の妻と3人の子どもたち。

2005年社労士試験合格
2016年開業登録(岐阜県)
→2020年より兵庫県川西市にて開業

以下の事項に力を入れています。
・クラウド勤怠管理・給与計算を利用した勤怠管理・給与計算の効率化
→給与計算に必要な時間の圧倒的な削減

・クラウド労務管理を導入することで、法定帳簿の管理・社会保険手続きの効率化
→代行することなく自社での管理・申請が容易に可能

・適切な労務管理を行うことによる、労使トラブルの防止
→疑問点があれば、その都度の相談可能

目次