「研修に参加したときの給与は、どうすべきでしょうか」
当事務所にも、医療機関の院長や介護事業所の管理者から、こうしたご相談が寄せられます。院内の勉強会、症例検討会、介護の各種研修、eラーニング——現場では日常的に研修が行われていますが、「その時間に給与を払うべきなのか」は、意外と判断に迷う論点です。
結論から申し上げます。研修に参加した時間に給与が発生するかどうかは、その研修の性質によって変わります。
分かれ目は、その研修が「業務」なのか、「純粋な任意」なのかという点です。会社の指示で参加する研修や、参加しないことで人事評価・昇給・業務に不利益が生じる研修は、法律上の「労働時間」にあたり、給与の支払いが必要です。一方、参加してもしなくても評価や処遇に一切影響しない、文字どおり自由参加の研修だけが、給与を出すかどうかを会社の裁量に委ねられます。
つまり、「研修だから」という理由だけで無給にしてよいわけでも、「すべての研修に給与が必要」なわけでもありません。その研修が労働時間にあたるかどうか、ここがすべての出発点になります。
そして、実務でトラブルの火種になるのは、まさにこの判定を誤るケースです。「任意参加のつもりだった」研修が、実は評価や業務と結びついていて、後になって「あの時間は労働時間だった」と未払い賃金を請求される——医療・介護の現場では、こうした「任意の誤認」による労使トラブルが少なくありません。
この記事では、まず「研修の給与は何で決まるのか」という基本を確認したうえで、どこからが給与を払うべき研修で、どこからが払わなくてよい研修なのか、その境界線を整理します。そのうえで、医療機関と介護事業所のそれぞれで「任意の誤認」が起きやすい具体的な研修を挙げ、小規模な事業所でも実践できる対応のしかたまでご説明します。
給与が発生するかは「労働時間かどうか」で決まる
研修の給与を考えるうえで、出発点になる考え方があります。それは、研修の時間が「労働時間」にあたるなら給与が発生し、あたらないなら発生しない、というシンプルな原則です。では、その「労働時間」とは何を指すのでしょうか。
労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。これは最高裁判所が示した考え方で、労働時間にあたるかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかによって、客観的に決まるとされています。
平たく言えば、「会社の指示のもとで、会社のために拘束されている時間かどうか」で判断される、ということです。研修も、この物差しで測られます。会社の指示や、事実上の強制のもとで参加する研修であれば、その時間は指揮命令下にあると評価され、労働時間にあたります。
「無給と決めておけば無給」にはならない
ここで、事業者が誤解しやすい重要な点があります。労働時間にあたるかどうかは、就業規則の定めや、労使の合意によって決められるものではない、ということです。
最高裁も、労働時間は労働契約や就業規則の定めによって決まるものではなく、実態に基づいて客観的に定まる、と明確にしています。つまり、「研修時間は無給とする」と就業規則に書いても、「研修分の給与は出さないことに同意します」と本人から一筆をとっても、その研修が実態として労働時間にあたるのであれば、給与の支払い義務は消えません。書面上の取り決めよりも、実際の働き方の実態が優先される、ということです。
この「合意より実態が優先される」という原則は、研修だけに限りません。始業前の準備や着替え、朝礼といった時間が労働時間にあたるかという、より身近な論点にも同じ考え方が及びます。この点は、就業規則の整備という観点から別の記事で整理していますので、あわせてご参照ください。

では、研修について、具体的にどこからが「労働時間にあたる研修」で、どこからが「純粋な任意の研修」なのか。次章で、その境界線を実務的に整理します。
「任意」と「強制」を分ける実務基準
研修の給与を判断するうえで、多くの事業者がつまずくのが「任意研修」の線引きです。「うちは自由参加だから任意研修、だから無給でよい」——この判断が、後で覆されることがあります。ここでは、どこからが給与を払うべき研修なのか、その境界を実務的に整理します。
判定は「総合的に」行われる
まず押さえておきたいのは、労働時間にあたるかどうかは、どれか一つの要素だけで決まるものではないという点です。「就業規則に任意と書いてある」「参加を強制していない」といった形式的な事情だけでは判断されません。実態として、その職員が会社の指揮命令下に置かれ、労働からの解放が保障されていなかったかどうかが、複数の要素から総合的に判断されます。
