キャリアアップ助成金の正社員化コースは、「パートやアルバイトを正社員にして、月給を3%上げれば受給できる」と理解されがちです。しかし、実際に不支給となるケースの多くは、この理解の落とし穴から生まれます。つまずくポイントは、大きく2つです。「正社員とは何か」と、「上げなければならない賃金とは何か」。この2つは、支給要領の定義と現場の感覚がずれやすく、申請の直前や審査の段階で「要件を満たしていなかった」と判明することが少なくありません。
医療機関や介護事業者は、この2点で特につまずきやすい事情を抱えています。無期転換ルールで長く勤めるパート職員がすでに無期雇用になっていたり、処遇改善加算やベースアップ評価料といった独自の賃上げ原資を持っていたりするためです。
この記事では、正社員化コースの制度全体をひととおり解説することはしません。「正社員の定義」と「賃金3%の中身」という、不支給に直結する2つの急所に絞って、医療・介護の現場でどうつまずくのか、どう備えれば防げるのかを、令和8年度(2026年度)の支給要領に基づいて整理します。
「無期にすれば正社員」ではない——正社員化コースがいう「正社員」の定義
最初のつまずきは、「正社員とは何か」という入口にあります。
正社員化コースは、有期契約やパートなどの非正規雇用労働者を「正規雇用労働者」に転換した事業主を助成する制度です。ここで多くの現場が誤解するのが、「期間の定めをなくして無期雇用にすれば、正社員化したことになる」という思い込みです。実際には、無期にするだけでは、この助成金がいう「正規雇用労働者」には該当しません。
「賞与または退職金」と「昇給」が要件になる
支給要領は、「正規雇用労働者」を複数の条件で定義しています。無期契約であること、派遣ではないこと、勤務地や職務が限定されていないことなどに加えて、実務上もっとも見落とされやすいのが次の条件です。
就業規則等に、長期雇用を前提とした「賞与または退職金制度」と「昇給」が規定され、その労働者に実際に適用されていること。
つまり、賞与も退職金もなく、昇給の仕組みも定められていない雇用区分に転換しただけでは、「正規雇用労働者」の要件を満たしません。契約期間を無期に変えても、待遇が非正規のときと変わらなければ、制度上は「正社員化した」とは認められないのです。「正社員」という名称に変えたかどうかではなく、就業規則にこれらの制度が客観的に規定され、運用されているかが問われます。
医療・介護では「もう正社員のはず」という感覚とずれる
この定義が、医療・介護の現場で特に問題になります。
看護師や介護職、医療事務などの職種では、パートタイマーとして長く働き続ける職員が珍しくありません。そして、無期転換ルール(有期契約が通算5年を超えると、労働者の申込みで無期契約に転換できる労働契約法上の仕組み)によって、こうしたベテランのパート職員がすでに無期雇用になっているケースが多くあります。
現場の感覚では、「10年働いてくれている無期のパートさんは、もう正社員のようなもの」と捉えがちです。しかし支給要領は、無期であっても、正社員としての賞与・退職金・昇給といった待遇が適用されていない労働者を、「無期雇用労働者」という非正規側の区分に位置づけています。長く勤めていることや無期であることは、正規雇用労働者に該当するかどうかとは直接関係しないのです。
この「無期だが正社員ではない」という区分の存在が、次に説明する助成額の問題に直結します。すでに無期になっているのか、それともまだ有期なのか——この違いが、受け取れる金額を大きく左右することになります。
医療・介護が陥りやすい「有期5年超」の落とし穴——助成額が半分になる仕組み
前章で、「無期雇用」と「正規雇用」は別ものだと整理しました。この区別は、単なる言葉の問題ではありません。受け取れる助成額が、そのまま半分になるかどうかを分けるからです。医療・介護の現場は、この落とし穴に特に陥りやすい構造を抱えています。
有期からの転換か、無期からの転換かで助成額が変わる
正社員化コースの助成額は、転換する直前の雇用形態によって、次のように変わります(令和8年度時点・中小企業事業主の場合)。
| 転換前の雇用形態 | 助成額(中小企業) |
|---|---|
| 有期雇用から正規雇用へ | 1人あたり40万円(重点支援対象者は2期に分けて計80万円) |
| 無期雇用から正規雇用へ | 1人あたり20万円(重点支援対象者は2期に分けて計40万円) |
