介護事業所で職員を採用すると、その人から書類を受け取ります。用紙に記入してもらい、必要なものを提出してもらい、コピーを取る。揃ったらファイルに綴じて保管する。
多くの事業所が、この形で回しています。書類は揃っていますし、手続きも期限内に出せています。問題が起きているわけではありません。
ただ、この形には紙であることから来る性質があります。管理が甘いからではなく、紙だからそうなる、という部分です。
この記事では、入社時に回収する書類を紙で持っている状態と、それをクラウドに置いた場合とで、何が変わるのかを整理します。どの製品がよいかは扱いません。
入社した職員から、どのような書類を受け取っているか
職員を採用すると、その人から情報を受け取ります。事業所によって細かな違いはありますが、おおむね次のものです。
必ず必要になるもの
- 個人情報(氏名、生年月日、住所など)
- マイナンバー
この2つがないと、社会保険・雇用保険の手続きを行うことができません。届出の様式に記載する欄があるためです。
該当すれば必要になるもの
- 雇用保険関係(前職がある場合の雇用保険被保険者証)
- 通勤手当関係(通勤経路、交通機関、距離)
- 給与振込口座
受け取り方には、2つの形がある
これらは、性質の違う2つの形で回収されています。
一つは、書いてもらうものです。用紙を渡して、記入して返してもらう。個人情報、通勤経路、振込口座がこれにあたります。
もう一つは、現物を出してもらい、写しを取るものです。マイナンバーの確認書類、雇用保険被保険者証。原本は本人に返し、事業所にはコピーが残ります。
前者は用紙を配って回収する手間、後者はコピーを取る手間が発生します。どちらも、入社のたびに、一人につき一式です。
回収をしたらファイルに綴じれる
回収し終えた書類は、その職員の分としてまとめられ、ファイルや封筒に入れて保管されます。
このとき、書類は物理的にひとまとまりになります。職員一人につき1セット。それが職員の数だけ並ぶ。手続きが必要になったら、そこから必要な情報を開いて情報を確認する。
多くの事業所が、この形で管理しているのではないでしょうか?特に問題が起きているわけでもありません。手続きは期限内に出せていますし、書類も揃っている。
ただし、この形には紙であることから来る性質があります。次の章で見ていきます。
紙で管理していると、何が起きるか
紙で管理していると、一か所にしか置けない
紙の書類には、どうしても動かせない性質があります。誰かが利用している資料は、同時に他の誰かが確認することができません。
職員一人分の書類がファイルに綴じられているとき、そのファイルは事務所のキャビネットにあります。誰かが手続きのために取り出せば、その間、他の人は見られません。別の施設にいる人は、そもそも見に行けません。同時に必要となる機会があるかといえば、ないかもしれませんが・・・。
これは、管理の丁寧さとは関係がありません。きちんと綴じてあっても、鍵をかけて保管していても、同じです。紙は、その場所にある人にしか見えない。
保管の仕方が、人によって違う
もう一つ、紙には避けにくい性質があります。書類の綴じ方が、担当者ごとに違ってくるということです。
順番、分け方、封筒に入れるかファイルに綴じるか、どこまでを一人分としてまとめるか。決まりを作っていても、複数の人が同じ作業をすれば、少しずつ違う形になります。
問題は、その違いが担当者本人にしか分からないことです。作った人は、どこに何があるか分かっている。他の人には分かりません。
担当者が休んだ日に手続きが必要になれば、探すところから始まります。担当者が替われば、前任者の綴じ方を後任者が読み解くことになります。書類は残っていても、そこに何がどう入っているかという情報は、引き継がれません。
情報が、その人のところで止まる
この2つが重なると、次の状態になります。
入社時に受け取った情報は、その職員の書類を保管している人のところにしかありません。
施設が複数あれば、施設ごとで管理をしています。本部で手続きをしようとすれば、施設に連絡して送ってもらうか、写しを取って回してもらうことになります。届くまでの時間が、そのまま手続きの遅れになります。