判定で考慮される主な要素は、次のとおりです。
| 考慮される要素 | 労働時間にあたりやすい | 純粋な任意にあたりやすい |
|---|---|---|
| 参加の指示 | 上司が明示・黙示に参加を指示、シフトに組み込み | 参加の呼びかけのみで、不参加でも問われない |
| 不参加の不利益 | 人事評価が下がる、昇給・昇格に響く、業務から外れる | 評価・処遇に一切影響しない |
| 業務との関連性 | その業務に不可欠な内容(新システムの操作研修など) | 直接業務に関係しない自己啓発(一般教養など) |
| 費用の負担 | 会社が受講料・交通費を負担して受講させる | 本人が希望し、会社は補助する程度 |
| 成果物の義務 | レポート提出やテスト合格が業務として課される | 提出義務がなく、自己啓発の範囲 |
これらは、そろっていればいるほど「労働時間」に傾きます。逆に、真に任意といえるのは、これらの事情がいずれも乏しい場合に限られます。
評価・処遇と結びついた時点で、それは「任意」ではない
ここで、実務上の判断基準として最も重要な一線を示します。
参加が会社の評価や処遇と結びついた時点で、その研修はもう「任意」ではありません。昇進・昇給の判断材料になる、不参加が査定に影響する——そうした事情が一つでもあれば、たとえ案内文に「自由参加」と書かれていても、実態としては「事実上の強制」であり、労働時間にあたると判断される可能性が高くなります。
「参加しなくても一切の不利益がないこと」。これが、給与を払わなくてよい任意研修(非労働時間)であるための、いわば絶対条件です。事業者が「良かれと思って」用意した学びの機会であっても、それが評価と結びついた瞬間に、給与を支払うべき労働時間へと性質が変わります。
「任意の誤認」がトラブルを生む
実際の裁判例を見ると、この境界がどこにあるかがよくわかります。
あるケースでは、会社が「自由参加」と案内していたセミナーについて、上司から「正社員になるための要件だ」と示唆され、受講にあわせてシフトが変更され、受講料も会社が負担していた事情が認定されました。裁判所は、これらの事情から「参加が事実上強制されていた」として、その時間を労働時間と判断しています(ダイレックス事件・長崎地裁令和3年2月26日判決)。「自由参加」という言葉の建前は、実態の前では通用しませんでした。
一方で、任意性が本当に保たれていれば、労働時間性は否定されます。会社が推奨するeラーニングについて、受講を確認する試験もなく、不参加による評価上の不利益もなく、自己研鑽のツールとして提供されていたにすぎないケースでは、労働時間にはあたらないと判断されています(西日本電信電話ほか事件・大阪高裁平成22年11月19日判決)。
この二つの事例の違いは、まさに「評価・強制と結びついているか」にあります。
当事務所に寄せられる相談でも、「任意のつもりだった研修が、話を聞くと実は評価や業務と結びついていた」という誤認は、実際に見られます。事業者に悪意があるわけではなく、「自由参加と案内しているから任意だ」と素朴に信じているケースがほとんどです。しかしこの「任意の誤認」こそが、退職時などに過去の未払い賃金をさかのぼって請求される、労使トラブルの典型的な火種になります。
では、この誤認が医療・介護の現場では具体的にどんな研修で起きやすいのか。次章から、業種ごとに見ていきます。
医療機関で「任意の誤認」が起きやすい研修
医療機関では、日常的にさまざまな研修や勉強会が行われています。その多くは職員の質を高める大切な機会ですが、賃金の観点から見ると「任意の誤認」が起きやすい類型がいくつかあります。ここでは、看護師・医療事務・歯科衛生士といったコメディカルの研修を中心に、注意すべきパターンを整理します。
院内勉強会・症例検討会・カンファレンス
院内で開かれる勉強会や症例検討会、カンファレンスは、「自主的な学びの場」という位置づけで、勤務時間外に無給で行われることがあります。しかし、実態を見ると注意が必要です。
参加者が事実上決まっている、上司が参加を促している、参加状況が把握されていて不参加が気まずい雰囲気になる——こうした事情があれば、たとえ「自由参加」と案内されていても、事実上の強制と評価される可能性があります。特に、業務に直結する内容(新しい医療機器の使い方、感染対策の手順など)を扱う勉強会は、業務との関連性が高く、労働時間と判断されやすい類型です。