有期からの転換に比べ、無期からの転換は助成額が半分です(大企業の場合は、有期からが30万円、無期からが15万円となります)。同じ「正社員にした」という取り組みでも、その直前に本人が有期だったのか無期だったのかで、金額が倍違うことになります。
なぜこの差が生まれるのか。制度の趣旨としては、雇用がより不安定な有期契約の労働者を正社員にする方が、雇用の安定に資する度合いが大きいと評価されているためと考えられます。
「無期転換したから半額」ではなく「有期のまま5年を超えたから半額」
ここで、多くの解説が正確に説明していない重要な点があります。助成額が半分になる分かれ目は、「本人が無期転換の手続きをしたかどうか」ではありません。「有期契約のまま通算5年を超えて雇用されているかどうか」です。
支給要領は、正社員化コースの対象労働者について、有期雇用労働者の枠から「有期雇用労働者として5年を超えて雇用されている者」を除外し、これを無期雇用労働者の枠に含めると定めています。つまり、本人が無期転換を申し込んでいなくても、有期契約が通算5年を超えた時点で、正社員化コースの助成額の計算上は「無期雇用労働者からの転換」として扱われることになります。
この違いは、実務では決定的です。「うちのパートさんは無期転換の申込みをしていないから、まだ有期のはず」と考えていても、勤続が通算5年を超えていれば、正社員化した時点で助成額は半額の20万円になってしまう、ということが起こり得ます。
医療・介護は「気づいたら5年超」が起きやすい
この落とし穴が医療・介護で問題になりやすいのは、長期勤続のパート職員が多いという業界特性のためです。
パート看護師や介護職、医療事務などは、家庭の事情と両立しながら同じ職場で長く働き続ける人が少なくありません。結果として、有期契約を繰り返しながら通算5年を超える職員が、事業所内に一定数いることになります。事業所側が「そろそろ正社員に」と考えたときには、すでに多くの職員が通算5年を超えていて、有期からの転換(40万円)ではなく無期からの転換(20万円)になってしまう——このパターンは、業界の勤続構造からして起こりやすいものです。
助成額を取りこぼさないための考え方
以上を踏まえると、助成額の観点からは、正社員化を検討している非正規職員がいるなら、その人が有期契約のうち(通算5年を超える前)に正社員化する方が、助成額の面では有利ということになります。有期のうちに転換すれば40万円、5年を超えてからでは20万円。同じ職員を正社員にするのでも、タイミングによって金額が変わります。
ただし、これはあくまで助成額を最大化するという一面からの整理です。正社員化のタイミングは、本人の意向、事業所の人員計画、賃金原資の見通しなど、助成金以外の要素も踏まえて総合的に判断すべきものです。「助成金のために急いで転換する」という発想が先に立つと、後述する賃金要件や就業規則の整備が追いつかず、かえって不支給になることもあります。助成額はあくまで判断材料の一つとして押さえておく、という位置づけが実務的でしょう。
なお、無期転換ルールそのものは労働者の権利を守る大切な仕組みであり、これを回避するために契約を打ち切るような対応(いわゆる「雇止め」)は、法的にも慎むべきものです。ここで述べているのは、無期転換を避けるという話ではなく、正社員化を予定しているなら早めのタイミングを検討する余地がある、という趣旨です。
「上げる賃金」の正体——3%の分母に入るもの・入らないもの
正社員化コースのもう一つの急所が、「賃金を3%以上増額させる」という要件です。数字だけ見れば単純ですが、「何を3%増やすのか」、つまり計算の分母に入る賃金の範囲を取り違えると、月給の総額は上がっているのに要件を満たさない、という事態が起こります。
比較するのは「基本給と定額の諸手当」だけ
支給要領は、転換の前後6か月間の賃金を比較して3%以上増えているかを見ます。このとき比較の対象になるのは、基本給と、定額で支給されている諸手当です。逆に、次のようなものは分母から除かれます。
- 通勤手当のように、実費を弁償する性質の手当
- 時間外労働手当、深夜・休日手当のように、毎月の状況によって変動する手当
- 歩合給や皆勤手当のように、実績や状況で額が変わる手当