顧問社労士に手続きを依頼する場合も同じです。依頼はできても、必要な情報が手元に届くまで、手続きは始まりません。「お願いします」と伝えた時点と、実際に作業が始まる時点の間に、書類を探して送るという工程が挟まっています。
管理できていないのではない
ここまで挙げたことは、いずれも管理の失敗ではありません。
書類は揃っています。保管もされています。手続きも期限内に出せています。それでも、その情報は一人のところにしかなく、他の人からは見えない。紙で持っている限り、これは変わりません。
裏を返せば、丁寧に管理するほど改善する種類の問題ではない、ということです。媒体を変えなければ、この性質はなくなりません。
クラウドに置くと、何が変わるか
本人が入力したものが、一番正しい
紙で回収した情報は、そのままでは使えません。届出の様式や、給与のソフトに、誰かが入力することになります。
このとき、書類に書かれた文字を人が読み取って、別のところに打ち込みます。この工程を通った時点で、情報は本人が書いたものではなく、担当者が写したものに変わります。
多くの場合、正しく写せます。ただし、写している以上、写し間違いは起こり得ます。特に数字です。マイナンバー、雇用保険被保険者番号、口座番号、通勤距離。桁数が多く、意味を持たない数字の並びは、目で読んで打ち込む対象として最も間違えやすいものです。
しかも手書きです。1と7、0と6、4と9。書いた本人には自明でも、読む側には判断のつかない字があります。
クラウドでは、本人が入力する
クラウドの労務管理システムでは、事業所が用紙を渡す代わりに、本人に入力してもらいます。職員が自分の端末から、自分の情報を入力する。
このとき、入力されたデータは本人が入れたものそのものです。誰も写していません。読み取っていません。
これが、紙との一番の違いです。速くなるかどうかより前に、手元にある情報が誰の手を経たものかが違います。本人が入れたデータであれば、間違っていた場合の原因は本人の入力です。写した場合は、本人の記入と担当者の読み取りと打ち込みの、どこで間違えたか分かりません。
書類の写しは、置いた瞬間から扱いが決まる
マイナンバーの確認書類や雇用保険被保険者証は、紙で受け取ってコピーを取ると、そのコピーが事業所の中に残ります。
このとき、そのコピーがどう扱われるかは、保管する人によって決まります。どのファイルに入れるか、どこにしまうか、誰が見られる状態にあるか。決まりを作っていても、実際の運用は担当者に委ねられます。誰がいつ見たかの記録は、残りません。
クラウドでは、本人がその場で撮影してアップロードすれば、コピー機を通る工程がありません。そして、アップロードされたデータにはアクセスできる人をあらかじめ限定でき、製品によっては、誰がいつ閲覧・編集したかが記録として残ります。これは運用の丁寧さではなく、システムの設計としてそうなっています。
特定個人情報の安全管理措置では、取り扱う担当者を限定すること、取扱状況の分かる記録を残すことが挙げられています(特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)|個人情報保護委員会)。紙で持っている場合、これは事業所が自分で作る必要があります。クラウドの場合、その部分は仕組みとして備わっています。
入力された情報は、そのまま届出に使える
本人が入力したデータは、そのままシステムの中に残ります。手続きが必要になったとき、その情報を使って届出を作成できます。
紙のときは、書類を探し、開き、読み取り、様式に写していました。この工程は、速くなったのではなく、なくなります。ここで初めて、速さの話になります。ただしそれは結果であって、本質はデータが写されていないことです。
消さない限り、残り続ける
紙のファイルは、置き場所を取り、担当者ごとに綴じ方が違い、その場所にいる人にしか見えませんでした。
クラウドに置いた情報は、削除しない限り残ります。誰が保管しているかによって形が変わることもありません。施設が別でも、担当者が休んでいても、権限のある人であれば見られます。
前章で挙げた「一人のところにしかない」という状態が、ここで解消されます。情報が担当者に属するのではなく、事業所に属する形になるということです。