「みんな参加しているから」という空気そのものが、実質的な参加圧力として機能していないか。ここが判断の分かれ目になります。
eラーニング・オンライン学習
近年増えているのが、eラーニングによる研修です。自宅やスタッフルームで、各自の空き時間に受講させるケースが目立ちます。
自宅受講だからといって、労働時間から外れるわけではありません。受講が義務づけられている、受講しないと業務に支障が出る、あるいは受講状況が評価に影響する——こうした事情があれば、場所が自宅であっても指揮命令下にあると評価され、労働時間にあたります。この場合、受講にかかった時間を把握し、賃金を支払う必要があります。逆に、完全に自由意思で受講でき、評価に一切影響しない純粋な自己研鑽であれば、労働時間にはあたりません。
eラーニングは「いつでもどこでも」受講できる手軽さゆえに、時間管理があいまいになりがちです。だからこそ、労働時間として扱うのか、任意の自己啓発とするのかを、あらかじめ明確にしておく必要があります。
医療安全研修・院内感染対策研修は「そもそも任意ではない」
ここで、医療機関に特有の重要な論点があります。医療安全管理のための研修と、院内感染対策のための研修は、そもそも「任意研修」ではあり得ません。
これらは、医療法および医療法施行規則によって、病院・診療所の管理者に実施が義務づけられている研修です。病院全体に共通する内容について、年2回程度、定期的に開催することが求められています(無床診療所などは、外部の講習会の受講で代用することも認められています)。
施設に課された法令上の義務を果たすために職員を参加させる以上、その参加は当然に業務命令であり、労働時間にあたります。これを「職員自身のための勉強だから」と自己研鑽扱いにして、時間外や休日に無給で行わせることは、賃金の未払いにつながります。「施設が果たすべき義務」を「職員個人の自己研鑽」と取り違える——これは、次章で述べる介護の法定研修とも共通する、医療・介護に特有の落とし穴です。
外部研修・学会参加、そして医師の研鑽
外部の研修や学会への参加は、業務命令として参加を命じたのであれば労働時間にあたります。一方、職員が自発的に希望し、参加・不参加が本人の自由に委ねられているのであれば、任意研修として扱う余地があります。ここでも判断の軸は、「命じたのか、本人の自由意思か」です。
なお、医師本人の研鑽については、労働時間にあたるかどうかの判断が特に複雑で、厚生労働省から専門の通達が別途示されています。医師の研鑽は、診療の補助を伴うか、上司の指示によるものかなどで細かく判断が分かれるため、コメディカルの研修とは切り離し、個別に慎重な検討が必要な領域です。
介護事業所で「任意の誤認」が起きやすい研修
介護事業所では、研修をめぐる「任意の誤認」が、医療機関以上に起きやすい構造があります。その理由は、介護特有の「法定研修」という仕組みにあります。ここが、本記事で最もお伝えしたい論点です。
介護の法定研修は「義務」である
介護事業者には、運営基準によって実施が義務づけられている研修があります。高齢者虐待の防止、感染症の予防とまん延防止、業務継続計画(BCP)に基づく訓練などがその代表で、令和6年度の介護報酬改定を経て、これらは経過措置が終了し、実施が義務化されています。
そして重要なのは、これらの研修を実施していない場合、介護報酬の減算の対象になるという点です。つまり法定研修は、事業者が指定基準を満たし、報酬を減らされないために、自らの責任で実施しなければならないものです。
「施設の義務」を「職員の自己研鑽」と取り違えていないか
ここで、医療機関の医療安全研修と同じ落とし穴が現れます。
法定研修は、あくまで事業者に課された義務です。事業者がこの義務を果たすために職員を参加させる以上、その参加は業務命令であり、労働時間にあたります。にもかかわらず、現場では「職員自身のスキルアップのための勉強なのだから、自己研鑽で当然」と考え、休日や勤務時間外に無給で実施しているケースが見られます。
しかし、考えてみれば構造は明らかです。その研修は、職員が個人的に望んで受けているものではなく、事業者が減算を避け、指定を維持するために必要としているものです。事業者側の必要に基づいて職員を参加させているのですから、「任意」でも「自己研鑽」でもありません。これを無給で行わせれば、賃金の未払いにあたります。
「施設が果たすべき公的な義務」を、「職員個人の私的な勉強」とすり替えてしまう。この取り違えこそが、介護現場における「任意の誤認」の正体です。しかも、義務である以上、研修そのものをやめるという選択肢はありません。だからこそ、「労働時間として、賃金を払って実施する」という前提に立つ必要があります。