これらは「実態として労働者の処遇が改善しているか判断できない」ものとして、3%の計算から外されます。したがって、たとえば残業手当や歩合を増やして月給の合計を3%上げても、それらは分母に入らないため、要件を満たしたことにはなりません。増やすべきは、あくまで基本給や、毎月決まった額で支払う手当です。
なお、定額の諸手当を転換後の賃金に含めて計算したい場合は、その手当の支給要件や計算方法が就業規則等に記載されていることが条件になります。「実際に払っているから」だけでは足りず、就業規則という制度に落とし込まれている必要があります。
固定残業代を組み込んでいる場合は要注意
医療・介護に限らず注意したいのが、固定残業代(みなし残業手当)を基本給に組み込んで賃金を構成している場合です。
支給要領は、転換の前後で固定残業代の総額や時間相当数を減らしているときは、固定残業代を含めた場合と含めない場合のどちらで計算しても3%以上増額していることを求めています。転換を機に基本給を上げる一方で固定残業代を圧縮すると、見かけの月給は増えても、実質的な基本給部分の改善がないと判断され、要件を満たさなくなることがあります。賃金の組み替えを伴う転換では、ここを慎重に確認する必要があります。
医療・介護で最も見落とされやすい「時間単価での比較」
そして、医療・介護の非正規職員を正社員化する場面で、最もつまずきやすいのがこの点です。
転換の前後で所定労働時間が変わる場合、比較は月給の総額ではなく、原則として「1時間あたりの賃金」で行われます。
パート看護師や登録ヘルパー、短時間勤務の介護職を正社員にするとき、多くの場合、労働時間は増えます。週3日勤務だった人が週5日のフルタイム正社員になれば、当然、月給の総額は大きく上がります。ところが、正社員化コースが見るのは月給総額ではなく時間単価です。
たとえば、労働時間が1.5倍に増えれば、月給総額が1.5倍近くになるのは当然で、それは「処遇が改善した」こととは別です。時間単価(基本給等を総所定労働時間で割った額)で見たときに3%以上上がっていなければ、要件は満たされません。「これだけ月給が増えたのだから当然通るだろう」という感覚と、時間単価で厳密に判定する要領とのあいだには、大きなずれがあります。パートから正社員への転換で労働時間が延びるケースこそ、この時間単価での3%増額を、事前に電卓を叩いて確認しておく必要があります。
労働局の確認ツールを使う
厚生労働省は、賃金が3%以上増額しているかを確認するためのツール(賃金上昇要件確認ツール)を用意しています。分母に何を入れるか、時間単価でどう計算するかは判断が難しいため、自己流で計算するのではなく、このツールで確認してから申請することが、取り違えによる不支給を避ける実務的な備えになります。
医療・介護で気をつけたい、処遇改善加算・ベースアップ評価料との関係
前章の「3%増額」の要件は、医療・介護の事業所にとって、もう一つ特有の悩みを生みます。それは、処遇改善加算やベースアップ評価料といった、公費による賃上げの原資をどう扱うかという問題です。ここは制度の解釈が定まりきっていない領域なので、注意点の共有にとどめ、最終的な判断は必ず労働局に確認する、という前提で読んでください。
「変動する手当」で払っていると、3%の計算から外れる可能性
介護分野の処遇改善加算や、医療分野のベースアップ評価料は、事業所への入金額が、サービス提供実績や患者数などに応じて月ごとに変動する性質を持ちます。そのため、これらを原資とする賃金を、職員へ支給する際にも毎月変動する手当として支払っている事業所が少なくありません。
ここで前章の要件を思い出してください。3%増額の計算に含められるのは「基本給と定額で支給されている諸手当」であり、毎月の状況で変動する手当は除外されます。つまり、処遇改善加算やベースアップ評価料を原資とする賃金を、月ごとに変動する形で支給している場合、その部分は3%増額の計算から外れる可能性があります。「加算で手当を増やしたから賃金は上がっているはず」と考えていても、変動手当として払っていれば、正社員化コースの3%の分母には算入されない、ということが起こり得ます。
「定額で払えば必ず算入できる」と言い切れるわけではない
では、これらを定額の手当として支給すれば3%の計算に入るのか、という点については、現時点で厚生労働省の全国統一的な見解が確認できていません。定額手当として就業規則に規定していても、その原資が公費であることや、加算・評価料の制度変更で将来的に手当の維持が不確実になる可能性など、判断が分かれ得る要素があります。