小さいうちの方が、始めるのは容易である
人数が増えるほど、差が開く
ここまで見てきたことは、職員が少ないうちはさほど問題になりません。
職員が10人なら、書類のセット数は10です。どこに何があるかを一人で把握できます。担当者が休んでも、探せば見つかります。施設が一つなら、そもそも共有の問題が起きません。
100人になると、同じことが成り立たなくなります。束が100あり、施設が複数に分かれ、担当者も複数になる。前章で挙げた性質が、そのまま人数分に増えます。
入社のたびに一式を回収し、コピーを取り、綴じる。この作業も人数に比例します。職員の出入りが多い事業所では、この繰り返しが常時発生します。
それでも、小さいうちの方が始めやすい
規模が大きいほど効くのであれば、大きくなってから入れればよいことになります。実際にはその逆です。
導入するとき、既にいる職員の情報を登録する必要があります。この作業は、そのときの人数分だけ発生します。10人のときに始めれば10人分、100人になってからなら100人分です。
運用を変える相手の数も同じです。10人であれば、次に入る職員から新しいやり方にすれば、数年で全員が入れ替わります。100人になってから同じことをすると、切り替えの期間そのものが長くなります。
「規模が小さいから必要ない」ではなく、規模が小さいうちは、始めるのが軽いということです。
決めなければならないことはある。
ただし、クラウドを契約すれば自動的にこの状態になるわけではありません。
何を入力してもらうか、どの項目を必須にするか、誰がどこまで見られるようにするか。初期の設定で決めることがあります。ここを決めないまま運用を始めると、紙のときと同じように、人によって入れ方が違う状態になります。媒体が変わっただけで、揃わないという性質は残ります。
また、入力してもらう以上、入力を促す運用も残ります。本人が入れなければ、情報は集まりません。
自分でやることだけが、選択肢ではない
こうした設定や運用の立ち上げを、事業所の中だけで進めるのは、簡単ではないかもしれません。
ただ、これは「詳しい人がいないから無理」という話でもありません。設定を一緒に決める相手を確保することも、導入という行動の一部です。実際、既に導入済みのソフトをそのまま使い、設定と運用の立ち上げを外部と一緒に進めている事業所もあります。
自分たちだけで全部やろうとすると、始めるまでに時間がかかります。始めることと、全部自分でやることは、別のことです。
まとめ
入社した職員から受け取る情報は、その職員の書類を保管している人のところにあります。紙で持っている限り、コピーを取らなければ一か所にしか置けません。担当者が休めば探すところから始まり、施設が別なら資料を確認するのにも手間がかかります。綴じ方は担当者ごとに違い、その違いは本人にしか分かりません。
これは管理の失敗ではありません。書類は揃っていて、保管もされている。それでも、その情報は一人のところにしかない。丁寧に管理するほど改善する種類の問題ではないので、媒体を変えなければ、この性質はなくなりません。
クラウドに置くと、まず情報の出所が変わります。本人が自分の端末から入力したデータは、誰も写していません。紙に書かれた数字を人が読み取って打ち込む工程がなくなるため、手元にあるのが本人の入れたものそのものになります。桁数の多い数字を写す場面が、そもそも発生しません。
書類の写しについても、見られる人をあらかじめ限定でき、誰がいつ扱ったかを記録として残せます。これは運用の丁寧さではなく、システムの設計です。
そして、この差は人数が増えるほど開きます。ただし、始めるのは人数が少ないうちの方が軽い。既にいる職員の登録も、運用を変える相手の数も、そのときの人数分だけだからです。規模が小さいから必要ない、ではなく、規模が小さいうちは始めるのが軽いということです。
クラウドを契約すれば自動的にこうなるわけではありません。何を入力してもらうか、誰がどこまで見られるようにするかは、初期に決めることとして残ります。入力を促す運用も残ります。
ただ、それを事業所の中だけで抱える必要もありません。始めることと、全部自分でやることは、別のことです。