時間外・休日の実施には割増賃金も
法定研修を所定労働時間外に実施すれば、時間外労働として割増賃金が必要になります。法定休日に実施すれば、休日労働としてさらに高い割増率が適用されます。「研修だから通常より安く」ではなく、通常の労働と同じ賃金ルールが適用されるということです。
人員に余裕のない事業所ほど、研修を勤務時間外に押し込みがちですが、それは同時に割増賃金の負担を生んでいる、という認識が必要です。この負担を適法に抑える工夫については、次章で触れます。
【直近の動き】ケアマネジャーの研修と労働時間
介護業界では、研修と労働時間をめぐる制度変更も進んでいます。
ケアマネジャーの資格更新制を廃止する改正法が令和8年(2026年)6月に成立しました。更新のための研修は廃止される一方、継続的な研修受講は引き続き義務として位置づけられ、事業者にも受講機会を確保する措置が求められる方向です。この改正の施行時期は、今後の政令で定められることになっており、確定していません(令和9年4月が有力とされていますが、公式の続報を確認する必要があります)。
あわせて、厚生労働省は令和8年3月の会議で、ケアマネジャーが業務に必要な法定研修を受講する時間について、労働時間として扱うよう、都道府県を通じて事業者へ周知するよう要請しています。これまで「個人の資格維持のため」として本人に有給を使わせたり自己負担で受講させたりする運用が一部にありましたが、今後は「労働時間として扱う」という考え方が明確になりつつあります。制度が動いている最中の論点ですので、最新の情報は公式で確認することをおすすめします。
小規模事業所はどう実践するか
ここまで、どの研修が労働時間にあたるのかを見てきました。とはいえ、人員に余裕のない小規模なクリニックや介護事業所で、すべてを厳密に管理するのは負担が大きいのも事実です。ここでは、完璧を目指すのではなく、無理なく守れる現実的な対応を整理します。
まず「線引き」を書面で決めておく
最も効果的なのは、就業規則または研修規程で、「会社が指示する研修(労働時間・有給)」と「純粋な任意の研修(自己啓発・無給)」の境界を、あらかじめ文章で決めておくことです。
たとえば、「会社が指示・命令して参加させる研修は労働時間として賃金を支払う」「自己啓発のための研修は参加・不参加が自由であり、不参加によって人事評価上の不利益を課すことは一切ない」といった内容を明記し、職員に周知します。ここで大切なのは、任意研修と位置づけるのであれば、その約束を運用でも守ることです。規程で「不利益なし」と書きながら、実際には参加状況を査定に反映していれば、それは「任意の誤認」になり、労働時間と判断されてしまいます。書いたとおりに運用してこそ、線引きは意味を持ちます。
義務の研修は、原則として勤務時間内に組み込む
医療安全研修や院内感染対策研修、介護の法定研修のように、そもそも任意ではあり得ない研修は、最初から所定労働時間内に組み込んでしまうのが、最もシンプルで確実な対応です。シフトの一部として研修を位置づけてしまえば、「これは労働時間か」と後から悩む必要がなくなり、割増賃金の負担も避けやすくなります。
年間の研修計画を立てる際に、義務の研修を通常勤務の枠内にあらかじめ配置しておく。この一手間が、後の未払いトラブルを防ぐ最も現実的な方法です。
時間外のeラーニング・勉強会は「事前承認制」に
管理が難しいのが、各自の判断で受講できるeラーニングや、勤務時間外の自主的な勉強会です。これらを野放しにすると、後になって「あの時間も労働時間だった」と、把握していない時間の賃金をさかのぼって請求されるおそれがあります。
対策として有効なのが、「業務時間外に研修・学習を行う場合は、事前に上長の承認を得る」というルールを設けることです。承認したものは労働時間として賃金を払い、承認していない自主的な学習は労働時間に含めない——この線引きを明確にしておけば、際限のない未払い請求を防ぐ歯止めになります。小規模事業所であっても、この一つのルールを徹底するだけで、リスクは大きく下がります。
完璧な管理体制を一度に整えるのは難しくても、「線引きを書面化する」「義務の研修は勤務時間内に置く」「時間外は事前承認制にする」——この三つから始めれば、多くのトラブルは未然に防げます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 休日に行う法定研修(虐待防止研修や感染症対策研修)に、賃金は必要ですか?