この論点について「こうすれば必ず算入できる」と請け合う解説も見かけますが、公的な裏付けが確認できない以上、当事務所としては断定を避けます。処遇改善加算・ベースアップ評価料を原資とする賃金を3%増額の要件に組み込めるかどうかは、支給形態(定額か変動か)や就業規則の規定内容によって判断が変わり得るため、実際に転換を計画する前に、必ず管轄の労働局に個別に確認することをおすすめします。ここは、医療・介護だからこそ生じる論点であり、かつ判断がグレーになりやすい部分なので、思い込みで進めず、事前の照会でリスクをつぶしておくのが確実です。
ほかにも不支給を生む条件——就業規則の届出時期と解雇要件
「正社員の定義」と「賃金3%」の2つを押さえても、それだけで安心はできません。正社員化コースには、手続きの順序や事業所の状況に関わる要件があり、これらを外すと、転換そのものは適切でも不支給になります。ここでは、特に見落とされやすい2つを取り上げます。
就業規則は「転換より前」に整えて届け出る
正社員化コースでは、正社員への転換制度(どういう条件で正社員になれるか)を就業規則等に規定していることが求められます。ここで重要なのが順序です。
制度としての就業規則が整い、労働基準監督署へ届け出られた後に、その制度に基づいて転換する——この順序でなければなりません。転換を先に済ませてしまい、後から就業規則の正社員区分や転換制度を整備・届出した場合、「制度が存在しない時点で転換した」とみなされ、要件を満たさないと判断されます。実際、正社員化コースの不支給理由として、この「就業規則の整備・届出が転換に間に合っていなかった」というケースは少なくありません。
なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の労働基準監督署への届出が必要です。10人未満の事業場でも、正社員化コースでは、届け出た就業規則、または労働者代表の氏名等を記載した申立書を添付した就業規則が求められます。「うちは10人未満だから就業規則はなくてよい」という感覚のままだと、この助成金の入口でつまずくことになります。
クリニックや小規模な介護事業所では、そもそも就業規則が整備されていない、あるいは正社員と非正規の区分が就業規則上あいまいなまま運用されているケースがあります。正社員化コースは、こうした「制度としての就業規則」の整備状況を厳しく見る助成金です。就業規則の整備そのものについては、クリニックに就業規則は必要か?10人未満でも整備すべき理由でも詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。

転換の前後に解雇があると不支給になることがある
もう一つ見落とされやすいのが、解雇に関する要件です。
正社員化コースでは、転換した日の前日から起算して6か月前から1年を経過するまでの間(前後1年半ほどの期間)に、その事業所で事業主都合による解雇などを行っていると、不支給になります。加えて、退職勧奨や労働条件の悪化などを理由とする「特定受給資格離職者」が、一定の割合(その事業所の雇用保険被保険者数の6%。ただし該当者が3人以下の場合を除く)を超えて発生している場合も、不支給の対象になります。
この要件は、離職が起こりやすい介護現場などで、思わぬ形で問題になることがあります。ハラスメントや労働条件の相違を理由とする自己都合退職が、ハローワークの判定では「特定受給資格離職者」に分類されることがあり、事業主の認識と食い違うことがあるためです。「自己都合で辞めてもらっただけ」と考えていても、離職の区分によっては、正社員化コースの支給に影響することがあります。人の入れ替わりが多い事業所ほど、転換を計画する前に、直近の離職状況を確認しておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
正社員化コースについて、医療・介護の現場から寄せられやすい疑問を、要点に絞って整理します。
Q. すでに無期雇用になっているパート職員も、正社員化コースの対象になりますか?
対象になります。ただし、賞与・退職金・昇給などの正社員待遇を規定した就業規則を適用する形で「正規雇用労働者」に転換することが必要です。また、有期からの転換ではなく「無期からの転換」として扱われるため、助成額は有期からの場合の半分になります。