必要です。これらの研修は、法令や運営基準によって施設・事業者に実施が義務づけられており、未実施の場合にはペナルティの対象になるものです。施設の義務を果たすために職員を参加させる以上、それは業務命令であり、休日の参加であっても労働時間にあたります。法定休日に実施する場合は、休日労働として割増賃金の支払いも必要になります。
Q2. eラーニングを自宅で受講させています。これは労働時間になりますか?
受講が実質的に強制されていれば、労働時間になります。受講が義務づけられている、受講しないと業務に支障が出る、あるいは受講状況が人事評価に影響するといった事情があれば、自宅での受講であっても指揮命令下にあるとみなされ、労働時間として賃金の支払いが必要です。この場合、受講記録などで時間を把握しておく必要があります。逆に、完全に自由意思で受講でき、評価に一切影響しない純粋な自己研鑽であれば、労働時間にはあたりません。
Q3. 「任意参加」の勉強会ですが、参加しない職員の査定を下げる運用は問題ですか?
問題があります。「任意参加」と案内していても、不参加によって人事評価を下げる運用をしていれば、それは客観的に見て「事実上の強制」とみなされます。そうなると、その勉強会の時間はすべて労働時間と判断され、過去にさかのぼって未払い賃金を請求されるおそれがあります。査定に反映するのであれば、それは任意研修ではなく、賃金を支払うべき業務研修だと考える必要があります。
Q4. 入社前の研修や試用期間中の研修は、無給や最低賃金以下でもよいですか?
原則として認められません。入社前であっても、参加が実質的に強制されていれば労働時間にあたり、最低賃金法も適用されます。「まだ正式雇用前だから」「見習い期間だから」という理由で、無給にしたり最低賃金を下回る手当だけで済ませたりすることは、原則として違法です。試用期間中に例外的に最低賃金を下回る額を支払うには、労働基準監督署を経由した都道府県労働局長の許可が必要で、手続きのハードルは高いものです。
まとめ|「その研修は、本当に任意ですか」
研修に参加した時間に給与が発生するかどうかは、その研修が「労働時間」にあたるかで決まります。そして、労働時間にあたるかどうかは、就業規則の文言や本人の同意ではなく、実態によって客観的に判断されます。
本記事で繰り返しお伝えしてきたのは、トラブルの多くが「任意の誤認」から生まれるということです。「自由参加と案内しているから任意だ」と考えていても、参加が評価・処遇や業務と結びついていれば、それはもう任意ではなく、賃金を支払うべき労働時間です。とりわけ、医療の医療安全研修や、介護の法定研修のように、施設・事業者に課された義務である研修を「職員個人の自己研鑽」と取り違える誤りには、注意が必要です。
まずは、自院・自事業所の研修を「業務として指示しているもの」と「本当に自由な自己啓発」に分けて見直し、その線引きを規程と運用の両面で整えることが、トラブルを防ぐ第一歩になります。
なお、労働時間や賃金に関する制度、そして介護のケアマネジャー研修をめぐる仕組みは、法改正や運用の見直しによって変わっていきます。本記事の内容も執筆時点のものであり、実際の判断にあたっては、厚生労働省や都道府県労働局などの一次情報で最新の内容をご確認ください。個別の判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や、顧問社労士などの専門家にご相談されることをおすすめします。
参考(主な一次情報)
- 厚生労働省「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」https://www.mhlw.go.jp/content/001717825.pdf
- 厚生労働省「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(令和元年7月1日基発0701第9号)https://www.mhlw.go.jp/content/001237616.pdf
- e-Gov法令検索「労働基準法」「医療法」等の条文は、公式サイトで最新の内容をご確認ください。