Q. 同じ事業所で、何人まで申請できますか?
正社員化コースの支給申請の上限は、1年度・1事業所あたり20人までです(同一対象者への2回目の申請などを除く)。複数の職員をまとめて正社員化する場合は、この上限も念頭に置いて計画する必要があります。
Q. 助成金はいつ受け取れますか?
転換後6か月間の賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請を行い、その後の審査を経て支給されます。申請から入金までにはさらに時間がかかるため、転換してすぐに入金されるわけではなく、全体として1年前後を見込んでおくのが現実的です。なお、重点支援対象者の場合は、6か月時点(第1期)と12か月時点(第2期)の2回に分けて申請・支給される仕組みです。
Q. 医療事務や医療技術職も対象になりますか?
対象になります。正社員化コースは職種を限定していません。看護師・介護職はもちろん、医療事務、医療技術職なども、非正規雇用から正規雇用への転換であれば対象です。ただし、いずれの職種でも、これまで述べてきた「正社員の定義」「賃金3%増額」などの要件を満たす必要があります。
Q. 正社員として採用する予定で雇ったパート職員を、後で正社員にした場合は対象になりますか?
対象になりません。正社員化コースは、あくまで非正規雇用として働いていた労働者を正社員に転換する取り組みを助成するものです。最初から正社員にすることを約束して雇い入れた場合は、制度の趣旨から外れ、対象外となります。
Q. 院長や理事長の親族を正社員化する場合はどうですか?
事業主や取締役の3親等以内の親族は、正社員化コースの対象労働者から除かれます。家族経営の医院や事業所では、親族の職員を正社員化しても助成対象にならない点に注意が必要です。
まとめ——「正社員化した・賃金を上げた」だけでは通らない
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、非正規雇用の職員を正社員にする医療機関・介護事業者にとって、活用したい制度です。ただし、これまで見てきたとおり、「正社員にして賃金を上げた」という事実だけでは受給できません。つまずきやすいのは、次の点でした。
- 正社員の定義:無期にするだけでは足りず、賞与または退職金・昇給を規定した就業規則を適用して「正規雇用労働者」に転換する必要がある
- 有期5年超の罠:有期のまま通算5年を超えると、正社員化しても助成額は半分になる。医療・介護は長期勤続のパート職員が多く、特に陥りやすい
- 賃金3%の分母:比較するのは基本給と定額手当のみ。変動手当や固定残業代の扱い、そして労働時間が変わる場合の時間単価比較に注意する
- 加算・評価料の扱い:処遇改善加算やベースアップ評価料を原資とする賃金は、支給形態によって3%の計算から外れる可能性がある。判断は労働局に確認する
- 手続きと事業所の状況:就業規則の整備・届出は転換より前に。転換前後の解雇や離職の状況も要件に関わる
これらはいずれも、汎用的な解説では踏み込みきれない、医療・介護の現場に即した論点です。逆に言えば、ここを事前に押さえておけば、多くの不支給は防げます。
助成金の活用は、正社員化コース単独で考えるものではありません。たとえば、設備投資とあわせて賃金を引き上げる場面では業務改善助成金も選択肢になりますし、両者の関係を整理して使い分けることで、事業所の負担をより抑えられる場合があります。医療機関が業務改善助成金を活用する際の考え方については、医療法人・クリニックは業務改善助成金の対象になるのか?で詳しく解説しています。あわせて検討の材料にしてください。

最後に、大切な注意点です。キャリアアップ助成金は、年度ごとに支給額や要件が見直される制度です。この記事の内容は令和8年度(2026年度)の支給要領に基づいていますが、実際に申請を検討する際は、必ず厚生労働省の最新の支給要領・パンフレットで内容を確認してください。また、正社員の区分の設計、賃金3%の計算、就業規則の整備、加算・評価料の扱いなど、判断に迷う点は、思い込みで進めず、管轄の労働局や顧問の社会保険労務士といった専門家に相談することをおすすめします。制度を正しく理解して使えば、正社員化コースは、職員の処遇改善と事業所の人材定着を同時に後押しする、心強い制度になります。
